インタビュー
Q3. 10月に観光庁が設立されますが、それに期待することは何ですか?
「観光」というものはあらゆる省庁が関わっています。例えば、修学旅行は文部科学省、エコツーリズムは環境省、グリーンツーリズムは農林水産省、産業振興として街の活性化に取り組んでいるのは経済産業省、というように、「観光」に対しては様々な省庁が関連しており、観光庁設立によりこれらを横断的にまとめることができるようになると思います。
実際に観光庁ができてからの官と民のそれぞれの役割についてですが、やはりプレーヤーは民間であり、それをサポートするのが官の役割として、うまく連携していくことが重要だと思います。また、「官」の中には自治体も含まれますが、最近では自治体もきちんと観光部署を設置するようになり、観光産業への取り組みを強めてきています。人口の減少により、交流人口を増やすことで街を活性化させようとしています。しかし、これまでの日本は経済ばかりに目がいっており、街の景観を守ろうとしてきませんでした。そのため、まだまだ改善するべきことがたくさんあります。
国からの助成金等のサポートもありますが、それだけに頼らず街が一体となって、それぞれのオリジナルを生かせるよう努力していく必要があるでしょう。
Q4. 業界では2020年までに訪日旅行者数2000万人にするという目標がありますが、それに向けての課題をどのようにお考えでしょうか?
まずは、今の日本の観光というのは、日本人のためだけの観光と言えると思います。これまでは日本人の国内旅行者に向けた観光ばかりで、外国人を受け入れるという姿勢がありませんでした。そのため、ようやくインバウンドに力を入れ始めたとはいえ、外国人を受け入れるという体制への変換はまだまだだと思います。例えば、日本の宿泊施設は一泊二食付きというスタイルが多く、これでは行動範囲が狭くなってしまいます。これを泊食分離にし、食事は外で取ってもらうようにすることで、街全体でお金を使ってもらうようになり、長期滞在的な街へと変わっていきます。
また、旅行会社の全国に広がる店舗においてインバウンドに取り組んでいないということも一つの問題です。地域の外へ連れて行くアウトバウンドの仕事はありますが、外から来る観光客に対するインバウンドの仕事をしているところがほとんどないというのが現状です。まだまだ業界の中でもインバウンドに対する知識が浅く、これまであまり深く取り組んできていませんでしたが、ようやくインバウンドへの切り替えをしようとしているところだと思います。
私は入社当初インバウンドの仕事に携わっていため、インバウンドは私の学び舎でもあり、その苦労もよく知っています。現在の旅行業界はインバウンドのことをよく知らない方が多いのですが、私から言わせてもらえば、「インバウンドを知らずして、旅行業界を語るべからず」と思います。インバウンドは非常に重要であり、経済ばかりに走ってきた日本にとって、日本を理解してもらうことは、本当の先進国になるための条件だと思います。また、国内消費が減少する中、日本を活性化させるための起爆剤でもあります。そのため、もっと力を入れてインバウンドに取り組むべきだと思います。
Q5.この課題を解決するためには何が必要でしょうか?
国だけに頼らず、民間も自ら動かなければならないと思います。頼ってばかりでは何も問題は解決しません。己の強い意思を伝えることが必要だと思いますが、そういう意味では人材育成は非常に重要だと思います。私は大学で講演を行ったりしていますが、学生へ観光や旅行業界の話をすることで、観光に対する認識を深めると共に、観光を学問としてさらに成長させる必要もあると考えます。最近大学では観光学部が増えてきていますが、必ずしも観光・旅行業界と大学の観光学部が結びついているとは言えません。これはまだ観光学部に対する世間の認識が薄いということだと思います。
自治体が観光に力を入れ始めている今、その地域にある教育機関を含めて、地域を盛り上げていく必要があると思います。官と民だけでなく、学も含めた3つの連携が、今後の観光を盛り上げていくポイントになるでしょう。
その際には必ず地域を愛する人々の存在が必要であり、地元の人々が中心となって地域の活性化に貢献する必要があります。
Q6.舩山氏のお考えになる日本の魅力とは何でしょうか?
1つは、日本固有の伝統文化だと思います。そして、2つ目は日本の自然。3つ目は日本人の持つホスピタリティだと思います。これら3つが日本の魅力であり、まだまだ世界中から人々を呼び寄せることが可能だと思います。また、本当にいい場所というのは、その土地の自然とそこに住む人々の暮らしの調和がとれているということです。これらを満たす地域は日本にはまだたくさんあり、日本もまだまだ捨てたものではないと思います。
Q7.舩山氏のお考えになる「観光立国」とは何でしょう?
観光立国とは、人々が行き来し、交流を深めることでお互いを理解し、学び、そしてそれぞれの土地へ敬意を示すということであり、一つの国民運動的なものだと思います。国民全体が観光立国への意識を高めていかなければなりません。また、観光とは「国の光を観る」ということですが、観るだけでなく相手にも「国の光を魅せる」必要があります。そういった意味でもインバウンドは非常に重要なことだといえます。
Q8.「民間外交官」として活躍される通訳案内士の方々へメッセージをお願いいたします。
もともと私は通訳ガイドの方のアサイメント業務に携わっていため、私自身通訳ガイドの方への数少ない理解者だと思っています。ですので、通訳ガイドの方の御苦労も理解しております。まずは、職業として安定的に仕事を供給するための問題を解決しようとしているところです。
もしインバウンドに本腰を入れるのであれば、本当にその地域だけの専属のガイドをつけるべきだと思います。やはり本当によいサービスを提供するためにはその土地をよく理解し、経験の多いガイドがいいと思います。もちろん観光はシーズン的な要素が強いため、一時雇用の方が楽なのですが、よいサービスのためにも、地方は多少の投資が必要でもやるべきだと思います。
ガイドの仕事はまだまだ仕事の供給面では難しい部分がありますが、とてもやりがいのある仕事ですので、ぜひとも頑張ってもらいたいと思います。
Q9.仕事を続ける上で必須条件である心身の健康キープ法についてアドバイスをお願いいたします。(取材にご協力いただいた通訳案内士高宮暖子氏からのご質問)
健康法は、絶えず目的を持つことだと思います。私は朝起きると必ず、今日はこれとこれをやる、と心の中で決めます。だらだらと生きるのではなく、一日一日何をするのかという明確な目的を持つことでメリハリのある生活を送ることができます。ですので、私は常に自分の人生を時代区分することができます。いつ誰と何をしたのかということをすぐに思い出すことができ、自分の人生を振り返ることができます。また、一緒に歩んでいく仲間たちを大切にすることも重要です。一緒に大きな目標に向かって進んで行くことはやはり楽しいものだと思います。
Q10.今後の抱負をお聞かせください。
少しゆっくりしようと思っています。実は社長引退後の会長時代も兼任の役職や講演等で絶えず忙しい日々を送っていました。その会長職も引退したため、少し楽になるかと思います。ただもちろん今後も業界のステータスを上げるために、できる限りのことはしたいと思っています。例えば、先ほどあげたよい会社のための3つの条件であったり、旅行業の苦労や面白さを伝えていくことで、よりこの業界を活性化させていければと思います。
取材へのご協力誠にありがとうございました。
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