インタビュー

【対談】デービッド・アトキンソン氏 x 美ら地球・山田拓氏 「日本の観光地は“つまらない”。カスタマー・エクスペリエンスの向上が必須」

2020.12.04

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「クールな田舎をプロデュースする」ことをミッションに、地方部において様々なプロジェクトに携わってきた地球(ちゅらぼし)代表の山田拓氏が、各分野のリーダーと語り合う対談。その第4回のゲストは、国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の社長であり、2017年より日本政府観光局(JNTO)の特別顧問を務めるデービッド・アトキンソン氏。「観光立国」と「地方創生」をキーワードに、これからの観光業界のあり方について展開された対談の様子をお届けする。

 

旅行消費額の単価アップがカギを握る

対談の冒頭で山田氏は、イギリス出身で日本在住30年のアトキンソン氏がこれまでに著書などを通じて発信してきた、観光業界の生産性アップに関する話題に触れた。アトキンソン氏はそれに対し、次のように切り出している。

「生産性、最低賃金、観光立国の問題というのは同一線上にある問題なんです。業界別に生産性を割り出すと、どの都道府県においてもダントツの最下位に出てくるのが飲食業と宿泊業です。少子高齢化が進む日本では今後、医療費や年金などの社会保障費の税負担が増える一方ですので、観光業界も含め、生産性全体を上げていかなければいけない」

アトキンソン氏によると、これから2060年までの高齢者の人口比率はほとんど変わらないが、実際に働く世代が42%減少するという。つまり、これからの40年間で税負担が倍以上に増えていくため、観光業界は今から変化を起こしていかなくてはならないということだ。地方創生の点においても、観光業界が底上げを図ると同時に、人口減少によって激減する日本人観光客の代わりにインバウンドを誘致して支えてもらうことが重要になってくると語る。

山田氏は、「当社では半日のガイドツアーを8000円くらいで提供しています。これは海外ではスタンダードな価格設定なのですが、日本人を呼び込むのはなかなか難しい。他の宿泊施設でも、日本人相手だと単価が上がらず苦しんでいると聞きます。今年初めに訪れたタイでは、日本に比べて物価が低いのに、1人当たりのインバウンド消費支出が多いことに驚きました」と日本人観光客の消費支出が上がらないことを課題に挙げた。

アトキンソン氏はこれには2つの問題があり、まず1つ目は良心的な価格で提供することを美徳としてきた日本特有の考えは無責任であるという点だ。「単価を安くしてビジネスをするというのは、正直言って誰にでもできることです。しかし、少子高齢化が急速に進む日本を崩壊させないためには、工夫をして単価を上げていかなくてはなりません」。さらに単価が時間に比例するという点にも着目し、単価を上げるためには時間をかけて文化や文化財について説明したり、体験してもらったりするコンテンツを充実させていかなくてはいけないという。長く滞在してもらうことでそれに見合った値段を払ってもらえるということだ。

 

日本の観光地は“つまらない”

アトキンソン氏は2つ目の問題として、日本の観光地が“つまらない”という点にも触れた。「日本の観光地は人が来ないからつまらないのか、逆につまらないから人が来ないのか、このどちらかだと思います。日本の観光地というのは、ふらっと人が来てそこでお土産だけを買って帰るっていう観光が前提になっているわけなのですが、このスタイルはもはや時代に合っていませんし、退屈してしまいます」。しかし一方で、「インバウンドのために整備をしてきた、または単価を引き上げてきた結果、ここ数年は日本人観光客の単価も少しずつ上がってきています」と語る。

このほかにも、日本人観光客は週末やお正月、GW、お盆にしか来ないと思っている点にも問題があるようだ。「例えば温泉旅館に日本人が来るのは週末だけと考えるのではなく、平日に会社を休んででもそこに泊まりたいと思わせるような工夫や挑戦が必要です。温泉旅館はだいたい1泊2日を前提としていますので、テーブルを埋め尽くすような料理が出されますが、これでは宿泊日数を伸ばすことはできません。誰もそんなに豪華な料理を毎日食べたいという気持ちにはなりませんから。『高齢者大国』の日本には時間とお金に余裕があるお年寄りが多いため、アイデアや商品の魅力次第で平日に長く滞在してもらうことは多いに可能だと思います。週末だけで戦略を練ること自体が矛盾していますね」。そのためには、きちんと調査をしてニーズを把握した上でいかに長く滞在してもらうか、そして付加価値をつけていかに単価を上げていくかということを考えなくてはいけないということだ。

