インタビュー

「どこ、そこ?」という地域に人が訪れる仕組みを作る「おてつたび」が目指す新しい旅のスタイル

2021.04.02

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「まだ知られていないけれども魅力的な地域に一人でも多くの人に訪れてもらい、地域のファンを増やしたい」創業者のそんな想いから生まれたサービスが「おてつたび」です。季節的・短期的な人手不足に悩む地域の事業者と、知らない地域に行ってみたい人をお手伝いを通じてマッチングする「おてつたび」は、古くて新しい試みといえます。今回は、株式会社おてつたび創業者の永岡里菜氏に、観光や地域の産業に従事する事業者がサービスを活用するメリットや魅力、旅に対する想いについて伺いました。

 

「どこ、そこ?」といわれる地域に人が訪れる仕組みを作る

—「おてつたび」は、人手不足に悩む事業者と、知らない地域に行ってみたい人をマッチングするサービスということですが、創業のきっかけについて教えてください。

「おてつたび」は「お手伝い」と「旅」をかけ合わせた造語です。なぜこの2つを掛け合わせたかというと、旅行者が日本の魅力的な地域を訪ねるハードルを下げたかったんです。一般的に、地域へ旅するにも交通費が高くつくので実際に足を運ぶのに躊躇する人が多い。さらに、有名な観光地でもないよく知らない地域にわざわざ行こうとは思えないのが普通です。ただ、前職で日本全国の地域を回るなかで、そうした地域にも魅力的なストーリーがあることに気づきました。「どこ、そこ?」といわれる地域に人が来る仕組みを作りたいと思ったのがきっかけです。

「おてつたび」では、人手不足の事業者のもとで「お手伝い」するという形で、地域を訪れる目的を作りだしています。また、事業者の方にお手伝いに対する報酬を出してもらうことで、お手伝いする人は費用負担を減らしながら旅ができます。また、お手伝いを通じて地元の方と自然に交流でき、彼らと近い目線で土地の魅力を感じられるサービスにもなっています。 なお、現在のお手伝いを受入れているのは、一次産業や旅館など観光業が中心ですが、それ以外にも宿坊やキャンプ場、酒造会社や水産物の加工業などの製造業や飲食店など多種多様です。また、お祭りや雪かきのお手伝いなど、その地域ならではのお手伝い先もあります。

▲酒造メーカーでのお手伝いも(株式会社おてつたび提供)

 

消費する旅行から共に生産する側に回り、唯一無二の経験を

—一般的な旅と「おてつたび」での旅の大きな違いはなんでしょうか。

地域で消費する旅というよりも、地域の方と一緒に何かを生み出す「生産」側に回れるという点だと思います。一般的な旅行だと、旅行者はお客さま。そうなると、地域のキレイな一面にだけ触れられます。でも「おてつたび」で旅する人は、単なるお客さまではない、そのことは事前に参加者にも伝えます。農家のお手伝いだと、不慣れな作業で全身筋肉痛になることも。ただ、一緒に仕事をすることでひとときの仲間になり、地域の方の働き方や想いに触れることもできます。これは、距離感が縮まる「おてつたび」ならではだと思います。

—都会に住む人にとっては、ただ旅をするだけでなく、普段味わえない経験や人との出会いができるのも魅力ですね。実際に、参加者からの反応はいかがですか。

「地方のありのままに触れられた」という声や「新しい自分に出会えた」という話を耳にしますね。
例えば、農家で働く人が全員70代以上という実態を目の当たりにし、他人事としては捉えてはいけないという声もありました。また、普段、都会では出会わないよう人と接することで新しい視点を得られたとか、おてつだい先で自分が意外と上手くできる仕事を発見したという方もいて、それも「おてつたび」の面白さです。 また、サービスを提供する側に立つことで「相手の立場に自然と立てるようになった」という声もありましたね。実際に、旅館でのチェックアウト後の清掃の仕事を経験した方が 「10時チェックアウトというルールへの捉え方が変わった」と話してくれたこともあり、ここでの経験がその人にとって唯一無二の経験になっているのではないかと思います。

▲青森県三沢市では、ごぼう農家で収穫のお手伝い(株式会社おてつたび提供)

 

