インタビュー

コロナ禍でも予約数3倍 「なにもない」を観光資源に変える、ニューノーマルな旅のスタイルを目指すカーステイの挑戦

2020.11.24

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「誰もが好きな時に、好きな場所で、好きな人と過ごせる世界をつくる」というミッションを掲げる、Carstay株式会社。新しい旅と暮らしのライフスタイル「VANLIFE(バンライフ)」をテーマに事業展開するスタートアップ企業です。

今回は、コロナ禍の最中で観光のあり方が大きく変わるなか、ピンチをチャンスに変えてきたCarstay株式会社に注目。観光という側面でどのように地域と連携し新しい価値を作ってきたのか、その取り組みを紹介します。

 

密を避ける「バンライフ」の浸透で、持続可能な観光を目指す

—まず、Carstayが手掛ける事業について教えてください。

わたしたちは、車を居場所に、好きな人と好きな場所へ移動して過ごせるライフスタイル「バンライフ」を体験できるプラットフォームをつくっています。2019年1月に始めた「カーステイ」という事業は、車中泊する駐車場を探すゲストと、空き地をシェアしたいホストをつなぐスペースシェア。6月に本格稼働した「バンシェア」は、キャンピングカーやバンを持っていないけど乗りたいドライバーと、乗らないときに貸し出したい車の持ち主をつなぐカーシェアです。車版のAirbnbみたいな事業ですね。

「カーステイ」と「バンシェア」はマッチング手数料をいただいて運営しています。もうひとつは「バンライフ」に興味がある人向けのWebメディア「VANLIFE JAPAN」の運営です。

▲バンシェアで貸し出している車は、ハイエースからキャンピングカーまで多岐にわたる

 

インバウンド客のガイドを通じて気づいた日本の地方の課題と可能性

—では、創業のきっかけについて聞かせてください。

2014年、“訪日外国人に忘れられない体験をプレゼントする”をコンセプトにNPO法人SAMURAI MEETUPSを立ち上げ、4年間でのべ1,200人の訪日外国人を地域でガイドしてきたんです。その活動中に感じていたのは、訪日回数が多いリピーターほど「宮下さんおすすめの温泉」とか「キャンプできそうな静かなところ」などと、訪れたい場所がどんどんニッチになること、そのような場所のほとんどは、公共交通機関でたどり着くのが難しいことでした。

そういったニーズはレンタカーやカーシェアで満たされていると思っていたのですが、調べてみるとまだ訪日観光客の方が気軽に車を借りられる仕組みがないし、観光客が事故を起こしたときの保障面などに課題を感じました。そこで、訪日外国人が、よりディープな日本の魅力に触れられる、お守り的なサービス自ら手がけようと決めたのが創業のきっかけです。

創業当初は、完全にインバウンド向けのサービスを想定して英語対応も進めましたが、進めていく中で、国内にもニーズがあるサービスだと気付きました。国内外問わず、多くの方に使っていただきたいですね。

また、訪日外国人を地方に案内する中で、「地方になかなかお金が落ちない」という課題も感じていました。素晴らしい風景に出会っても、お客さまが写真だけ撮って日帰りしてしまう。花火大会を催しても、宿が足りなくて隣町に泊まってしまう。持続可能な観光を実現するには、地域に人を呼ぶだけでなく、その地域が経済的に潤うことも必要だなと思ったんです。

 

「カーステイ」「バンシェア」で地域活性化を目指す

—そこで「カーステイ」というサービスが生みだされたんですね。

そうですね。車中泊を希望するゲストと、キャンピングカーやバンの駐車スペースをシェアしたいホストをつなぐサービスです。実は宿泊を伴う旅の場合、食事や入浴、アクティビティなどで一人一泊あたり約5000円のお金を使うと言われています。ただし、宿泊客を呼びたいからと宿を一から建てるのは勇気が要りますし、車中泊でも滞在さえしてもらえれば地域にメリットがあるんじゃないかという仮説を立てました。

