インバウンド事例

2019.07.01

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【福岡・グローバル人材育成】大学生を対象に「MICE☓グローバル人材」を育てる

事例のポイント

1
MICEに特化したプログラムを展開
2
座学だけでなくG20蔵相会議などで実践体験
3
大学生を中心とした若者対象
4
MICE関連企業とのマッチングも視野に

一般的な観光客よりも経済効果も高く、注目を集めるMICE。2017年に日本で開催された国際会議の件数は、前年比6.6%増の3,313件で、6年連続過去最高を記録するなど活況だが、人材育成が課題とされている。そんな中、福岡市と(公財)福岡観光コンベンションビューローは、大学生など学生を対象にしたグローバル育成人材事業に着手した。

 

▲外国クルーズ船寄港数日本一の博多港クルーズセンターでフィールドワーク

▲外国クルーズ船寄港数日本一の博多港クルーズセンターでフィールドワーク

 

学生を対象に総合的な研修プログラム

この事業が正式に発表され、募集を開始したのは今年の4月3日。2019年の4月〜12月の間、大学生などの学生で、英語でのコミュニケーションに積極的な人(語学のレベルは問わない)を募集し、次の3種の研修を行うというものだ。

①研修事業:MICEについて知見のあるビューローや民間企業の専門家などにより、福岡市の観光、MICE、国際プロトコールやマナー、おもてなしなどMICE業務で必要な知識をフィールドワークも含めて習得

②体験事業:6月8日〜9日のG20蔵相会議やラグビーワールドカップの関連イベントなどの会場で支援業務を行い、海外からの参加者とコミュニケーションをとりながらグローバルな感覚を養う

③マッチング事業:①②に参加した学生の中で、MICE業界に興味を持った学生とMICE関連事業者との交流会を開催

4月中旬の締切では、定員50名に対して約3倍の150名ほどの応募があるほどの盛況ぶりで、説明会をへてスケジュールなどが適合した学生123名が活動を開始することになった。

 

なぜ若者・学生に特化したのか

各地域や観光協会では、留学生を含めたボランティアが、MICEやスポーツイベントに従事する場合が多い。今回の実施では「学生」と対象が明確である。

その理由と事業の経緯を含めて、事務局のMeeting Place Fukuoka セールス&マーケティングディレクター・嶋田和泉さんにうかがった。
「過去のMICEイベントを通して、主催者の立場にたって行動し、参加者の方々とコミュニケーションをとりながら、臨機応変に対応できる人材が必要だと痛感していました。自分自身や他同僚もそうであるように、MICEの知識と経験を学んだり、世界と触れ合う機会が若い学生の頃にあると、将来への見え方も全く違ってくるのではないかと。今回の研修では、観光・MICEだけでなく、経済やIT、スタートアップ、情報発信などさまざまなジャンルの最新潮流に触れることができます。福岡で起こっている先進的な取組を直に見られます。例え、MICE業界に進まなくても、視野が広がり、キャリア形成や将来の仕事にきっと役立つものになると確信しています」

確かに、12月までに組まれた24のプログラムは、MICE・観光の専門知識だけでなく文化や食の多様性(国際プロトコールやハラルなどのフードダイバーシティ)をホテルやPCOなど現場の講師陣から学ぶ座学だけでなく、実際のMICEイベントに従事する体験とのバランスが絶妙に組まれている。受講料は無料で、学生でなくても受けたくなるような充実の内容だ。

▲積極的な学びの場となった全体研修

▲積極的な学びの場となった全体研修

カリキュラムは24コマで、最長で約190時間程度で、体験が2、実習が11、研修が11の構成だが、体験や実習のカリキュラムでは、学生によって履修時間が異なる。

「この事業の構想を始めたのは2018年の8月頃。プログラムの実施案や実施内容を練りながらも福岡市の予算約300万円が確保できたのは2019年3月末です。市内の大学や専門学校もグローバル化や国際コミュニケーション力の強化を目指している学校が多く、募集に協力的で、たくさんの学生が集まりました。1年生が多く、留学生も数名います。10個のグループに分け、スタッフがメンターにつきながら学生同士でコミュニケーションを取り合っています。自分とは異なる大学・学年・専門分野の学生とつながるということも貴重な経験になるのではないでしょうか」

