インバウンド事例

2018.06.22

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博多港はやはり日本における外航クルーズの先進地

事例のポイント

1
クルーズ船社と対話をしながらの柔軟な対応
2
港湾整備、クルーズセンターなどハード面の整備を強化
3
「クルーズNAVI」システムでの交通渋滞の解消&クルーズ商談会など寄港地観光多様化
4
FIT客への情報発信、フライ&クルーズでクルーズ拠点に

当サイト「やまとごころjp」では、過去最高なのに盛り上がらない?!クルーズ市場の実態をPart1〜3の3回で紹介。受け入れ側の課題や、寄港地の多様な魅力をFIT客に伝えられていない、市民との交流がないなどソフト面の課題などが浮き彫りになった。
そのうえで、中国発クルーズの創成期から対峙してきた「博多港」の取組は、目の前の課題に対して悪戦苦闘、努力してきた成果であり、良くも悪くも先行事例、先進性を感じる点も多い。他寄港地の参考になるポイントを紐解いてみよう。


▲訪日クルーズ船寄港数、全国トップの博多港


中国発クルーズ船を誘致、変化するニーズに対応してきた福岡市

2014年〜2017年と4年連続で外航クルーズ船寄港回数が日本で1位となった博多港。博多港の急進は日本のクルーズ市場に大きなインパクトを与えた中国発クルーズ船を創成期から集客してきたことによる。中国発クルーズにおいて福岡の地理的優位性は明らかで、上海発であれば4泊5日、天津発なら5泊6日と、中国人の休暇事情に適したショートクルーズの行程を組むことができるのも人気の一因だ。 


▲5月11日市役所ロビーでのシーボーン・ソジャーン

中国発クルーズの経緯を振り返ってみよう。
2006年ころから、コスタ・クルーズなど世界のクルーズ船社が上海に拠点を置き、中国でマーケティング開始し、クルーズ商品販売スタート。福岡市は博多港での対応や寄港地観光などについて、船社に寄り添い、提案と協議を重ねてきた。港湾の整備や岸壁での案内所の設置をはじめ、福岡中心部での歓迎幕や案内版の設置、中国語が話せるボランティアガイドを案内所や施設に配置するなど、福岡市内のまちづくり協議会や商業施設などとともに試行錯誤をしながら受入体制を充実させていく。


▲福岡市役所ロビーの案内所

この頃は、船社が船内で寄港地観光のオプショナルツアーを販売。福岡市役所のロータリーで、寄港地観光の団体バス乗客を乗降させて、中心部の天神の街を3時間ほど自由に回遊する姿がクルーズ寄港時の見慣れた風景であった。※この頃の様子に関しては、筆者の「九州コラム」を参照いただきたい

2011年の東日本大震災、その後の尖閣問題などで一時激減したものの、クルーズ旅行は中国人にとって手軽でコストパフォーマンスのよい旅行形態として認知され、人気が高まってきた。2013年ころから中国資本のクルーズ船社が登場、各船社も大型の船を中国市場に投入し、競争が激化。中国現地の旅行代理店が船社から船室を大規模に買い取る「チャーター」が急激に増えた。福岡での寄港地ツアーはクルーズ商品の料金に含まれ、福岡タワーや大宰府などの観光地と「コミッション(キックバック)」をする免税店や施設とを組み合わせたものが多く、天神など市街地での自由時間があるツアーは見られなくなっていった。

この頃から「免税店が多くて面白くない」「同じところばかりに行く」という中国人乗客の不満の口コミも散見、拡散されはじめていた。地元の市民からも「中心部の交通渋滞で困る」「クルーズ船がきているけど、限られたところにしか行っていないため、交流も少なく、経済効果も偏りがある」などの声も出て、負の側面も露見されるようになった。

これらの生じた課題に対して、ひとつひとつ解決策を見出し、福岡市が実施した過程そのものが、訪日クルーズの先行事例といえるのではないか。

 

世界の中のクルーズ拠点にハード面での整備強化

寄港がスタートした当初は「入国審査に時間がかかりすぎる」などもクレームも多かったし、港の不備を指摘する声もあった。

博多港では2015年5月に中央ふ頭にクルーズセンターが完成。CIQ(税関・検疫・出入国管理)棟には20の出入国審査ブースを設置し、乗客の利便性が急速に高まった。現在は、1時間〜1時間30分ほどで入国手続きが(or船の到着から入国までが)終了するようになっている。

中央埠頭のcruisecenter
▲中央ふ頭のクルーズセンター

2017年5月には中央ふ頭の桟橋を拡張し、16万トン級の船の受け入れが可能な岸壁が2つになった。さらに、2018年秋には,22万トン級の船舶受入も可能となる。物理的には乗客1万人規模を同時に寄港させることができる。

中国人客はほとんど寄港地観光ツアーに参加するため、バスが100台〜200台近く福岡市中心部にあふれることになり、渋滞問題も顕在化していた。そこで、福岡市は「クルーズNAVI」をスタート。「クルーズNAVI」とは、ランドオペレータが各観光スポットの駐車場利用時間などを事前に入力するもので、2016年3月から運用が始まり、2017年2月にリニューアルした。ツアー実施日の5日前から入力でき、予め定められた規定台数を超えると申請・入力ができない。少しずつ寄港地観光の行先も増え、交通渋滞はほぼ解消されている。

