インバウンド事例

【ニッポニア】古民家を活用した地域おこしニッポニアの原点と、全国への事業展開を可能にしている理由について(後編)

2020.11.20

外島 美紀子

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「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」という理念のもと、地域にある空き家を活用させながら地域おこしの取組を実施しているNIPPONIA(ニッポニア)。コロナ禍においても、これまでとは違った新しいユーザーや近隣の中規模都市からの利用者が増え、順調に稼動しているという。ニッポニアの仕掛け人である株式会社NOTE代表取締役の藤原岳史氏に、前編では空き家を再生させ地域で実施していく上で不可欠な考え方や進め方などを伺った。後編では、ニッポニアが事業として全国に広がってきた背景や、運営方法や仕組みなどについて聞いていく。

 

「このままでは生まれ育った町の文化が消えてしまう」という危機意識

そもそもなぜ藤原氏は、地域おこしや活性化の軸として「古民家」に目をつけたのであろうか。前編で「イタリア・ボローニャで1970年代に起きた運動を参考にした」と語っているが、原点は別のところにある。

「そもそも僕は、ここ篠山(2019年より丹波篠山市に改名)育ちなんです。高校までずっと篠山で育ちましたが、大学進学と同時にここを離れました。社会人になって、IT系のベンチャー企業にいて、上場という目標を達成したのですが、そのときにふといろんなことを見つめ直して、地元のことを思い出したんです」久しぶりに地元・丹波篠山に戻って、ゆっくりと街を歩いてみると、自分が住んでいた20年ほど前とはずいぶんと様子が異なっていることに気づいたという。

「町並みはもちろん、人、文化、雰囲気がどんどん変わっていっていて、今以上に変わってしまうと、この町の良さはまったく消えてしまうかもしれないと思いました。もちろん時代が変われば町も変わるのは当然のことなので、そのまま残すことはできないけれど、新しい価値観を混ぜながら、文化という本質はそのままにして、次の世代へと引き継いでいくためには、どうしたらいいだろうかと考えました」

そんな折に、昔からの知り合いだった江戸時代から続く饅頭屋の大将が紹介してくれたのが、後に一般社団法人ノオトをともに起ち上げることになる金野幸雄氏だった。「金野さんは行政のスペシャリストみたいな人で、県職員や篠山の副市長を務めてきた方ですが、僕がこんな課題意識を持っているという話をしたら、意気投合したんです」

 

 

ニッポニアの原点となった集落・丸山での成功体験

そのときに話したのは、「事業にしないと意味がない」ということであったという。
「人口が減るのに税金を使って昔のものを残すのは違う。それでは文化を守れません。やっぱり事業にしないと、持続可能なものとして、続けていくことはできません。我々が最初に取り組んだ集落・丸山でも、法令に基づく景観地区として保存するという方法もありましたが、それでは集落の暮らしそのものを守っていくことはできないだろうと考えました」

藤原氏がそう語る集落・丸山とは、丹波篠山の中心部から県道544号線を6kmほど北上すると見えてくる限界集落のことである。彼らはこの集落・丸山で、最初の成功体験を手に入れたという。それは、今から約10年前、藤原氏が金野氏ととともに一般社団法人ノオトを始めた2009年に遡る。

 

▲のどかな農村風景の中にある丹波篠山の丸山集落

 

「当時、集落には12軒あって、そのうち7つが空き家でした。美しい景観だけでなく、篠山城の城下町水源を守る“水守”としての役割を持っていたという文化背景も含め、この限界集落を残していくためにはどうしたらいいかを、地域のみなさんと話し合いました」ワークショップを重ね、研究者や役所職員の有志、さまざまな分野の専門家なども加わりながら、残された5世帯、19人の住民とともに決めたのが、空き家を宿泊施設やレストランとして活用することだった。

「集落丸山で始めたが、オーベルジュです。今は泊食分離形式になっていますが当初、食事は地産の旬の食材を取り入れた物を提供することからスタートさせました。宿泊は築150年という歴史ある古民家を貸し切りで使っていただく。加えて、里山ならではの体験を地域住民とともに楽しんでいただく。それが集落・丸山の事業です」

あくまで運営主体は地域に委ねている。必要以上のコストをかけないことで、持続可能な事業とするためだ。したがって、集落の自治会をそのままNPO法人化した。10年契約で一般社団法人ノオトと協力体制を築き、事業を行っているのである。興味深いのは、その稼働率と損益分岐点の考え方である。

 

 

▲当時4世帯しか済んでおらず、それ以外が全て空家になっていた小さな集落だった

 

「集落に住んでいるのは、いわゆる百姓と呼ばれるような人たちですから、農作業で手が回らない時期もあります。ですから、稼働率は50%を超えないようにしています。それで事業になるのかと疑問に思われるかもしれませんが、そもそも稼働率が30%でも黒字になる設計にしています」