 

親日家に向けたPRでは意味がない

アトキンソン氏はJNTOの特別顧問に就任した当初を振り返り、「JNTOに入って感じたことは、日本の観光業界は経営に対する知見や知識が不十分だということです。昔ながらの経営者は『経営は経験と勘と度胸』などと言いますがそれは何十年も前の話で、今の時代はやはり『調査・分析』が大切です。さらに、インバウンドを誘致する際に、親日家に向けてPRをしているということに驚きました。親日の人に情報を出せば絶賛されて気分がよいのでしょうが、それでは発展性がありません。観光立国になるためには、日本に来てくれた人に繰り返しPRするのではなく、来ない人がなぜ来ないのかを調査・分析して理由を全部洗い出していかなくてはいけません」と言う。

また、地方自治体が発信する動画には、ご当地食材や歴史・文化ばかりにフォーカスしたものが多いという点にも疑問を呈している。そして何より「ここに来てください」というメッセージがない動画は、外国人にとって何を目的としたものかが全く伝わらないという。海外にPRする際には、「ターゲットを細かく分類し、そのマーケットに対してどのように自分たちの観光資源をアピールするのかというのを科学的根拠に基づいて発信すれば、必ず結果に繋がります」と説明する。

 

カスタマー・エクスペリエンスの向上は必須

「外国から来る人たちは、有給休暇を長く取得して相当な金額を払って日本に来ているわけですから、要求のレベルが高いのは当然です」とアトキンソン氏は言う。その点を踏まえて、インバウンドを誘致する際には総合的なカスタマー・エクスペリエンスを向上させる必要があるが、そこでカギを握るのがDMOだ。「予算を消化するために訴求力のないホームページやSNSアカウントを作ったり、目的がはっきりしない動画を作ったりするのでは意味がありません。そうではなく、観光地のすべてのプレイヤーがDMOに入って、どこに問題があるのかをきちんと分析した上で、すべてを整備していくということが求められるのです」

アトキンソン氏はDMOの役割に関する例として、DMO日光を挙げて説明した。以前のDMO日光は、広告代理店と交通機関だけで観光対策を行っていたが、現在は日光東照宮、温泉、国立公園、土産店、飲食店など、多方面の組織が加わって意見を交し合っているという。すべてのプレイヤーが連携して地元を盛り上げていく、これこそが今DMOに求められている姿だという。

山田氏は自身の経験から、「単体のアクティビティや宿泊施設だけで観光客を誘致することは難しいです。1泊ではなく4泊5泊と滞在してもらうには、断片的ではなく総合的な観光地づくりを進めることが必要だということを実感しています」と語る。アトキンソン氏もこれに同意し、観光地を総合的に整備していくことは何よりも重要であり、放置されている観光資源にはお金が落ちないが、受け入れ整備がなされた観光地にはお金が落ちることを強調した。今の日本は「車ができていないのに、ショールームに来て買ってくださいと言っているようなもの」。商品づくりを徹底的に行う段階であり、情報発信はその後に行うということを忘れてはならない。

 

 

世界の観光市場の7割は自然体験が目的

「日本は国立公園をもっと観光資源化していった方がいい」と指摘するアトキンソン氏の言葉には、世界の観光市場が自然を満喫することにシフトしてきているという裏付けがある。実際にビーチやスキーリゾート、国立公園などへの自然体験を目的とした観光が世界の観光市場の7割を占めている。これまで観光戦略に入っていなかった国立公園や日本の大自然こそが今の時代に即した観光資源であるため、アクティビティや宿泊施設を整備して、なおかつそこにある大自然を観光客に説明していく。JNTOでは今こうした動きを加速化しているそうだ。

最後に、現在のコロナ禍で観光業界が落ち込んでいるという点に話題が及んだ。アトキンソン氏は、ペストやコレラなど、幾度となく感染症に見舞われてきた人類の歴史を紐解いた上で、「それでも観光業界はずっと発展してきている」ということを指摘。「今はコロナ禍にあって物理的にインバウンドを誘致することは不可能ですが、必ず元に戻る日が来ます。そのためにこの国の素晴らしい観光資源に付加価値をつけて、来てもらうための地盤を固める。そうすることで生産性において国内では一番遅れをとっている観光業界も、やがて他の観光立国と同様のレベルにまで上がっていくことができるでしょう」と締めくくった。

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