インタビュー

2008.02.10

観光カリスマ 山田桂一郎氏③

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【スイスの観光の歴史】

もともとスイスの観光の歴史は浅く、昔は大した産業も無く、冬になると雪が多くて住む人も放牧農家くらいのものでした。この土地自体にそれほど興味を持つ人もいなかったのです。19世紀半ばに入り、ようやくイギリスの貴族やお金持ちがスイスの山の初登頂を目指したことがきっかけとなり観光が盛んになりました。しかし、この短期間でスイスは観光・リゾート地として大成功を収めることになります。当初、スイスはお金持ち向けの商売しかしていませんでした。それはある意味運が良かったのですが、お金も時間も含めて、モノの豊かさと贅沢を経験しているお金持ちが求めていたのは、心の豊かさだったのです。むしろ豪華な設備を用意できないスイス人にとって誇れるものは、普段そこに存在する美しい自然やありのままの生活だったのです。それらはロンドンのような都会には無かったものです。お金持ちに対して豪華さで対抗するのではなく、自分たちにとって一番大事だという普遍的で本質的な地域の魅力そのものと、素朴ではあったのですが、おもてなしの心で精一杯のサービスをしたというところが、観光・リゾートとして成功した大きな要因だと思います。

また、先程も説明をしましたが、観光に

よるサービスの質の高さ、そして、スイス国民の生活の質の高さが世界中の人々に伝わることにより、誰もが認めるスイスのナショナルブランドの担保となっているのです。だからこそ、時計や装飾品からチーズやチョコレート、製薬や金融商品までも、スイスの製品や商品は質が高いというイメージがあり、スイス国旗がついているだけで、世界中であらゆる製品や商品が売れていきます。

これらのことを見ていくと、雇用や賃金の問題にしろ、貿易の問題にしろ、解決策には「観光」を抜きには考えられません。となると、日本も今後はますます「観光」をまじめにやらざるを得ない状況だといえます。

Q3.山田氏の考える質の高いサービスとは何でしょうか?

【質の高いサービスを提供する意味】

観光にはサービスが付きものですが、果たして日本はどの程度のサービスを提供できるのでしょうか?東京のような大都市や一部の地域では本当のラグジュアリー層の顧客を満足させられるようなサービス提供ができるようになってきました。しかし、地方には、まだまだ足を再び運びたくなるような質の高いサービスを提供できているところは多くはありません。やはり、豪華さやモノで表現する物質的な豊かさではなく「心の豊かさ」の提供ができる質の高いサービスがなければならないのです。
サービスの大前提として、顧客を満足させることが基本にあると思います。私自身、旅館やホテルの再生事業に携わると、どの旅館やホテルの経営者もまずは部屋の稼働率を上げなければならないと言います。でも、そのためには何が一番重要かというとリピート率を上げることを優先する取り組みなのです。リピート率が上がらなければ絶対に稼働率も上がりません。どんな商売でも新規顧客だけを開拓して維持できる産業はないのです。そのために必要なことは、顧客がいつも心から満足するような質の高いサービスの提供を続けることです。そして、もう一度来たいと思わせることです。これができなければ、結局一時的な稼働率を上げることができても、決して長続きはしません。

【日本が提供できる豊かさ】

昔のスイスは豪華な装飾品や部屋、建物をお客様に提供することはできませんでしたが、お金持ちの持つモノの豊かさとは違う本質的な心の豊かさを伝えることで人々を魅了してきました。では、日本でも提供できる本質的な豊かさとは一体何でしょうか?お金をかけたからといって、必ずしも質の高いものが提供できるとは限りませんし、それ以前にそのものが日本の豊かさにつながっているのかというところがあります。その豊かさを提供するためには、私はどんな観光商品でも「地域性・個性・創造性」がないと売れないと思っています。