実際、宿泊施設のなかを見ても、メリハリの利いたリノベーションを行っている。つまり、手を入れるべきところはきちんと直しているが、一方で、そのままの状態で使えるところはそのまま残してある。さらに、宿泊施設に近接した休憩所などは、手作り感にあふれている。こうしたところからも、無理なく続けられるということへの強い意識が感じられる。

 

ニッポニアという活動が全国に広がりつつある訳

2020年11月現在、ニッポニアとしての活動を行うエリアは、全国に約60(そのうち宿泊施設を伴うものは23)にまで広がっている。ちなみにNOTEのスタッフは約20人である。どのような仕組みで各地のプロジェクトを進めているのだろうか。

「組織体制としては、地域側に、ユニットプロデューサーとも呼ぶエリアマネージャーという人間がつきます。彼らのことを氏(うじ)と呼んでいます。江戸時代でいえば藩士ですね(笑)。たとえば出雲エリアとか兵庫県エリアといった感じで、地域ごとに担当者をつけています」「そのうえで、専門化として、プランニングチームとファイナンス・リーシングチームがいます。プランニングは、建築計画や町づくり、ランドスケープデザインなどを行うチームです。一方のファイナンス・リーシングは資金調達です。事業者の誘致も行います」

事業者の誘致を行うのは、NOTEは宿泊施設の運営自体には携わらないからだ。もちろんブランド管理などは行うものの、運営に関しては集落・丸山のように地域の事情をよくわかっている事業者に任せていくのである。

 

▲築150年以上の古民家を再生させた集落丸山のフロント

 

出勤義務がなく、どこに住んでいてもよく、働き方によって給与体系も異なる

そうはいっても、約30人のスタッフで60以上という地域エリアをカバーできるものなのだろうか。ちなみにこの約30人には、会社の管理部門も含まれているので、実際に地域と折衝を重ねる人材の数はそれよりも少ない。

「人が足りているかと言われれば、足りていません(笑)。もっとたくさんのエリアから、『一緒にやりたい』というお声がけをいただいていますが、待ったをかけているところもありますので。ただ、先に言った“氏”たちは、自分のエリアを持ちつつも、それぞれが自分の専門能力を活かして、別のエリアのお手伝いもする形を取っています。つまりエリアマネージャーと専門知識を活かせるチームの役割を兼任することで、少数精鋭でも、うまく組織をまわすことができているのです」

たとえば、元々金融機関で働いていた女性スタッフがいる。彼女はファイナンスに関する専門知識を持っているため、ひとつのエリアを担当する“氏”ではありながら、一方で、別のエリアのファイナンスもサポートするのだという。さらに、この“氏”はどこに住んでいてもいいという。つまり出勤義務がないのである。

「丹波篠山にある事務所に来ているのは、今日でいえば、経理管理担当くらいです。氏たちは、みんな東京、千葉、鎌倉、岐阜、福岡、出雲、静岡と、バラバラのところに住んでいます。月に1回程度、全社ミーティングがあるので、そのときには来てもらいますけど、逆に言えばそのときくらいしか集まらない。オンライン会議もできますから」

個人ごとに給与体系も異なる。
「それぞれの働き方も違うし、能力も違うので、そこは一人ひとりで給与体系は異なります。会社を起ち上げるのも自由です。実際に、今でもすでに20社以上の関連会社ができています」

 

▲NOTE代表取締役の藤原岳史氏

 

 

ニッポニアはホテルでもなければ民宿でもなく、あくまでニッポニアである

その理由について、藤原氏は次のように話す。
「たとえば九州の案件があったときに、すぐに九州で判断することが重要だと考えています。それを一つひとつNOTE本体で判断するとなったら、どうしても丹波篠山や関西の価値観で決めていくことになってしまいます。それだとその地域の良さを消しかねません。ですから『自分でやります』と言ったスタッフに関しては、会社にすることを推奨し、権限を与えていくのです」もちろん藤原氏も株主として参加するが、あくまで地域の声を尊重している。「エリアマネージャーは、NOTEのスタッフでありながら、その担当エリアの中では、経営者という顔を持って地域の方々と話を進めていく。そういう感じですね」

では、ニッポニアという冠を設けていることの意義については、どのように考えているのだろうか。藤原氏は、一つひとつの規模が小さくとも、それが集合体になって徒党を組んだときに、メディアやブランドとなっていくのだと語る。
「スペインに“パラドール”ってありますよね。古城や修道院などを活用した半官半民の宿泊施設網です。旅行者は、パラドールと聞いただけで、一般的なチェーンホテルとは違ったものを想像できます。ニッポニアは、それに近いと考えています。ホテルでもなければ、民宿や旅館でもない。民泊でもない。あくまでニッポニアという固有名詞であるということです」

人口減少社会に入った日本、それも特に高齢化や過疎化が深刻な地方エリアや集落では、これからますます古民家活用の可能性に注目が集まるだろう。今後のニッポニアの展開に期待したい。

 

取材協力:ニッポニア 

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