インタビュー

2014.04.26

庭のホテル 東京総支配人 木下 彩氏

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なぜ「庭のホテル」は外国人客に選ばれたのか

2009年5月に水道橋にオープンした『庭のホテル 東京』は外国人宿泊客の多さで知られています。都心にありながら、緑の木々と中庭を配した「都会のオアシス」としていち早く話題となり、開業年から5年連続でミシュランガイドに紹介されています。なぜ同ホテルは外国人客に選ばれたのか。その理由について、木下 彩総支配人に話を伺ってみました。

目次:
宿泊特化とは違う土俵で勝負したい
コンセプトは“ほどよい和”
外国人客に人気の理由
今後の課題

旅館の3代目だそうですね。「庭のホテル」開業に至る経緯を教えてください。

1935(昭和10)年、祖父の代にこの地で旅館経営を始めました。商用向けの旅館です。昭和40年代には父の代でビジネスホテルに業態転換。「東京グリーンホテル」といいます。これが大成功で、開業当初から稼働率が高く、とても繁盛したそうです。当時、ビジネスホテルの走りだといわれました。

1990年代にバブル経済が崩壊すると、必要最低限のサービスと施設でコストパフォーマンスの高い宿泊特化型ホテルが続々登場。弊社の業績は徐々に悪化していきました。私が入社したのがちょうどその頃で、1994年のことです。2000年代に入ると、施設も老朽化してきたので、父がかつて取り組んだように新しい業態にリニューアルしなければならないと考えていました。ただし、宿泊特化とは違う土俵で勝負したいという思いがありました。弊社は大手チェーンのようにスケールメリットで勝負ができませんから。

そのためには、なにか特徴がなければなりません。個性的なホテルでなければ。そこで結論に達したのが、「美しいモダンな和のホテル」というコンセプトでした。

それはどんなコンセプトなのですか?

ひとことでいえば、「上質な日常」を提供するということです。開業前、よく都内の外資系ラグジュアリーホテルを視察しました。その多くは「和モダン」をコンセプトにしていましたが、「これって本当に和かな?」と思ったのです。やはり日本人としてホッと落ち着く、“ほどよい和”でなければと思いました。日常の感覚からかけ離れた和ではなく、いまの日本人の生活の中で心地よいと感じるものでなければならない。そう考えると、「客室は畳じゃないな。でも障子越しのやわらかな光がさしこむ客室がいい。そこはモダンなデザインにしたい……」。だんだんコンセプトが見えてきたのです。

 

「和のホテル」には、四季の感じられる庭があることが重要だと考えていました。1階の日本食とフレンチのレストランの間に雑木林のような中庭を置きました。借景として庭を眺めながら食事ができます。これは旅館時代やビジネスホテル時代から採り入れていたものです。でも、ネーミングを「ガーデンホテル」では和のコンセプトが伝えられないので、「庭のホテル」にしました。

日本人にとっての“ほどよい和”を追求したといいますが、外国人客が多い理由は?

いろんな方からよく聞かれる質問なんですが、何か特別なことをしているわけではないんです。ところが、思っていた以上に来てくださった。開業からわずか半年でミシュランガイドに掲載していただきました。日本人にとっての“ほどよい和”を目指した結果として、それが外国の方にウケているのかもしれません。

外国人客の比率は、開業当初の目標3割をはるかに上回り、いまでは5割前後。桜の季節には7割になります。団体ではなくFIT。 商用というより観光客の割合が高い気がします。予約はインターネット経由がほとんど。宿泊客のトップはアメリカです。それから台湾、オーストラリア、イギリスの順で、国籍は50ヵ国以上になります。トリップアドバイザーなどでの口コミの影響が大きいようで、お客さまがいいコメントを載せてくださるんです。

水道橋というロケーションも、外国のお客さまには人気の理由となっているようです。駅からも近く、新宿や東京駅へも電車で10分ほどですから観光の拠点としては非常に便利ですし、皇居や秋葉原などへ歩いて行かれるんです。

外国人客向けの課題や今後の展望についてどうお考えですか?

正直なところ、ノープランなんです。実際、こんなに外国の方がいらっしゃるとは予想していませんでしたので、英語の得意なスタッフを増員したくらいです。特にインバウンド対応の専門スタッフがいるわけではありません。

これも特別なことではないのですが、外国のお客さまは平均3泊4日と連泊される場合が多いので、スタッフとお客さまの距離が近い。声をかけられることも多いので、お一人おひとりに丁寧に接客することでしょうか。アットホームな雰囲気づくりを心がけています。

お正月には毎年ロビーでお餅つきをします。外国のお客さまにも大変好評です。昔、武家屋敷が立ち並んでいた水道橋周辺には江戸から明治にかけて名所が数多く残っていることから、それらをめぐる町歩きや、和に関してのイベントを定期的にやっています。まだ日本人のお客さま向けの内容ですが、今後は海外のお客さま向けの町歩きイベントも企画してみたいですね。

株式会社UHM
東京都千代田区三崎町1-1-16
http://www.hotelniwa.jp

 

<取材後記>
「庭のホテル」にはハードとソフトの両面でさまざまなこだわりがあります。挙げればきりがありませんが、たとえばエントランスの巨大なあんどんのような照明や、客室の枕元を照らすヘッドボードなど、和紙を通して放たれる柔らかい光がホテル全体を包んでいます。京都の雅というより、江戸のスッキリした和がコンセプトとなっているそうです。スタッフが外に出入りしやすいように、ロビーのフロントをアイランド形式のカウンターにしているところも、シティホテルのもつクールさとは違い、スタッフと宿泊客の距離を縮めています。昭和初期から日本のホテル近代史の最先端を歩み続けてきた3代目には、押しつけがましくなく、細部にこだわるという和のおもてなしの心が生まれながらに身についているようです。

「特別なことをしているわけでもない」と言いますが、結果として和のおもてなしの心が外国人客の嗜好やニーズにぴたりとハマッたといえるのでしょう。それは、まったくジャンルは違いますが、以前このコーナーで紹介した「ロボットレストラン」などにも通じるところがあるのではないでしょうか。主な観光スポットが東に偏っている東京において、水道橋という都心のロケーションの持つ重要性についても、外客誘致を考えるうえでのヒントがあるように思います。(中村正人)

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