インタビュー

2008.02.10

観光カリスマ 山田桂一郎氏④

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Q7.なぜ、人が変わるたびに計画が白紙になってしまうでしょうか?

それは、日本人の地域に対する愛着心が薄いことが影響していると思います。自分たちのこともわからないし、現状の認識がまったくできないので、理念も目的も目標もできないという先程の話と同じです。自分たちの地域を知らないのに愛着心が芽生えるはずがありません。 先進国の中で、義務教育課程の中に「地域学」がないのも、唯一日本だけです。「地域学」とは、その地域の成り立ちから学び、学年が上がるにつれて、自然環境、歴史、伝統、生活文化、町の産業構造の仕組みや税収の話などに広がっていきます。自分たちの地域を深く知る機会があるのです。日本も最近ようやく、総合学習やゆとり教育の一環でそういった授業を盛り込んでいこうという流れができてきているのでいいことだと思います。

 

Q8.「地域学」を教えるには、どのような人物が適任だと思いますか?

【地域学の取り組み】

実際、私のいるツェルマットではこの「地域学」を教えているのは教師ではなく、地元で働いている様々な職業の人たちです。皆さんがそれぞれの学年と内容に合わせて、その地域の歴史から、街の経済の成り立ちまでを教えています。自分たちの地域がどうなっているのかということを知ることにより、愛着心も出来、例え、一旦街を離れることがあっても、再び戻ってきてこの地域で商売を始めたり、より地域を活性化させるためにするべきことを一緒になって考えるようになります。子供の頃から地域があるべき姿を共有することができているのですごく強いと思います。日本も今はご当地検定がブームになり、地域学の研究等行われているようですが、結局は表面的なものが多く、もっと地元の方々が自分たちの地域を知るためにも、もっと地元へ落とし込んでいく必要があると思います。私の場合、全ての観光プロモーションはまずは内側から行っていくべきだと考えていますので、地域の住民、そして、子供たちにその地域の価値を見出してもらわなければなりません。そのためにも学校の教育課程の中に地元のツアー・プログラムなど組み込んでいけないかどうかなど、教育の見直しにも力を入れています。

【地域とボランティアガイド】

また、観光立国推進基本計画の中にボランティアガイドを倍に増やすという計画がありますが、それについても、年配の方のボランティアガイドだけを増やすのではなく、地元の子供たちに任せてみてはどうだろうかと考えています。これならば、子供たちに地域のことを知ってもらうことができますし、先ほど話したような流れに持っていくことが可能となります。逆に、年配の方だけでボランティアガイドを増やしたとしても、現在のように年金もきちんともらえて時間にも余裕があればいいのですが、これだけの社会と将来不安の中で、果たして同じ条件で高齢者の方々が将来に渡って対応できるのかという問題もあり、継続性を保つのは難しいと思います。

今、私が関わっている地域で観光満足度のリサーチをすると、実はボランティアガイドの評価だけがあまり良くないことがあります。これはボランティアガイドが自分の話したいことだけを優先して、お客様の立場に立ったサービスを提供できていないところに原因があります。お客様の満足度を優先せずに、自分の満足度を優先してしまっているのです。また、一つの問題として、ボランティアガイドの仕組みでは若い人材が入っていけません。これはエコツーリズムや環境教育の世界でも同じことですが、ビジネスとして若い人たちがお金を取れる仕組みにしていかなければ、地域として持続可能な形にはなりません。ただ、だからといって年配の方たちを追いやるというわけではなく、お客様の満足を考えるプロのガイドになっていただくか、もしくは、そういった方たちは名人、達人と呼ばれる知識が豊富な方々が多いので、若手ガイドを育成する講師のほうにまわっていただくといいと思います。

国がボランティアガイドを増やそうとしている中で、このような方向に持っていくことが出来れば、地域にとってもきっと良い結果を導き出すことができると考えています。

 

Q9.これらができれば「観光」を成立させることはできるのでしょうか?

