インタビュー

2018.12.19

観光危機管理の第一人者 高松正人氏に聞く、インバウンド向け災害対策の最前線 〜相次ぐ災害に見舞われた2018年を振り返る~

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2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、訪日客数の増加により一層弾みをつけるべく、官民共に多くのインバウンド施策が推進された2018年。一方で、西日本豪雨や大阪府北部地震、台風21号、北海道胆振東部地震など、数多くの大型災害に見舞われた1年だった。今回は、日本の観光危機管理の草分け的存在である、JTB総合研究所の高松正人氏に、災害時のインバウンド対応やそこから浮き彫りになった課題、さらには観光立国を目指す日本が心がけるべき観光危機管理について伺った。

 

危機管理で大切なのは「減災」という考え方

危機管理を行っていく上で大切なのは「減災」という考えです。減災とは「災害が発生したときの被害や影響を小さくおさえること」という考え方です。事前に大きな被害の発生が予想できる場合、この考えに基づき、その地域に人がいない状態にすれば影響を受ける人がいなくなります。一つ例を見てみましょう。9月に上陸した台風21号により、関西空港は大きな影響を受けました。その際、大型台風が上陸することを見越して、もっと早いタイミングで空港ビルを閉鎖し、空港島内に旅客がいない状態にできていれば、あのような混乱は生じなかったのではと思います。台風が通過して、航空機の運航が再開するまで旅客を空港内で待たせているうちに、タンカーが連絡橋に衝突。橋が通行止めになったことで、利用客を空港の外に避難させることができなくなってしまいました。これは、危機管理が十分機能していなかったことがもたらした結果ではないかと思います。

なお、アメリカの例を挙げると、昨年ハリケーン「イルマ」がフロリダ州に上陸した際、州は、住民や観光客を含む630万人に避難命令を出しました。日本では強制力のない避難勧告や避難指示しか出しませんが、アメリカでは強制力のある「避難命令」を出している点が大きく異なります。

フロリダ州の事例と比較すると、関西空港の対応はきわめて対照的です。

 

災害時の「帰宅支援」計画を事前に準備

台風やハリケーンは、規模や通過する進路を事前に把握できるため、対策が可能ですが、突発的に起きる地震などは、その場に人がいない状態にするという方法での「減災」に限界があります。災害によって帰宅できない旅行者が滞留した場合には、「帰宅支援」を検討します。

関西空港では、空港内に取り残された旅客や空港職員を高速船で神戸港へ運び出したり、連絡橋の破損していない片側車線を利用して、バスで搬送したりしました。これがいわゆる帰宅支援なのですが、今回の対応状況などから推測するに、事前にマニュアルなどで帰宅支援を計画していたのではなく、多数の滞留者が発生した後に、帰宅支援を考えたのではないかと思います。起こりうる状況を予め想定し、防災計画の中に組み入れておけば、もっとスムーズに帰宅支援ができていたと思います。

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観光分野の危機管理では、外国人も含めた旅行者がどのような情報を必要としているのか、どうしたら早く帰宅させることができるのか、この2つの仕組み作りが欠かせません。そのため、災害が起きてから「リアクティブ」(受動的)に行動するのではなく、あらかじめ計画に組み入れ、「プロアクティブ」(能動的・積極的)に危機管理を準備することが大切です。

 

災害が起きた時、外国人観光客に正しい情報を伝えるには

災害にあって不安を抱えている外国人には、正しい情報を伝えることが重要です。例えば6月に起きた大阪北部地震の際には、安全確認のために関西の電車や地下鉄が一斉に運休しました。外国人には何が起きたのか、いつ復旧するのか、行きたい場所へはどうやって行けばいいのかを聞く相手がいませんでした。情報発信においては多言語化が重視されていますが、それよりも現場にいる人たちが外国人に、どこで情報が得られるかを教えることの方が重要です。特に今は世界中のニュースが即座にインターネット上で公開され、誰でも閲覧できる時代なので、母国語のニュースへと誘導することで、細かい情報まで把握してもらうことが可能になります。

 

自治体は地域防災計画の中に観光客を組み込む必要がある

観光立国を目指すからには、国は災害が起きた時に外国人を含む観光客の身を守る体制を整える必要がありますし、自治体は地域防災計画の中に観光客を組み込まなくてはいけません。実際、定住している外国人への対応は、地域防災計画の中に組み込まれつつありますが、多くの自治体で訪日外国人はまだ防災の対象に入っていません。例えば、北海道地震の時には地震が起きて3日も経っていない段階で、「これ以上観光客の避難者が来ると、避難所で備蓄している非常食が足りなくなる」という問題が生じているとの報道がありました。おそらく、自治体では避難者の数を定住人口だけで数えていたのではないかと思います。今の地域防災計画は、その地域にいる住民を守るということをベースに作っているので、そこに観光客が加わった時に、計画通りにいかなくなってしまいます。

それでは、どのようにして自治体が防災計画の中に観光客に組み入れていけばよいのか、後編で詳しく説明していきます。

 

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JTB総合研究所 観光危機管理研究室長 高松正人氏

1982年にJTBに入社。2001年にツーリズム・マーケティング研究所(現JTB総合研究所)設立以来、観光専門家として国内外で幅広く活躍。現在は、日本における観光危機管理の第一人者として、沖縄県をはじめ国内外の観光危機管理や観光復興関係の業務、観光地の災害対応マニュアルづくり等に数多く関わる。
著書『観光危機管理ハンドブック(朝倉書店)

 

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