まずは「地域性」ですが、これはその土地の「らしさ」です。その土地でなくてはならないものや表現できないものです。その次に、その地域の事業者の方々が独自の「個性」を出せるかどうかになります。そして、付加価値を上げるためや、サービス内容の進化をさせるための「創造性」が必要になってきます。これら3つの要素を見れば、その商品やサービスが売れるか売れないかの説明がつくのです。ただし、いくらこの3つの要素があり、オンリーワンやナンバーワンのものだからといっても、お客様にその価値を認めてもらわないことには、買ってもらえませんし、来てもらうこともできません。

【口コミの効果】

昔は情報伝達の方法がほとんど無かったため、主に人から人へ伝えられる口コミが大きな役割を果たしていました。それはスイスでも大きな役割を果たしましたが、そこにはお客様一人ひとりを確実に満足させるサービスがあったからです。口コミをしてもらうには、ただの満足ではなく、本当に心から大満足してもらうことが必要になります。今は様々な媒体を使った広告や広報が可能ですが、それでも口コミによる効果には勝てません。有名なアマン・リゾートが約20年で16万人以上の顧客を獲得できたのも口コミだけです。

 

Q4.日本が訪日外国人旅行者数ばかり気にするのはなぜでしょうか?

日本が目先の数値ばかり気にしている原因として、国の長期的な計画が立てられていないということが挙げられると思います。だいたい日本が行う施策は3~5 年の短期的な計画ばかりで、50年、100年先を見据えた計画がなされていないというのが現状です。50年、100年先に国が目指す目的・ゴールがある中で、観光をどうしていくか、産業をどうしていくかというところから本来は考えなくてはなりません。長期的で明確な目的や目標が無いのに、中途半端な目標数値しかないということは、そこにたどり着くまでのプロセスをつくりあげることができません。たかだか、数年の短期的な計画しか立てられないのならば、目に見える結果を示すために単純な数値目標しか掲げられないのは当たり前のことです。
ヨーロッパの国々がそういった部分で強いのは、観光としての目的や目標設定だけではなく、その地域がどうあるべきかを考えた上で、長期的、中期的、短期的な段階に分け、施策が実行されているからです。しっかりとした理念や哲学が変わらずにあるからこそ、時代や社会、価値観が変わったとしても、途中でその変化に対応できる力があります。日本のようにたった数年後だけを目標にしても、その目標が達成された後、成功しても失敗をしても、次にするべきことが見えてこなくなってしまうのです。

Q5.日本が長期的な計画を立てられない理由は何ですか?

それは日本の理念、ビジョンがあまりにも抽象的でわかりにくいことだと思います。例えば、安部前総理のときに「美しい国、日本」という理念を掲げましたが、では美しい国とは何ですか?どのように美しい国なのですか?というところまで踏み込んでいっていません。それは地方の市町村でも同じで、例えば「笑顔の溢れる街」や「子供たちが誇れる街」と理念を挙げたところで、どうしたら笑顔が溢れるのか、どうしたら子供たちが誇れるようになるのかという詳細なところまでは誰も考えていないので、将来の明確な姿が見えてこないのです。明確な将来の目指す姿が想像もできず、見えていないということは、現状の認識も全くできていないということです。ゴールもスタートラインもわからなければ走り出すことはできません。 

Q6.長期的な計画を立てられないのは、何が原因だと思われますか?

おそらく、日本人の考え方の特性と、政府観光局・自治体の仕組みどちらにも原因があると思います。国や地域、組織としての長期的な目的や明確な目標が決まっていて、それが住民から支持されていれば、トップや担当者が変わろうと、その時々の状況に合わせた多少の変更はあったとしても、基本的には計画の通りに進みます。ただし、日本の場合、人が変わってしまうと、それまでの計画が白紙に戻り、また、一からやり直しをするという風になってしまうのです。 最近は、国としても、観光立国推進基本法のもと、閣議決定された観光立国推進基本計画ができています。観光施策については、これまでのやり方とは少しずつ変わってきていると思いますが、それでも、日本の国はいったいどこへ向かって進んでいくのかという根本的な部分はまったく明確にはなっていないと思います。

(Part 4へ続く)

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