インバウンド事例

2019.05.17

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【九州・宮城オルレ】自然の道を活かしたトレッキングでインバウンド誘致。韓国発祥の「オルレ」とは?

事例のポイント

1
自然の道がコンテンツ
2
コース基準があることで、訪れる側に安心感
3
言葉がわからなくても迷うことなく、自分のペースで歩ける
4
コース化することで、無名の地域にも観光客が訪れる

「オルレ」という言葉をご存知だろうか。スペインの巡礼路「サンティアゴ・デ・コンポスティーラ」に魅了された韓国の女性ジャーナリスト、徐明淑(ソ・ミョンスク)氏が、自身の故郷である済州島で開発したトレッキングコースのことだ。現在は海外3地域(九州、モンゴル、宮城)でも展開しており、韓国人をはじめ世界中の人々から注目を集めている。世界的な観光トレンドが体験型の「コト消費」へとシフトする中、日本におけるオルレはどんな可能性を秘めているのか。九州・宮城、両オルレの事例をもとに紹介する。

▲提供元:九州オルレ認定地域協議会事務局

▲みやま(提供元:九州オルレ認定地域協議会事務局)

 

韓国で人気沸騰、済州島発祥の「オルレ」とは?

済州オルレとは、2007年に韓国・済州島で生まれたトレッキングコースで、「オルレ」という言葉は「通りから家に通じる狭い路地」という意味で使われる現地の方言だ。現在、済州オルレには難易度の異なる全26コースがあり、舗装された道ではなく自然の道を使うことが設定条件となっている。また、コースの順路には「カンセ」と呼ばれる馬をモチーフにしたオブジェや、看板、木々に結び付けられた青と赤のリボン、道端や電柱にペイントされた矢印などで向かう方向が示されている。そのため、言葉のわからない外国人でも迷うことなく、自分のペースで歩きながら自然を満喫できるのが特徴だ。済州島では、年間訪問者700万人のうち約25%の観光客がオルレに参加するほど人気のアクティビティとなっている。

【コースの選定基準】

①子どもや老人、女性ひとりでも歩ける。(危険なコースを通らない)
②アスファルトをできるだけ避け、幅の狭い小道を主とする。
③コースにテーマや物語性がある。
④歩きでしか見られない景色や見どころがある。
⑤1コースの距離は15km前後。道草をしながらゆっくり歩いて8時間前後。
⑥始点、終点への公共交通がある。
⑦中間地点からのエスケープルートがある。(2キロ以内に駅やバス停がある)
⑧宿泊地から公共交通でいける。
⑨地域交流ができる。

 

海外初のオルレは日本の九州でスタート

日本では、2012年に済州オルレの姉妹版として「九州オルレ」が誕生した。2011年に九州観光推進機構がいち早くオルレの人気に着目し、旗振り役となって九州でのコース造成を推進。社団法人済州オルレの関係者を招聘して「九州オルレ」の可能性について協議し、コースの視察ツアーを実施するなど、積極的に取り組んだ。その結果、韓国から近いという地の利や、九州には自然のままの美しい風景が多く残っているという点などが後押しとなり、海外初のオルレとして認定された。4県(鹿児島、佐賀、熊本、大分)4コースでスタートした九州オルレは現在、7県21コースで展開している。

▲提供元:九州オルレ認定地域協議会事務局

▲平戸(提供元:九州オルレ認定地域協議会)

 

九州オルレの利用者は半数以上が訪日韓国人

九州オルレ認定地域協議会事務局によると、2012年2月から2018年3月までの約6年間で、日本人を含む延べ利用者数は37万5396人。そのうちの半数以上となる20万9165人が韓国人旅行者なのだそうだ。韓国の人気ブロガーや有力メディア、旅行会社などを招請して、認知度向上に努めてきた結果といえる。一方で、九州オルレへの来訪者はより一層の広がりを見せている。

同事務局の横山氏は「韓国のほかにもアメリカやフランス、マレーシア、台湾などさまざまな国・地域の方から問い合わせがありますし、日本国内からの来訪者も増加しています」と近年の状況を語る。オルレは日本国内においても知名度が上昇していることに加え、旅を通じてその土地の文化や歴史に触れたいと考える傾向の強い欧米人への訴求力も十分に備えているようだ。さらに横山氏は、オルレを始めたことで「日韓双方で多数報道され、九州の認知度向上につながりました。また、これまで観光地として認識されていなかった地域にも観光客が訪れる契機となり、民間レベルでの日韓交流の促進につながりました」と、その効果を語る。

▲提供元:九州オルレ認定地域協議会事務局

▲南島原(提供元:九州オルレ認定地域協議会事務局)

 

世界的な観光トレンドは体験型へ

先にも述べたが、世界的な観光トレンドは体験型へと舵を切っている。スポーツ庁が、中国(簡体字)、韓国、台湾、香港、アメリカ、タイ、オーストラリアの7カ国の訪日経験者2100人を対象に実施したスポーツツーリズムに関するアンケートでは、「日本でやってみたいスポーツ」で登山・ハイキング・トレッキングが3カ国で1位。このほか、観光庁の「訪日外国人消費動向調査(2017年)」では、「日本旅行でやりたいこと」の1位が「四季の体感」、4位が「自然体験ツアー」となっている。また、自然、アクティビティ、異文化体験の3要素のうち2つ以上で構成される「アドベンチャーツーリズム」の市場規模は49兆円とも言われるほど、世界の旅行者による体験型観光への興味・関心、さらには出資への意欲が急速に高まっている。

▲提供元:宮城県観光課

▲提供元:宮城県観光課


震災復興の姿、そして美しい自然を堪能できる宮城オルレ

そうした中、宮城県は済州オルレと業務提携し、2018年10月に宮城オルレをスタートさせた。同県は宮城オルレを通じて、東日本大震災の津波被害で減少してしまった沿岸部に観光客を呼び戻し、持続可能な地域経済を確立することを目標に、復興の姿や四季折々の美しい自然や文化を堪能できるコース造成に取り組んだ。

こうした思いから生み出されたコースは太平洋側の勇壮な海を望む「気仙沼・唐桑コース」と、日本三景松島を堪能する「奥松島コース」の2つ。同県観光課によると、2018年10月から2019年3月の6カ月間で7500人以上の旅行者が利用したという。そのうち、韓国を中心としたインバウンド旅行者は約400名となっている。観光復興推進班の國井氏は「今後はさらにコース造成を進め、オルレによって宮城県の周遊観光と滞在期間の長期化を図り、国内外の多くの方に宮城県を訪れていただきたい」と語る。

▲提供元:宮城県観光課

▲提供元:宮城県観光課

 

今回は、「オルレ」という統一ブランドのもと観光客を誘致する事例を紹介したが、オルレに限らず体験型の観光コンテンツを作ることは日本のあらゆる場所で可能だ。地域の人が当たり前に思っている自然や文化、習慣、歴史などでも、ブランディング次第では、インバウンドのみならず日本の他地域に住む人々にとっても魅力的に映るだろう。ターゲット国の人々の視点を熟知し、持続可能な地域経済の活性化を図る観光コンテンツ作りは、今後インバウンドを誘致する上で重要なポイントとなってくるのではないだろうか。

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