「おてつたびだったらいいよ」となるにつれて口コミが広がる

—お手伝いの受け入れ先は、どのようにして広げていったのでしょうか。

創業当初は「何やっているんだ?」という感じで、ほとんど理解してもらえませんでした。
最初は、全国の農家など一次産業を中心に、私自身がお手伝いをするところから始め「お手伝い」とお手伝い先での「宿泊」を交換できないかと考えていました。ただ、宿泊との交換とすると受け入れられる業態が限定的で事業の拡大が難しい。さらに、参加者の視点に立ったときに、旅行のボトルネックとなるのは意外と高くつく旅費で、その払拭が必要と気づき調整を重ねました。その後、状況が変化したのは、旅館でのお手伝いです。旅館であれば、週末や長期休暇などの繁忙期を中心に短期的なお手伝いのニーズがある上に、寝る場所も確保しやすい。その後、スタッフと手分けして北から南まで全国の旅館にお話をしてきました。しかしながら、私たちも事業を立ち上げたばかりで実績もない状態でしたので「おてつたび」を理解してもらうのは難しかったです。新しいものや分からないものに対する不安も強く、興味を持ってくれたのは、100軒中1軒ぐらいでしたね。そんな状況がしばらく続きましたが、徐々に口コミなどで広がっていくようになりました。特に観光業は地域を超えた横のつながりも強いので、例えば山梨から長崎、北海道から静岡など、地域を超えた紹介や問い合わせに繋がっているのを感じています。
創業当初の「何やっているんだ?」が、徐々に「永岡さんならいいよ」に、その後「おてつたびだったらいいよ」へと変化するごとに、その広がりも大きくなっていったように感じます。

▲おてつたびを受け入れてくれる事業者の方とも良い関係が築けている(株式会社おてつたび提供)

 

相手のペースに寄り添い信頼関係を構築し、一歩ずつ取り組む

—地域の枠を超えて口コミが広がっていくというのはとても興味深いです。一方で、地域の方に、外から来た人を受け入れてもらうというのはかなり大変なのではないかなと思います。どのようにしてアプローチをしていったのでしょうか。

よくある話ですが、地方などは都市とは違って合理性では説明できない部分もあるので、思うように進まないことも多いです。地域の人たちはそこにあるコミュニティの中で生活していて、外から来た人への警戒心があります。ただ皆さん、変なことが起こったらイヤだなという不安などの感情があるだけで、実際は「人が好き」という方もいると思います。
なので、定期的にお話しする場を持つなど、無理にこじ開けようとするのではなく、相手のペースに寄り添いながら信頼関係を築くことを意識しています。ただ、急ぎすると壊れてしまいますが、一方でのんびりしすぎると地域が消滅してしまう。不安を解消しつつも「まずはやってみましょう!」と提案するなど、一歩ずつ駒を進めるように取り組んできました。

—「急ぎすぎると壊れてしまうけれども、のんびりしすぎると地域もなくなってしまう」なかで、いかにして進めていくか、というのが難しいところですね。

そうですね。2040年には、日本の市町村の半数が人口減で消滅するという予測があるなか、少しでも多くの魅力的な地域を残したい、そういう気持ちで、スピード感をもった事業展開は常に意識しています。ただ、スピードを重視するあまり、地域に住んでいる方々が苦しくなってはいけないと思っています。丁寧にすべき点はしっかり取り組みたい。
これは資金調達も同じです。地域に惚れて自分の人生をかけてでもつくりたい世界は、ノロノロしていたらなくなってしまう、そんな強い焦りと覚悟をもって取り組んでおり、事業をサポートしてくださる投資家の方たちにもしっかり説明しています。今は金銭的なリターンだけでなく「おてつたび」がもたらすソーシャルインパクトにも期待してくださる方と歩んでいます。

 

「おてつたび」が、再訪や移住定住など関係人口づくりに

—事業に関わる方がみな共通の理解を持ち、足並みをそろえていくことも大切ですね。実際「おてつたび」を取り入れている事業者の声や地域で見られる変化はありますか?