わずか半年で事業実施にこぎつけたというという素晴らしいスピードと集中力。講師の依頼も3月末から始めて5月に確定させたとのこと。こうして、日本でもあまり例をみない若者人材の育成がスタートした。

 

現場の豊富な知見をたっぷり吸収

研修の一コマを取材したのは、まさにG20蔵相会議直前、本会議を担当している株式会社コングレの九州支社長の西村眞規子さんの回であった。PCO(Professional Congress Organizer)は、コンベンションの企画・運営専門企業のことであるが、MICEに関連していないと実際にはどんな仕事をしている知る機会は少ない。福岡には医学部をもつ大学が多く、医学系の学会が多数開催されるという動向紹介から、いかにMICEが運営されているか、都市のあらゆるコンテンツを活用するユニークベニュー、コンベンション誘致が長期にわたることなど福岡での事例を多用して紹介された。質問も次々に飛び出し、学生の意欲を感じさせる。

「私達が教えなくても、まず講師に講義のお礼を述べて、自分の学校名と氏名を言って、質問や意見を述べるという流れができています。応募してきた学生はそれだけ意識も高い」と嶋田さん。

福岡女子大学国際文化学科1年生の田中綾未さんは「将来はPCO関連の仕事に就きたいとも思いました。やりがいを感じながら、無理しすぎずに打ち込める仕事かどうか知りたい」と西村氏に直接質問をしていた。

1回の研修を終了したのちには、グーグルフォームにリポートを記入、体験研修への希望などもオンラインで入力するという方式でなされている。

 

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▲コングレの九州支社長の西村氏の話を熱心に聴き入る学生達

 

G20蔵相会議で体験研修

福岡市で初開催された6月8日、9日の『G20財務大臣・中央銀行総裁会議』には、英語でのコミュニケーションができる学生で希望者を募り、関連イベントを含めのべ180名が支援業務にあたった。具体的には、蔵相会議が開催されたヒルトン福岡シーホーク内での会場案内、G20記念土産品のPR・販売、ウェルカムレセプションでの英語などでのフォローを実施。関連する承天寺でのスペシャルおもてなしイベントで、誘導や屋台村運営補助、境内イベントの補助やキャンペーン企画のLINE端末案内、舞鶴公園での誘導などを行った。これらの体験研修は、通常入ることができない場所で実施されたという。

▲福岡市・九州経済連合会共催ウェルカムレセプションにて、地元老舗洋菓子店デザートをふるまう研修学生。もちろん英語でおすすめをする

▲会議会場ホテルロビーのインフォメーションに従事する研修学生・スタッフによる朝のブリーフィングの模様。観光情報を中心に英語で説明や案内を行った

▲会議会場ホテルロビーのインフォメーションに従事する研修学生・スタッフによる朝のブリーフィング。観光情報を中心に英語で案内を行った

 

実際に稼働した学生からは次のような感想があった。
「単に英語力をつけるだけに留まらず、どんな国の方にも寄り添える教養を身につけられるように精進したい」
「グローバルな舞台を目に焼きつけることができた」
「会場へ行くまでの厳重な警備をみて、自分がこのような舞台にボランティアとして参加できたことにとても喜びを感じた」
「1つの会議の為に、どのような人々が関わっているのかを知り得ることができた」
次回の大きな実地体験としては、9月末〜10月のラグビーワールドカップが待っている。

▲承天寺で開催された海外メディアの歓迎イベント。学生スタッフ2人も参加し英語で案内

▲承天寺で開催された海外メディアの歓迎イベント。学生スタッフ2人も参加し英語で案内


最後にはマッチング事業を実施

24あるプログラムのうちに16をうけると、この研修の修了証書が授与されることとなる。最後に開催されるMICE関連事業者との交流会・研修成果報告会で、マッチングも実施される。1年生も多いため就職だけではなく、インターンなど事業者との直接の結びつきができる場となる。

また、現時点でこの事業は2019年1年間の実施予定だが、本事業に参加した学生の中から希望者には、MICEや国際交流イベントなどの際にサポートを呼びかけられる「学生MICE人材バンク」のような活用が予定されている。

本事業が人材育成の先進事例になるのでないか。今後も期待をもって注目していきたい。

 

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