—その後、キャンピングカーやバンのカーシェアサービス「バンシェア」ですね。

実は、キャンピングカーは国内に200万台あり、毎年6000~8000台売れているんです。キャンピングカーを宿泊施設とみなせば、最大200万室のホテルが全国の駐車場で眠っている。可能性を感じましたね。特に今年は、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが浸透し、「キャンピングカーやバンで旅行もするし、仕事場にもする」という現象が起きて販売台数も増えているそうです。海外特にアメリカなどでは、バンライフがライフスタイルのひとつとなっていますが、これを機に日本でもバンライフへの関心が高まるチャンスです。

なお、2020年10月現在、カーステイできる場所は全国に230カ所、シェアできるキャンピングカーは75台準備あります。

▲キャンピングカーは電源も完備されているので、気兼ねなくパソコン作業もできる

 

サービスを通じて空きスペース活用やコミュニティ形成など新しい価値を提供

—「カーステイ」「バンシェア」の利用者ってどんな方ですか?

「カーステイ」で駐車スペースを提供してくださっている方の半数ほどは、地方自治体や地域の観光協会などで、実際お話に出向いたり、説明会等でご縁ができたケースが多いですね。ユニークなところだと、長崎県では島原城を見ながら車中泊できるスペースがあったりします。

残り半分がWebサイトからの問い合わせがきっかけの方。温泉宿などからご連絡いただくことも多く、かんぽの宿20軒にも登録いただいています。日本のキャンピングカーはシャワーがないケースが多く、日帰り入浴ができる温泉地は相性がいいんです。

釣りやダイビングといったアクティビティを提供する個人の方が施設の駐車場や空きスペースを貸し出そうという登録も増えてきました。駐車スペースに前泊して早朝から釣りに出かけたり、ダイビング後にスペースでバーベキューしてそのままキャンピングカーで休むといった自由な旅を提供できます。空きスペースを持つ方にとって、眠っている場所に価値を与えられるのが「カーステイ」最大のメリットですね。

▲石川県にある古民家の駐車場を空きスペースとして貸出、空きスペースが多い地方にこそ活用できる

「バンシェア」は、初めてキャンピングカーやバンに乗るという大学生など若年層と、キャンプ大好きな40~50代オーナーさんのような、ライトユーザーとベテランオーナーのマッチングが多いです。車のオーナーにとっては、普段使わない資産が活用されますし、まだキャンピングカーやバンを買えないという若い方でも気軽にバンライフを楽しめる。利用者が借りた車のオーナーに旅のお土産を渡したりして、バンライフのコミュニティも自然な形で盛り上がっています。

 

予約数は前年比3倍、コロナ禍で注目を集めるCarstayのサービス

—ここからは「観光」という側面での話を伺いたいと思います。観光客の視点で見たときに、Carstayのサービスはどんなメリットがありますか。

まずは、これまで泊まれなかったような地域、車でないと行くのが難しい地域をじっくり味わえるというメリットがあります。安全面にもこだわり、サービスを利用する時点で保険が適用される仕組みも整えています。

また、コロナ禍でも密を避け、仲間同士だけで旅ができます。「SNSにアップしやすい旅」ができるとも言い換えられます。実際、自粛期間中は当社の売上もほぼゼロと苦しかったのですが、7月から9月にかけては、「カーステイ」の予約が前年比3倍ほど入ったり、キャンピングカーのシェアも順調に増え、休日は予約が取れない状況でした。

 

宿泊施設との連携でwin-winの関係を実現

—では観光事業者側の視点についても伺います。先ほど、かんぽの宿20軒が駐車場を貸しスペースとして登録しているという話もありました。宿にとって、どんなメリットがあるのでしょうか。

「ホテルに泊まらないのに、敷地内で車中泊させるメリットはあるのか」と思われがちですが、ホテルの駐車場に滞在したお客さまの多くが、入浴やお食事でホテル内の施設を利用されます。ホテルの魅力を体感するきっかけになり、これまでリーチできなかった新たな客層の開拓につながると考えています。「カーステイ」への登録そのものが、新たな客層へのPRにもなると思います。

あと、「カーステイ」を予約しても、お母さんとお子さんが「やっぱりホテルがいい!」と駐車場を借りたホテルに泊まり、お父さんだけがキャンピングカーに残るといったケースもあるそうです。バンライフの魅力を伝える当社としてはコメントに迷う部分もありますが、宿泊利用も増えるので、結果的には宿とカーステイ双方にメリットがあるように感じます。