実際「おてつたび」参加者を受け入れている事業者の方からも、「新しい方と出会って刺激を受けた」「自分たちの仕事に関心を寄せられることで、誇りを感じるようになった」といった声もあります。あとは単純に、普段出会えない人が来てくれると仕事場に活気が出るという声もあります。「今年はどんな子が『おてつたび』しに来てくれるかな」と楽しみにしている方もいます。
また、「おてつたび」参加後のリピートも見られています。地域の物産を購入したり、実際に訪問したり、継続してかかわりを持つ割合は6割ほどとなっています。「おてつたび」でご縁ができた地域に、今度は家族や友人とともに訪れる方、その後毎年足を運ぶ方もいます。実際にお手伝い先への就職や、移住を決断する人もいて、関係人口づくりにもつながっているのを感じます。

—「おてつたび」が関係人口に繋がるというのは、すごく素敵ですね。受け入れる地域や事業者の方にとって、必要不可欠な存在になりつつあるのかもしれませんね。

実は、地域の方と話していると「おてつたびも、実は新しいようだけれども昔からある旅と同じ」という声も聞こえてきます。
例えば、昔を振り返るとバイクで日本一周するような人が、たまたま立ち寄った場所で、掲示版に貼ってある求人募集を見つけたことをきっかけにその場所で働いたり、旅館の常連のお子さんが高校生になったらお手伝いに来てくれるだったり。そして、そうしたご縁をきっかけに、お手伝いが終わった後も遊びに行くなど交流が継続し、関係が構築されていく。
そういった偶然性や人の繋がりを、人は本質的には求めているんだと思います。それを今の時代に合わせて形にしたのが「おてつたび」というサービスなのだと、地域の方とかかわる中で感じています。

 ▲地域の方による温かいおもてなしで、参加者との交流も深まる(株式会社おてつたび提供)

 

企業や自治体とのコラボレーションで、地域に人が訪れる動きを拡大

—大手企業とのコラボレーションも始まっていますね。これはどのような仕組みなのでしょうか。

企業とのコラボレーションは「知らない土地に足を運ぶハードルを下げたい」「地域の魅力を伝えたい」という目的が一致したところから、自然とはじまっていきました。ANAトラベラーズとのコラボは、島根県の自治体の協力も得ながら進めました。ANAトラベラーズ、自治体、私たちの共通のゴールは、「萩・石見空港を利用して、島根県を旅する方を増やすこと」です。
自治体の協力のもと、島根県内のお手伝い先を開拓し、参加者が地域に足を運びやすい環境を整えました。来訪者が増えると、航空券や宿泊予約に繋がるので、自治体にとっても企業にとってもメリットがあります。参加者も通常より少しお得に旅ができる上に、より幅広い地域の魅力を感じてもらえるようになるようになるので、全員にとってハッピーな状況を作り出すことができているので、気持ちよく事業を進められています。

—コラボレーションが進めば、受入事業者を起点とした点で結ぶような旅だけでなく、地域内の事業者連携にもつながりますし、エリア全体の魅力を多面的に見せることもできる。観光協会やDMOとの連携が進めば、よりいっそう地域にとってもメリットになりそうですね。

 

コロナ禍で地域への関心が高まり、利用層の拡大も想定以上に

—新型コロナウイルス感染症の影響で起こった変化はありましたか?

実は、コロナ禍で人々の流れが大きく制限された時期も、一次産業などを中心に、日本全国の事業者の方から「お手伝いに来てほしい」という声は止みませんでした。入出国規制の影響で海外からの技能実習生が日本に来ることができず、人手不足に悩む農家が後を絶ちませんでした。そこで、一つの解決策として、旅行客の激減により雇用維持などの課題を抱える観光業と人手不足に悩む農業の人材のシェアリングサービス「おてつたび+」を立ち上げました。

それ以外にも、京都府の京丹後市観光公社と連携し、安心安全を担保した上でのマッチングできる方法を作りました。京丹後市内の宿泊施設で「おてつたび」に参加する方に対して、事前にPCR検査の受診をしていただくことを条件としており、代わりに観光公社で検査費用を負担していただいています。
観光を含め地域の産業をこれ以上止めることは難しいので、安心・安全を確保した上で、地域の人手不足解消のお手伝いをしています。

—おてつたびの参加者側の変化はいかがでしたか?

