インバウンド事例

2018.09.06

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里山の文化とアートで海外からの旅行者を魅了する「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」(後編)

事例のポイント

1
海外アーティストが滞在し、地域の価値を発掘
2
国境を超えたネットワークで自然にプロモーション
3
外国人ボランティアの活用
4
HPでチケットやツアー購入までワンストップで販売
5
車がなくてもオフィシャルやセレクトツアーで楽しむ

前編に引き続き、今回で7回目の開催となり、海外からの注目、ゲストを集めている「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の取り組みを紹介していく。どこにでもある田舎がアートで世界に注目されていく仕組みを探っていく。

 

自然、廃校、空き家地域の価値を掘り起こす

新作だけで170点以上、総計378点もの作品すべてを鑑賞しながらまわるのは、車で効率よくまわっても1週間はかかるのではないだろうか。車を利用しない場合は、交通アクセスが問題となってくる。そこで今回は、新作を中心に効率よくまわることができ、越後有妻ならではの食文化を味わえる昼食付きオフィシャルツアー2つが登場した。「シャケ川のぼりコース〜信濃川河岸段丘編」と「カモシカぴょんぴょんコース〜里山・土木編」で、どちらも越後湯沢、上越妙高と旅行者が宿泊の拠点としているターミナルから朝出発し、10ほどのスポットを巡って夕方に帰着する。

今回はホームページから予約して、「シャケ川のぼりコース」に参加。まずは、稲穂も実った美しい河岸段丘、棚田の風景に心奪われる。冬の豪雪に対応したかまぼこ型の倉庫や3階建ての高床式の家屋などガイドの説明をききながら、この土地の素晴らしさを体感していく。

アーティストはこの土地を訪れて、地域の人々と話しながら、その魅力をアートに仕立てていく。エリア全体では11あるという廃校、歴史を重ねた空き家などが、人々が利用していた昔とは違った形で活き活きと蘇っている。

 

▲絵本の木の実の美術館。130年の歴史を閉じた小学校を「空間絵本」として再生。絵本を読み進めるようにめぐっていく

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▲うぶすなの家。1924年築の茅葺き民家が2004年の中越地震で被災し空き家になったところを再生。うぶすなの家でのツアーのランチは地元の食材を使った料理が陶芸作家の器で供された。地元の方との会話も楽しい

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▲旧小学校に展開された大規模なインスタレーション「最後の教室」は心を打ち抜かれるインパクトで人気。「影の劇場」は今年の新作である。作家のクリスチャン・ボルタンスキーは十数回この地に足を運んでいる。英語と簡体字の説明も詳細に記されている

地域の人々の無料でのお茶サービスなどのおもてなしも各所で行われ、まさに地域に根付いた「お祭り」として来訪者も地域の人も楽しんでいる。

課題と今後広がる協働

芸術祭で賑わうこの里山も高齢化、過疎化の波にさらされ、厳しい状況にあった。このプロジェクトが立ち上がった当初、地域の人々は芸術祭に懐疑的で、総合ディレクターの北川フラム氏は、集落に2000回以上足を運んで対話や会議などを行う「2000回行脚」を経て、第1回の実施にたどりついたという。

第7回の開幕にあたり、約20年の歳月を経た現在の状況について、北川氏はこう述べている。「グローバル経済のなかで、個々の地域と大地は厳しい状況に置かれていますが、大地の芸術祭は芸術文化をもってそこに風穴をあけました。地域の特色をアーティストが発見し、その作品づくりの過程で地元の人たちと交流し学ぶこと、その作品を体感するために来訪者が地域を巡ることを主軸とした3年ごとのお祭りです。 地域の人たちが楽しみにする、労苦の後の祝祭であり、土地への誇りです」と語る。

「外国人」が旅する際の環境について着目してみよう。
少人数のグループなど個人旅行者で回っている外国人が多いが、オフィシャルツアーや半日のセレクトツアーに参加したり、タクシーやバスを予約したり、レンタカーで回るなど選択肢は多様にある。

標識もシンプルでわかりやすく、のぼりを道標としてたどり着くことができる。作品には英語のタイトルが付けられており、主要40作品には、日本語、英語、中国語で概要や写真や音声、文字で解説したオーディオガイドアプリ「ON THE TRIP」も今回から販売。MAPは英語と簡体字で販売されている。

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▲あちこちにつけられた標識と、作品に付けられた看板。いずれもシンプルでわかりやすい

芸術祭の事務局の一員であり、2008年に設立されたNPO法人越後妻有里山協働機構は、「大地の芸術祭」で生まれた作品や施設、プロジェクトを通年事業として運営し、越後妻有を魅力ある地域にしていくためにさまざまな活動を行っている。「大地の芸術祭」の里 越後妻有 春/夏/秋/冬 では、季節毎に2週間ほどの集中期間を設け、各施設での特別企画展やアーティストによるワークショップ、イベント、パフォーマンスなどが連動した大規模なプログラムを実施。特に、冬の「SNOWART」は雪景色とアートが融合し、その中心イベントの「雪花火」は5,000人を集めたという。これらの取り組みが周知されることで、海外からの旅行者もますます増えることが期待される。

また、十日町の「越後妻有現代美術館キナーレ」は年間を通して開館し、今回の企画展「2018年の方丈記私記〜建築家とアーティストによる四畳半の小宇宙 〜」では、日本の建築の最少モデルである「方丈」にさまざまな機能をもたせて提案し、それが里山だけでなく、十日町の中心市街地の活性化のための新しい提案になっている。

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▲キナーレの中心にひろがるレアンドロ・エルリッヒの「Palimpsest:空の池」は2階からみるとまた違う眺めに

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▲「asobiba / mimamoriba」井上唯 方丈記私記

周辺地域との協働もどんどん広がっている。越後湯沢の宿「HATAGO 井仙」のオーナーであり、雪国観光圏の代表理事である井口智裕さんに連携についてお伺いした。

「前回の2015年くらいから急激に外国人のお客様も増えたという印象があります。越後湯沢に宿泊されて芸術祭にお出かけになる方も多いですよ。宿泊だけでなく、越後湯沢駅前の雪国観光舎でのパスホートの販売や案内をしており、芸術祭に関しては外国人旅行者の方が多いほど。

芸術祭に関しては観光圏のホームページでも紹介していますし、私の宿では作品を存分に鑑賞していただくために、夜食付や翌日のおにぎり弁当付のプランを販売しています。雪国観光圏は『真白き世界に隠された知恵に出会う』という「雪国文化」をブランディングしているDMOですから、芸術祭のストーリーは連携しやすい。この時期はバックヤードからサポートを続けています」

どの地域にもまだ周知されていない価値があり、それを育むことが必要だと、「大地の芸術祭の里」の取組は教えてくれている。

(前編はこちら

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