▲宿泊施設の駐車場も場所貸しとして活躍。温泉で入浴もできる

 

「なにもない」を観光資源にする、価値づくりを

—確かに、ホテルの施設を利用して良い印象を受けると、泊まってみたくなりそうですね。では、Carstayは、地方での観光をどのように変えられると考えていますか。

食事や入浴をはじめ、人々が活動するに伴い地域全体にお金が落ちるようになります。特に、観光資源はあるのにホテルが少ないエリア、イベントなどで一時的にホテルの空室不足になるエリアとの親和性が高いと思います。

もうひとつ、Carstayのサービスは、「なにもない」を観光資源にできる可能性を持っています。車で移動して車で泊まるので、日本全国くまなく旅ができる。これまで、ホテルや食事場所がないという理由で滞在できなかった場所も堪能してもらえるんです。星空がきれいとか、とにかく静かとか、今まで「なにもない」の一言で片付けられていた場所への旅人を増やせると思っています。宿泊先とは認識されづらい、国立公園に泊まれたりしたらいいですよね。

 

大手電鉄会社とのコラボで滞在時間を延ばし地域への経済貢献を目指す

—「くまなく旅ができる」という観点から、三浦半島をフィールドとした京急電鉄とのコラボも興味深いですね。

ありがとうございます。京急電鉄さんには三浦半島の車中泊スポットを3カ所開設していただき、三浦半島の「バンライフの聖地化」を目指して協業しています。「カーステイ」は、鉄道が網羅しきれない半島エリアと相性がよく、日本全国の半島にカーステイスポットが設けられないか調べはじめています。

三浦半島は関東圏からの近さから、多くの方が日帰り旅を楽しんでいます。「カーステイ」の利用で泊まって楽しんでもらえれば、じっくり半島を巡ってもらえる。地域への経済貢献が高まることも期待しています。

▲三浦半島のカーステイスペースからの景色は最高だ

 

トライアル利用を提案し、サービスの価値を体感してもらう

—地方自治体や企業などとの協業の進め方で、工夫していることはありますか?

先方にとっては「Carstay? 何者?」からスタートなので、まずは安心していただき、利用後のイメージを掴んでいただくことを大切にしています。例えば、地域で大型イベントが開催され、一時的に宿不足になりそうなときを狙ってトライアル利用を提案し、サービスの価値を体感していただくことから始めています。

有名観光地に隣接し、その魅力が埋もれがちで歯がゆい思いをされている地方自治体、意欲ある民間企業やキーパーソンがいるエリアとは協業が進みやすいですね。新型コロナウイルスの流行を経て、インバウンドをターゲットとした大手企業からも引き合いが増えてきました。これからも、丁寧に「カーステイ」や「バンシェア」の導入メリットをお伝えし、密を避ける旅、ワーケーション、テレワークの浸透を追い風にしたいです。

▲カーステイと産官学の連携が進む石川県白山市

 

Carstayのある未来を「最高」と感じてくれる協力者を求めて

—スタートアップとして、資金調達やスポンサー企業との協業も進めていますが、Carstayのどんなところが評価されている印象ですか。

パートナーのみなさんが仰るのは、わたしたちの事業が日本初のサービスであること。あとは、私が公認会計士を辞めてまでチャレンジしたいことってなんだろう。宮下が描いている未来ってどんなものだろうと興味を持ってくださったのかな……そんな気がします。

ただ、一番の決め手は「Carstayのある未来って、ないときよりずっといいね」と感じていただけたからだと感じています。プラットフォームづくりは時間がかかりますが、長期スパンで、ともに豊かな未来を描こうとしてくださることに感謝しています。

 

情熱と覚悟を伝えて、ともに事業を拡大する仲間探し

—資金調達に向けたプレゼンテーションなどで、心がけていることはありますか。

コツと言えるほど明確なものはありませんが、ひとつはパッション、情熱です。現時点では、Carstayイコール私への投資。熱意と、事業を長く続けていく覚悟は伝えます。私はこの事業が大好きなので、社員の生活さえ保障できればお金がなくても続ける。でも、長く多くの方を幸せにするためには、資金が必要だということをありのままにお伝えしています。