 

寄港地観光多様化を目指して

寄港地観光については、船社と現地旅行代理店に決定権がある。市街地を自由に周遊する時間がある団体バスツアー商品や送迎付きの「自由行」を造成してもらうための交渉も粘り強く行ってきた。

筆者も2016年に上海で開催された、ある船社の中国の旅行代理店、ランドオペレータを集めての福岡市の説明会に参加したことがある。クルーズ課担当者が福岡タワー、太宰府など従来の観光地以外の場所を紹介、また「自由行」を進めるため、そのために必要な整備などについて意見をきこうとした。参加者の反応は様々で、ある旅行社スタッフからは「私たちは、4000人全体の安全な寄港地ツアーを実施しないといけない。(「自由行」の)400人のために、大変な手間と労力がかかる状況がある」と難色を示されたことを思い出す。

現在では、コンシューマー側である中国人旅行者からのニーズの高まりや、船社側の意識の変化もあり、「自由行」商品やFITは増加傾向にある。


▲クルーズ商談会

中国人乗客への市街地への送迎付き自由行動プラン「自由行」商品は販売HPによれば,団体バスでのツアーより、5,000円ほど高いが、数%が利用する場合もあるという。天神で自由な時間を持つ寄港地ツアーに関しては、市役所のロータリーをバスの乗降場にして、ロビーに観光案内所を設置。必要に応じて,多言語サポーターによる案内やサポートを行っている。

今のところ中国人乗客が90%以上の中国発着クルーズだが、中国在住の欧米系や、上海発クルーズなどをめがけてくる世界からの旅行者も少しずつ増えつつある。

また、2日以上停泊する船も徐々に増加傾向にある。2018年は日本船もあわせて、18回ほど寄港する。県外,市外の観光地まで足を伸ばすなど,乗客がゆっくりと観光を楽しめる日程が組まれることが多いという。

福岡市主催で、ランドオペレータと観光施設や飲食店など市内事業者をマッチングさせるクルーズ商談会を3回実施。ランチの場所をはじめ、きもの着付けなどの体験プログラム、商業施設などで直に商談することで、多様な寄港地観光商品ができつつあるとともに、FITやクルーズだけでない商品への組み込みなどがすすんでいる。

 

世界の中のクルーズ拠点に

多くのトライ&エラーを繰り返してきた中で、下記が福岡にとって良い成果が得られたポイントと思われる。

①世界での知名度の上昇
クルーズ商品は、世界中で造成され、オンラインで紹介されている。これだけ中国発の商品が増えているため、「博多港HAKATA PORT」「FUKUOKA」の名前を知る人が増えた。世界に数多くある有名観光地から見れば無名とも言える都市のPRの端緒になっている。

 ②ラグジュアリー船の誘致
福岡市も2008年ころから「Seatrade Cruise Asia」などクルーズコンベンションに参加。船社に直接アピールするなどして、視察旅行なども行ってきた。商品造成には企画から2年ほどかかることもあり、ラグジュアリー船寄港が徐々に増えてきた。
2018年は「STAR LEGEND」「Seabourn Sojourn」など10隻程が寄港する。
船社は世界中に支社があり、取り扱うカテゴリーもさまざま。①の通り、中国発の商品により、船社スタッフが「博多港」を知っていることにより、誘致にいい影響が出ているという。


▲ラグジュアリー船のVolendamを地元のボランティアによる太鼓が歓迎

③フライ&クルーズの拠点に
福岡発着のクルーズ商品は、福岡に前後泊する滞在が見込め、日本人だけでなく、欧米豪を含めた世界のクルーズ客を集めることになる。
◎旅客ターミナル「クルーズセンター」を備えている
◎空港や海港,駅など交通結節機能がコンパンクトに集積している。
◎「カボタージュ」(外国船籍の船は、国内のみの輸送が行えず、国外での寄港を行う必要がある)の観点から、博多港は6時間程度で韓国・釜山などへの寄港ができ、4泊程度の短い行程を組みやすい。
といった利点が博多港にある。

九州管内(下関港を含む)のクルーズ船寄港総数は、2017年12月から5カ月連続で前年同月実績を割り込んでいる。「福岡、九州は、中国市場の安定化に伴い、これまでのような伸びは鈍化すると思われます。寄港地観光の質を高めるとともに、ラグジュアリー船などの寄港も促進する『量より質』を追求していく段階だと思っています。福岡で培った知識やノウハウは『福岡クルーズ会議(※)』等により日本全国の他自治体や受入先に共有し、日本全体のクルーズの活性化に貢献したいと思っています」と、福岡市クルーズ課の小柳課長(2009年当時福岡市上海事務所所長)は語る。


▲プールも完備したMSCスプレンディガ

政府は「訪日クルーズ旅客数を2020年に500 万人」実現に向け、総額7億円をかけ20の港での支援事業を実施を決定している。全国の港を、世界各国のクルーズ船が行き交うクルーズ大国へと日本が成長していくために、これまで率先して受け入れを実施してきた福岡が果たす役割は大きい。

※福岡クルーズ会議:福岡市が主催して、海外の主要クルーズ船社が加盟するクルーズライン国際協会(CLIA)北アジア等が後援する会議

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