データインバウンド

京都の旅館インバウンド対応を調査 2019年は宿泊者の3人に1人が外国人、海外OTAの活用急速に進む

2020.09.09

刈部 けい子

印刷用ページを表示する



新型コロナウイルスの影響で、インバウンド需要は低迷しているが、ここ数年の訪日客増加を受けて、宿泊施設でもインバウンド対応が急速に進んでいる。そんななか、日本の伝統的なスタイルの一つともいえる旅館の実態はどうなのか。

京都市観光協会(DMO KYOTO)では、旅館を対象に2019年の1年間の受け入れ状況を調査した「京都市旅館稼働実態調査」を行い、その結果を発表した。なお同様の調査は、2015年にも行われている。2015年といえば、訪日客数対前年比47.1%増の1972万人と過去最高の伸び率を記録しインバウンドが注目を集めた年だった。調査結果からは、4年を通じた変化と共に現在の状況や課題も見えてきた。

※表・グラフ出典:京都市観光協会 京都市旅館稼働実態調査(2019年)

 

1.京都を訪れる外国人観光客概要と、ホテルとの比較からわかる旅館の現状

外国人観光客の2.5人に1人が京都に宿泊

京都市が発表する京都観光総合調査によると、2019年に京都市を訪問した外国人客は前年比10.1%増の886万人だった。なお、外国人宿泊数の実人数は、訪問者の2.5人に1人にあたる380万人、これに宿泊日数を掛けあわせた延べ人数は829万人にのぼった。

なお、観光庁が発表する宿泊統計によると、2019年は全国の外国人延べ宿泊者数が初めて1億人泊を超えたが、このうち京都府全体の外国人延べ宿泊者数は1200万人泊で、前年比伸び率は91.9%と全国一となり、府全体でみても好調に推移していた。

旅館には安定した需要

まず注目したいのが、京都市内108旅館における2019年の客室稼働率だ。67.6%と、全国平均(38.8%)や京都府平均(40.8%)を大きく上回った。とはいっても、市内主要ホテルの稼働率(82.3%)と比べると14%ほど低い。ただし、前回調査時(2015年)の稼働率(70.1%)からの減少幅は 2.5ポイントだったので、ホテルにおける減少幅7.0ポイントと比べると変動が小さい。市内宿泊施設の増加に伴う競争激化のなかで、旅館はホテルと比べると市場変化の影響を受けにくく、安定した需要に支えられているといえるだろう。

1/3の旅館で6割以上が外国人客

市内旅館の外国人比率は2015年を4.8ポイント上回る34.0%となった。京都府(14.3%)や全国(8.8%)の外国人比率を大きく上回り、宿泊客の約3人に1人が外国人という結果だ。

また、全体の1/3程度の施設(35.8%)で、集客の6割以上を外国人客が占めており、9割を外国人占める施設も10軒以上あることがわかった。現在は新型コロナウイルスの影響を受けて一時的に需要が下がっているものの、2015年からの4年間を見ると、京都の旅館にとってインバウンド市場の存在感が強まっていたことが分かる。

 

2.京都旅館の外国人客利用概況、日本人客との比較から見えること

韓国とフランスで旅館がホテルより2倍人気

インバウンド客の中でも多いのが中国で、宿泊者構成比では35.8%を占める。ついでアメリカ(11.7%)、台湾(7.2%)、フランス(6.9%)、韓国(6.2%)という順になった。

興味深いのは、韓国とフランスで、ともに市内主要ホテルの構成比より、旅館における構成比が2倍以上高いこと。中国や香港、オーストラリアでも旅館での構成比のほうが高く、京都では旅館というスタイルが受け入れられていると考えられる。

また、2015年調査と比較すると、旅館における中国の構成比は約5ポイント減少している一方で、市内主要ホテルにおける中国の構成比は11.5ポイント増加(19.3%→30.8%)した。中国市場の存在感は京都市内で増してはいるが、ホテルに宿泊する客が増え、旅館は中国以外の国や地域の宿泊需要を取り込んできた表れといえるだろう。