そうです、これらのことができれば、世界遺産のような特別な資源がなくても「観光」を成立させることはできます。日本は幸い、歴史や伝統、文化や生活等、どこも地域特有のスタイルを持っています。必ずしも特別な資源が必要だとは思いません。どちらかというと、他とは違う異日常性が際立った生活文化のリアリティの方が重要です。たとえば、沖縄の離島のようなところは海がきれいだからという理由だけで人が集まっているわけではありません。なぜなら、同じきれいな海だけが目的ならば、もっと安くいけるグアム・サイパンへホテル付のツアーで行くはずです。では、グアム・サイパンではなく沖縄の離島に行く理由は何でしょうか。それは、その島に残る伝統や生活文化、自然環境、そして、それらのフィールドを活かした様々なツアーやプルグラム等はどれもリアリティに溢れ、他のどこにも無い商品であり、そして、そこに住む人々の豊かさに触れ、生活に憧れて行くのです。やはり本質的で豊かなライフスタイルが「観光」には大きく関わっています。

Q10.観光で成功している地域で出来ていることは何でしょうか?

まずは、住民が自分たちの地域を誇っていることです。そして、中にはいろいろな問題を抱えながらも外に向かっては一枚岩に見えるほど地域が一体となった行動をしています。
それは地域内の「エゴと利害」を自分たちで乗り越えているからです。つまり、個々が自己最適化を図り、独りよがりにならずに、地域全体としての運営ができるということです。地域内の連携ができているので、観光としても付加価値の高い商品をつくることもできます。何事も、個々でやるには限界がありますが、連携先が増え、仲間が増えるほど、アイデアも含めて付加価値が高まります。例えば、地産地消を進めるにしても、観光事業者だけでは限界があります。やはり、地元の農業や漁業、商業の方たちや様々なアイデアを出す人達と連携したほうが良い商品が生まれます。そして、その価値の高さで客単価を高めることもできるのです。

Q11.ではその地域のまとめ役を誰が担うのが理想的でしょうか。

基本的には民間ですが、今の日本の現状として、民間事業者だけでは難しいというところがあり、ある程度は行政のお手伝いが必要かと思いますが、そのためにも、大事なのはやはり現状認識だと思います。例えば、利害があってまとまらないならば、実際、どう利害があるのかを明白にするべきです。多くの人は自分の地域内の噂や思い込み等の誤った認識でしか物事を考えていないことが多く、実際にどこまで本当に利害があるのかを正確にとらえていません。だからこそ、そこに現状を明白にした答えを導き出すことが必要です。

そのために私がよくやるのは「お金・モノ・人」の調査です。地域内と外とのつながりを「お金・モノ・人」の動きから調べるのです。この結果で、お互いがビジネス上でどう関係しているか、地域としても何が地元にとって貢献度が高いのか等がはっきりとわかります。これが分かった上で、今度はお互いに協力することによりメリットを双方に生み出す仮説を立てて、それを実証することです。

Q12.それを実証させるためのデータはどのように収集しているのでしょうか?

世の中で発表されているデータには信用できるものもあれば、信用できないようなデータも存在します。その部分については、公の正確な数字を使うようにしています。もちろん、地域によっては個別で改めて調査をする場合もあります。

正確でないデータといえば、観光の入れ込み数があります。場所によっても調査方法がバラバラで、毎日実施しているわけでもなく、正確なカウントとは思えません。また、その数字だけでは本当に観光地として活性しているかどうかもわかりません。 それよりも、観光地としての繁栄と衰退を見るのならば、観光は流行れば流行るほど人手が必要になりますので、産業構造の中の人口比率の中に、サービス業と商業人口が増えるはずです。その次に観光が流行ると増えるのは社会人口です。つまりIターンやUターンに拍車がかかり流入人口が増えるのです。このサービス業・商業の就業者人口の増減と社会人口の増減を見れば、観光地として伸びているのか落ちているのかがはっきりとわかります。しかも、この数字は国勢調査ですから信用できます。

※参考資料
商業・サービス業人口の増減と社会人口の増減

商業・サービス業人口の増減と社会人口の増減
(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)

(Part 5へ続く)

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