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消費増に大貢献、英国の経済効果を後押し スポーツ観戦する外国人旅行者

2021.11.08

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この夏行われたUEFA欧州選手権ユーロ2020で、コロナ禍にもかかわらずイングランドのウェンブリー・スタジアムに大勢の観客が集まって話題になったのを覚えているだろうか。欧州選手権やワールドカップを例に出すまでもなく、各国のサポーターが贔屓のチームを応援しに世界中へ出かける姿は当たり前のようになっている。特にフットボール(サッカー)発祥の地であるイギリスには、世界屈指のリーグであるプレミアリーグを観戦に訪れるインバウンド客が多い。しかも数だけではなく消費額も大きいことから、その経済効果にも注目が集まっている。

そこで、英国観光局(VisitBritain)は2019年に、外国人旅行者のスポーツ観戦についてアンケート調査を行った。その結果がこの度発表されたので、詳しく見ていきたい。

 

消費額も宿泊数も旅行者平均より多いフットボール観戦者

2019年にイギリスを訪れた観光客は3900万人だった。有名な観光地の多いイギリスだが、インバウンド客数としては、世界で10位。11位の日本との差は約700万人にすぎない。では、その3900万人のうち、フットボールファンはどのぐらいいたのだろう。イギリスを訪れて試合を観戦した人たちのデータは以下のとおりとなっている。

2019年にイギリスを訪問したインバウンド客のなかで
・全体の旅行者の4%にあたる150万人がフットボールの試合を生で観戦
そして、彼らは
・全体の宿泊数の5%にあたる1570万泊を宿泊
・全体の消費額の5%にあたる14億ポンドを消費
・全体の平均よりも3泊多い10泊滞在
・一人あたりの消費額は、平均(696ポンド)より31%多い909ポンド(約14万2000円)
・一日あたりの消費額は、平均(98ポンド)よりわずかに少ない87ポンド(約1万4000円)

これで彼らの全体像がおわかりいただけただろうか。計算するとインバウンド客の27人に一人がフットボールを観戦したことになる。宿泊数が平均より3泊多いからというのもあるが、一人あたりの消費額が観光客全体の平均よりも3割も多いという点に注目したい。なお、2011年に行われた前回調査と比べると、観戦者数は66%増え、消費額では84%も増えている。

 

観戦者数、総消費額共に圧倒的1位のフットボール

それでは、さらに詳しく下のグラフで見ていこう。イギリス発祥のスポーツは数多く、テニス、ゴルフ、ラグビーなどそれぞれ有名な大会が開催され人気も高いが、インバウンド観戦者が最も多いのはフットボールで、2位につけたクリケットより130万人ほど多い。総消費額でも2位のクリケットとの差は10億ポンドもある。なお、総宿泊数でも2位はクリケットだ。

数字を見るとフットボールよりはるかに少ないクリケットが、この3つのカテゴリーでいずれも2位というのもイギリスらしいと言えるだろう。2019年にクリケット・ワールドカップがイギリスで開催された影響もあるが、もともとクリケットは、インドやパキスタン、オーストラリアをはじめ、イギリスの植民地だった国々で特に人気が高い。 2018年の調査では、世界のファンの数は10億人、競技人口は1位のサッカーに続いて3億人いるとされる。

なお、フットボールを観戦したインバウンド客の4分の1ほどにあたる35万3000人が、フットボール観戦を目的にイギリスを訪れていた。その他38%の主たる目的は休暇、27%は親族や友人に会うため、そして6%はビジネス旅行中に観戦している。さらにスポーツ観戦目的でイギリスを訪れた旅行者のうち、62%がフットボールの試合を観戦したと答え、イギリスのスポーツツーリズムではやはりフットボールが一番人気であることが確認された。

 

一人あたりの消費額はゴルフ観戦客がトップ

次に、観客一人あたりの消費行動を見てみよう。先程、フットボール観戦者の一人あたりの消費額は平均の3割増しと言ったが、スポーツ別の1位はフットボールではなく、ゴルフだ。そのほとんどが、毎年イギリスならではのリンクスと呼ばれるコースで開催される全英オープンを観戦に訪れる人たちだろう。一人あたりの消費額が2100ポンド(約32万6000円)、一人あたりの宿泊数も16.3泊と一番多い。調査を行った年、2019年の全英オープンは北アイルランドのロイヤルポートラッシュで開催され、歴代2位の23万を超える観客を動員したという。同年にゴルフ観戦をしたインバウンド客は6万1000人いた。

全英オープンはチケットの入手が難しいことから、観戦ツアーも催行されている。たとえば日本からだと、2022年7月にセントアンドリュースで開催される全英オープンへの観戦ツアーがすでに発売されており、5日間の観戦コースで40万円台、スコットランドでのプレーを含めた10日間コースで約130万円などとなっている。ちなみに、これまたチケットの入手が難しいプレミアリーグのフットボール観戦ツアーは、6日間で20万円台〜といったものからある。ホテルのランクの差、イギリス国内の移動距離など一概に比べることはできないものの、費用の違いは歴然としている。

なお、スポーツ観戦者のなかで、全体平均より一人あたりの消費額が少ないのはモータースポーツのみ。スポーツツーリズムの経済効果の大きがわかるというものだ。

 

オフシーズンの観光客誘致にスポーツを活用

2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップでは、主に欧米豪からの観客が日本各地の試合を見るために長距離を移動したことがわかっている。イギリスでもスポーツ観戦に訪れた旅行者は、一般客よりも地方に足を伸ばす機会が多い。たとえばプレミアリーグの試合の場合、20チームのうちロンドンのチームが6つ、残りは北はニューカッスルから南はブライトンまで点在しており、特に人気チームのあるマンチェスターとリヴァプールへの訪問者数が群を抜いている。

それでは、彼らはどの季節に訪問しているのだろうか。イギリス観光のハイシーズンといえば4月から9月で、観光客全体でも、55%がこの期間に訪れている。一方、フットボール観戦者は10月〜3月の半年間に61%にあたる91万人が訪れている。プレミリーグの開幕が8月の第2週目の週末のため、夏休みシーズンは少なく、リーグ戦が盛り上がる冬場が多いというわけだ。昼間の時間が短い冬場は航空運賃、ホテル代なども比較的安く押さえられるのも魅力となっているのかもしれない。

なお、他のスポーツを見ると、クリケットやゴルフ、テニス、モータースポーツは7月〜9月に集中し、ラグビーは1月〜3月が40%と多い。ピークシーズン以外に観光客を誘致する目玉としてフットボールツーリズムが使えることがわかる。

最後に国別のフットボール観戦者数を見てみると、一番多いのは近隣のアイルランドの17万5000人、2位ドイツ(12万6000人)、3位アメリカ(11万3000人)となっており、この3カ国はインバウンド客全体でもトップ3の市場となっている。4位はフランス、5位はノルウェー、6位はオランダと欧州が並び、7位にオーストラリアが入った。

ナイジェル・ハドルストン観光大臣は今回の調査結果を受け、「我が国の国技であるフットボールは、世界最高峰のリーグでトップクラスのプレーを見ようと、膨大な数の旅行者を引きつけている。フットボール観戦者は旅行シーズンの閑散期に地域のレストランやパブやホテルなどを利用することで地域経済を活気づけるありがたい存在だ。今後も英国観光局やプレミアリーグと連携し、この勢いを維持したい」と話した。

 

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