宿泊数は日本人の2倍

旅館での宿泊数を見ると、一般の日本人客の7割以上が1泊2日となっているのに対し、外国人客では2泊(40.7%)、3泊(39.6%)が多数を占める。この結果、外国人客の旅館での宿泊数平均(2.05泊)は日本人客(1.22泊)の2倍近くとなった。

外国人は素泊まりが4割、日本人は2食付きが4割

なお、旅館の売上の約7割(72.8%)は宿泊によるもので、次いで飲食が 17.7%を占める。日本人の一般利用客が朝夕食付を利用する割合は42.2%だが、外国人は素泊まりが42.0%、いわゆるベッド&ブレックファストと呼ばれる朝食付が34.8%で、朝夕食付は19.7%と、食事の利用率は低くなっている。

 

3.京都旅館のインバウンド対応の現状

海外OTA経由の予約大幅増、自社サイトや口コミサイトの利用は減少

外国人客の獲得に向けた取り組みについては、2015年を上回る約4割の施設が「積極的に取り組んでいる」と回答し、「取り組んでいる」と回答した施設もあわせると、全体の約8割が主体的に取り組んでいたことがわかる。

旅館の予約の際に外国人は、海外のOTA(オンライントラベルエージェント)経由で予約する割合が2015年から比べると大幅に増加(32.5%→53.4%)した。一方で、海外OTA以外を利用する割合は一律で下がっており、海外OTAを活用する流れがこの4年間で急速に進んでいることが見てとれる。

また、それに伴い、旅館側が活用する宣伝広告にも変化が出ている。この4年間でSNSを活用した情報発信が増えているほか、海外OTAへの有料広告を活用するケースが一定数ある。その一方で、海外OTA活用が進んだ影響か、2015年と比べると、自社サイトでの情報発信は減っている。なお、2015年との比較では口コミサイトの利用割合は減っているものの、オンラインを活用した口コミ対策(2019年調査で追加)は25%程度あり、口コミ活用は、対応の二極化が進んでいる可能性もある。

インバウンド受入環境整備は大幅増加、ベジタリアン対応も半数以上が実施

最後に、外国人の受入についてだが、2015年と比較すると、キャッシュレス決済導入、Wi-Fi 対応、外国語対応が出来るスタッフの採用(37.0%→60.6%)、ベジタリアン対応(23.9%→51.1%)等の項目で、インバウンドの受入環境整備を行っている施設の割合が大きく増加している。ベジタリアン対応がここまで増えているのは、旅館で提供される食事が和食中心でベジタリアンへの対応が比較的やりやすいとはいえ、トレンドをしっかりと押さえているからだろう。今後は朝夕食付き宿泊の良さもさらにアピールしていきたいところだ。

これに伴い、インバウンド受入の際のトラブルや問題点が2015年から比べると大幅に減少した。日本人客のトラブル発生状況と比べても、「ノーショーの発生」に限っては外国人のほうが10ポイント程度多いが、ほとんどの項目で日本人と変わらない結果だった。

中長期を見据え、今の段階でできるインバウンド対策を

日本の中でも特に多くのインバウンド客が訪れる京都の旅館では、インバウンド客向けの環境整備や、海外OTAの活用やSNSを使った情報発信などの集客対策を通じて、客室稼働率向上を実現していた。OTAの活用には手数料の高さといった課題もあるが、直接予約を実現している宿も一定数ある。

また、外国人客を受け入れることによるトラブルもゼロではないが、2015年と比べると大きく減少していることもわかる。現在は新型コロナウイルスの影響で先が見えない状況の中、キャンセル料については柔軟な対応が求められる部分もあるが、ノーショーやキャンセル料については、海外OTAなどを活用して事前決済すれば、トラブル回避も可能だ。

一般的に、ホテルと比較すると旅館はインバウンド客受入に難しさもあると言われるが、日本ならではの体験を提供できるという魅力もある。新型コロナウイルスの影響で一時的に需要は消失しているものの、インバウンド客の取り込みや平日や閑散期の利用も見込め、需要平準化にもつながる。中長期的な需要取り込みを見据え、今の段階でできることに取り掛かりたい。

最新のデータインバウンド