お手伝いに地域に足を運ぶということで、まずはまとまった休みが取れる大学生を想定してサービスを立ち上げました。その後、徐々に社会人の利用も増えていたものの、コロナ禍での問い合わせや参加者の増加は想定以上でした。「おてつたび」を通して、地域と関わりを持ちたいという方や、地域に関わる新規事業を立ち上げたいという企業の方の利用もあり、地域への関心が高まっていることを感じます。

▲都市部に住んでいては出来ないような経験ができるのも、おてつたびの醍醐味だ(株式会社おてつたび提供)

 

季節労働や出稼ぎのリ・ブランディングでポジティブなイメージを

—最後に、今後どんなことにチャレンジしたいですか?

有名な観光地に行くことももちろん楽しいですが、おてつたびを通じて「どこ、そこ?」と言われるような知られてない地域に行くのも楽しいというムーブメントを起こしたいと思っています。
私たちの目標は、参加者と地域との継続的なつながりをつくることで、その方にとっての特別な場所や地域を増やしていく。そのためにも、参加者、事業者双方が使いやすいプラットフォームをつくりあげる必要があり、今後はエンジニアの採用にも力を入れたいですね。

また「季節労働」や「出稼ぎ」という言葉をリブランディングしたいという思いがあります。今の日本では、季節労働や出稼ぎなど短期的な雇用ニーズへの働き方に対して、不安定さや給料が低いというイメージから、どうしてもネガティブなイメージを持ってしまう人が多い。ただ、実際に現地に足を運んで地域の方と一緒に働けば、自然と地域の魅力を垣間見られますし、そこでしかできない経験もできる。また、地域の方との深い交流を通じて、あまり知られていない地域が、誰かにとって何度でも訪れたくなる第二の故郷のような場所になるかもしれない。だからこそ、季節労働や出稼ぎを「おてつたび」にリブランディングし、地域に人々が足を運びやすくするきっかけにしたいです。

▲柑橘の収穫だけでなく、地域の方の温かさに触れて家族のような間柄になることも(株式会社おてつたび提供)

—「おてつたび」が、旅先との素敵な出会いや地域とのつながりを作るだけでなく、季節労働や出稼ぎに対するリブランディングもしていきたいというのは新しい挑戦ですね。インバウンドやアウトバウンドの面ではいかがですか。

今は日本語対応のみで国内中心に展開していますが、留学生や在日外国人の方の利用はあります。将来的に体制が整えば、インバウンドの方に日本の地域に訪れてもらいたいと思いますし、世界中に「おてつたび先」を見つけて、海外の魅力的な地域や人と出会うきっかけづくりをしたいですね。

 

魅力的な「おてつたび先」を提案できるために

—おてつたびが新しい旅の形として世界展開していくことを想像したらワクワクしてきます。

究極の目標は、すでに有名な観光地を楽しみたいときは観光旅行として訪れてもらい、あまり知られていない場所の魅力を味わう旅は「おてつたび」と呼ばれるようにしていきたいと思います。
多くの方が「一生に一度は訪れたい場所」を持っていると思いますが、実はそれ以外の旅先に対するこだわりはなくて、実はどこでもいいという方もいるのではないかなと。「おてつたび」を利用する方を見ていると、「○○に行きたい」より、誰も行ったことがない場所で唯一無二の経験をしたいという方も多いように感じます。そして、そのようなあまり知られてない地域こそ、そこで生活する人々との交流を通じて初めて、地域の魅力を知ることができる。その橋渡しをできるのが「おてつたび」だと思うんです。
有名な観光地を巡る「旅行」も「おてつたび」もどちらも楽しい。今度の旅はどっちにするか迷う。そのぐらい人々にとって「おてつたび」が当たり前の選択肢となるよう、これからも取り組んでいきます。

—ありがとうございました。

▲写真左から二番目がインタビューをした永岡さん(株式会社おてつたび提供)

 

プロフィール:

株式会社おてつたび  代表取締役CEO 永岡里菜

1990年生まれ。三重県尾鷲市出身。千葉大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社勤務、農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経て、独立。地域に人が来る仕組みをつくるべく、2018年7月株式会社おてつたびを創業し、地域と若者をマッチングするwebプラットフォーム「おてつたび」を運営。お手伝いを通じて地域のファンになってもらい、誰かにとっての特別な地域を創出できる世界を目指す。

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