インバウンド事例

【ニッポニア】アフターコロナを見据えた地域づくりのカギは、増え続ける空き家の活用にある!?(前編)

2020.11.19

外島 美紀子

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新型コロナウイルスで社会が大きく変容する中、人々が観光に求めるものも変化している。「密を避ける旅」「自然」「癒し」「プライベートな空間」などを求める傾向は世界共通だ。人の多い都市部よりも田舎へ旅行したいと考える人が増える中で、受け入れ側の地方部が抱える大きな課題の一つが宿泊施設である。しかし、新型コロナウイルスで世界の観光業が直面しているように、大規模な宿泊施設の開発はリスクとの背中合わせでもある。ではどうすればいいか。その大きなヒントを持つ取り組みが、兵庫県丹波篠山市から始まったNIPPONIA(ニッポニア)である。今回はニッポニアの仕掛け人である株式会社NOTE代表取締役の藤原岳史氏に、空き家を活用した宿泊施設のつくり方について聞いた。

 

「古民家の活用」が地域再生のカギを握る!?

コロナ禍において世界的には注目されるサステナブル・ツーリズム。地方エリアで宿泊施設をつくる際にも、「持続可能であるか」は重点ポイントとなってくる。すなわち、お金をかけすぎずに、いかに魅力ある宿泊施設を整えていくかということであろう。そこでポイントになるのが、空き家の活用である。総務省が5年に一度発表する「住宅・土地統計調査」によれば、平成30年の空き家率は、846万戸と過去最高を記録している。地方の人口減少は今後も加速することが予想されるため、この数字は今後も伸びていくだろう。そんななか、空き家を宿泊施設として活用すればいいのではないかと考えた人たちがいる。

2009年に兵庫県丹波篠山市(2019年4月30日までは篠山市)で一般社団法人として発足したNOTE(ノオト)は、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」という理念のもと、地域に眠る歴史的な建築物の再生を通じた地域おこしの取り組みを行っている。

同法人は、長年、兵庫県職員や篠山副市長として行政の仕事に携わってきた金野幸雄氏とITベンチャー企業出身で篠山出身の藤原岳史氏の2人で始めたものであるが、現在は、事業を加速させるためエリア開発事業を展開する株式会社NOTEや、歴史的建築物を活用したエリア開発事業に携わる人材を育成するNIPPONIA大学などの複数の事業体となっている。

 

ニッポニアが参考にしたのはイタリア・ボローニャ

その中で、藤原氏は「地域に眠る歴史的な建築物の再生を通じた地域おこしに関する活動(運動)」を総称して、ニッポニアと呼んでいるという。その理由を次のように話す。

「僕らは単なる地域おこしをしているつもりはまったくありません。我々の理念にもあるように、古い歴史的な建物を起点にして、その土地の暮らしや文化という資源に光を当て、持続可能な事業として残していく運動体で、それを総称してニッポニアと呼んでいます。ちょうど1970年代にヨーロッパの各地で起きていた古いものを壊さずに活用しようという運動に近いんです」

藤原氏が例に挙げるのはイタリアの北部にある都市・ボローニャである。同市では1970年代よりティポロジアと呼ばれる都市再生手法が取られ、歴史的建造物が多数残る都心部を、保全的に再生していったという。

 

▲篠山城下町にあるホテルニッポニア

この手法の特徴は、単に歴史的建造物を残すのではなく、時代に合わせた活用を組み入れることで、そこで暮らす住民の生活も豊かにしていくというもの。このボローニャも参考にしたという藤原氏は続ける。「既に日本は人口減少時代に入っています。そのことに向き合わないといけない。それなのに、まだ新しいビルやマンションを建てようとする。法律的にそのほうが有利なので仕方ない部分もあるのですが、我々としては“それではいけない”という危機意識があるのです」

 

地域を支える産業として成り立たせるために必要なこと

2020年11月現在、ニッポニアとしての活動を行うエリアは、全国に約60(そのうち宿泊施設を伴うものは23)にまで広がっているが具体的にはどんな活動なのか。「エリアごとに異なる部分もたくさんある」と前置きをしたうえで藤原氏は次のように語る。

「エリア全体をマネジメントするのが基本です。まず地域に眠る古い空き家を調べていきます。そのうえで、全体の町づくりプランと建物の1棟ごとの特性を考慮し、事業体を決めます」。つまり、そこで営まれる事業がカフェなのか、工房なのか、宿泊施設なのかまで先に決めていくのだという。

「エリア全体を俯瞰して、ここには飲食店があるべきということを考えていく。そうしたランドスケープデザイン的な発想が必要なのは、1つの建物が再生されただけでは産業にならないからです」