もうひとつは「Carstayのある世界は幸せだ」を短時間で証明すること。これまでの実績を提示し、時にはキャンピングカーでのミーティングにお誘いしたりもします。キャンピングカーって、体感するとしないでは100倍くらい印象が違うと思うので。

▲”Stay Anywhere, Anytime”の実現に向けてともに歩むCarstayのメンバー

 

クラウドファンディングをきっかけにCMOをヘッドハンティング

—8月には、CMO(最高マーケティング責任者)に、以前、株式会社ZOZOで執行役員を務めていた田端信太郎さんが就任されましたが、どのような経緯だったんですか。

Carstayは、田端も含めて7人の小さな会社です。創業時からプラットフォームを構築するためのエンジニアを主に集めてきたので、課題はマーケティング。前例がないことに挑戦して勝つためにも、スーパーマンみたいなマーケターと一緒にやりたいなとずっと考えていました。田端氏のTwitterを見ていて、キャンピングカーやバンライフに興味を持っていそうだとは感じていたので「田端の著書を300冊買ったら1時間面談」というクラウドファンディングのリターンに申し込んだことがきっかけです。

最初は、出資の依頼をしようと思っていたのですが、面談ではCarstayのマーケティングについて熱心にアドバイスをくれたんです。「僕、そんなことできないから一緒にやってもらえませんか」とお願いしたら快諾してもらえました。

ただ、田端の例は特殊で、実は他のメンバーはキャンプ採用が多いです(笑)。一緒にキャンプすると、お互いのことがいろいろとわかる。たき火を囲んで話しているうちに意気投合ということもあります。人材採用法として、特にスタートアップ企業などに「たき火キャンプ採用」結構おすすめです。

▲アウトドアとの親和性が高いので、イベント内でキャンプファイヤーをすることも

 

#StayAnywhereAnytimeの実現に向け、世界進出を視野に

—他社の人事担当の方から、キャンプ採用のセッティング依頼が来るかもしれませんね。では最後に、観光関係で今後取り組みたいことについても教えてください。

再び、自由に旅を楽しめる日のために、アジア・オセアニアで「カーシェア」「バンシェア」のプラットフォーマーになっていたいですね。両地域でCarstayのようなサービスはまだ盛り上がっていないのですが、韓国のドラマなどにもキャンピングカーやバンライフが登場しているようで、急ぎたいですね。日本の方も海外でCarstayのサービスが使えるようにして、より制約のない旅を楽しんでいただきたいです。移動手段がほぼ車に限られ、ホテルも特定の場所に密集しているハワイなんかも合いそうだなと思ってます。

そして、インバウンドが復活するはずなので、訪日リピーターにサービスをしっかり届けていきたいです。例えば、北海道に訪れる海外スキーヤーは、状態のよい新雪を追いかけてスキー場をはしごすることも多いと訊いたので、宿泊地をあらかじめ決める必要もなく柔軟に動けるCarstayのサービスはマッチするはず。来年のウインターシーズンにはキャンペーンを打てるような体制を整えたいと思っています。

新型コロナウイルスの影響で、人々の暮らし、観光に対する意識は大きく変わりました。この時代に必要とされるのはCarstayが掲げる「#StayAnywhereAnytime  好きな時に、好きな場所で、好きな人と過ごせる世界」だと信じています。

(取材/執筆:岡島梓)

 

プロフィール:

Carstay株式会社 代表取締役 宮下晃樹

”Stay Anywhere, Anytime”をミッションに掲げるCarstay株式会社を2018年6月に起業。新しい豊かな旅と暮らしのライフスタイル”VANLIFE(バンライフ)”のスタートアップとして、クルマ版Airbnb「Carstay」をリリース。5G・EV・自動運転時代に向けて、“動くホテル”・“動くオフィス”・“動く家”となる、国内最大級のキャンピングカー予約プラットフォームを運営し、車中泊のマーケットプレイスを創造、「移動」「滞在」にかかる社会課題の解決を目指す。

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