町を面で捉えて、古民家をつないでいき、エリア全体を活性化させていく。そのなかで、核になるのが宿泊施設であると藤原氏。「街全体を1つのホテルに見立てていますので、ニッポニアの宿泊施設は、分散型ホテルが基本です。つまり街なかに点在する飲食店や文化体験施設、温浴施設、小売店などを回遊してもらうようにしています」

 

▲篠山城下町ホテルニッポニアのロビーには、昔の面影を残す釜戸なども残されている

 

 

由緒ある建物を活用している理由

たとえばNOTEの本拠地もある丹波篠山のニッポニアは、徒歩20分圏内に9つの宿泊棟を持つが、そのうち朝食会場があるのは1棟のみ。藤原氏は、その狙いについて、「あえて歩いて朝食会場まで来てもらうことで、街歩きを促すことができる」とする。

とはいえ、この丹波篠山は地理的に神戸から車で1時間程度、大阪からも電車で1時間半と、十分に日帰りが可能な立地にある。便利といえば便利であるが、地域側としては「宿泊してもらえない」という課題にもつながりやすいといえる。この課題を突破するには、宿泊施設の建物としての魅力も欠かせないのだと藤原氏は話す。

「立地的な難しさがあるからこそ、単純に空き家を再生するのではなく、地域でも由緒ある立派な建物を宿泊施設にあてています。たとえばフロント機能を持つオナエという宿泊棟は、明治期に元銀行経営者が建てたもの。なかに入るとわかりますが、すごく趣向を凝らした建物になっていて、ここで宿泊すること自体が体験になります。実際、客室は1つとして同じものがないので『104は空いていますか?』とピンポイントに予約してくださるリピーターのお客さまもいるほどです」

そのため、建物の趣きを損なわないよう、耐震性や防火安全対策、水回りはきちんと手を入れる一方で、梁や柱、違い棚、天井などは手を入れすぎないよう気を配っている。当然、手をかけすぎないことで、リノベーション費用の節約にもつながる。廃棄するものも減るため、環境への負荷も小さくできる。

実際に建物のなかを見ていくと、“宿泊施設”としては不要だと思われるようなものもそのまま残っている。たとえば床の間や違い棚、天袋などは、あえて残してある部屋もある。これは建物としての“味”を残すことで、この建物に泊まる理由付けを生み出すためだといえる。

 

▲客室には、元の建物にあった床の間や違い棚や天袋などが活かされている

 

地域との合意形成におけるポイントとファイナンスの重要性

こうした地域に残された魅力ある古民家を活用した地域再生事業においては、建物の所有者や地域住民との合意形成やファイナンスの仕組みが欠かせないのだと藤原氏は語る。

「当然ながら、地域を無視した再生はありえません。合意形成を進めるうえで大事なのは、時間がかかってでも、最小単位のコミュニティごとに向き合うこと。具体的には、学区単位や町単位ではなく、あくまで自治会(集落)と1対1で話をします。すると、最初はまったく情報を教えてくれなかったのに、数カ月、一年単位で関係性を築いていくと、あるとき空き家となっている古民家の所有者やその親戚を教えてくれたりと、協力姿勢を見せてくれるようになります」

自治会と向き合っていくとは、具体的にどういうことだろうか。
「まずは自治会長にきちんと挨拶をします。そのうえで、自治会にも参加させてもらって、会員のみなさんと直に話をしていきます。一方で、自治会総会や校区単位の会合から地域に入っていこうとするのはやめたほうがいいでしょう。どの地域にも、その土地ならではの事情や力関係があります。そのあたりの機微がわかっていないと、地雷を踏む可能性が高いのです。ですから、自治会を通して別の自治会を紹介してもらうということはせず、1つ1つの自治会と我々が、それぞれで1対1の関係性を築いていくことが大切なんです。とにかく時間がかかりますけど、結果的にはこれが最短距離を進めると思います」

ファイナンスも重要性についても藤原氏はこう続ける。
「もちろん投資(お金)は必須科目で、ここを間違うといくらよい事業でも破綻しかねません。ニッポニアでは1棟1棟でファイナンスを変えていて、しかも『この建物は宿泊施設として事業者に貸し出す』という判断のところにまで投資家や融資元に入ってもらっています。不動産投資では地価や不動産売買データをもとに融資を受けることもありますが、もっとシビアにしています。事業設計の段階で、非常に細かなシミュレーションを行って進めています」

後編では、藤原氏が古民家に目をつけた理由、そして全国に広がってきたニッポニアの仕組みについて聞いていく。

 

取材協力:ニッポニア 

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