インタビュー

2013.03.27

大宮盆栽美術館 館長 菅 建彦氏

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日本最高峰の盆栽に囲まれた大宮から“BONSAI”を世界に発信

日本の伝統文化『盆栽』。“BONSAI”は今や世界共通語として認知され、日本文化の粋を代表するものとして世界中から熱い視線を集めています。経済産業省も積極的に盆栽を世界にプロモーションする中で、日本最高峰、つまり世界最高峰の盆栽を生み出してきた大宮の地に開館した大宮盆栽美術館は、これから世界にどう“BONSAI”を発信していくのか、館長の菅建彦氏にうかがいました。

目次:
大宮盆栽美術館の概要と開館の経緯
現在までのインバウンドの取り組み
盆栽の魅力
今後の展望

大宮盆栽美術館の概要と開館への経緯を教えてください。

盆栽は江戸時代後期から一般に広がり始め、江戸の武家屋敷や神社仏閣の庭を彩るようになっていきます。当時、盆栽を手がける職人は根津、千駄木、谷中、駒込周辺に拠点を持っていましたが、明治維新以降、近代化していく過程で、元来緑の多かった東京が産業都市となっていく。そこへ関東大震災が起こります。震災直後から盆栽を生業としてきた職人たちは、こぞって大宮の地に移り、この土地の水と風と土が適していたんでしょう、盆栽園を作ったのです。

大宮に盆栽のメッカが誕生し、本格盆栽の産地として名高い当地にふさわしい施設として、2010年、公立としては世界初の盆栽専門の美術館が誕生しました。

展示品は5つの柱からなっています。
第一に盆栽コレクション。旧髙木盆栽美術館の名品約100点をさいたま市が買い取り、展示品の中核としました。

 

第二に盆器コレクション。盆栽を入れるための器です。
第三に水石。風景に見立てた鑑賞用の石です。
第四に盆栽が描き込まれた浮世絵コレクション。
第五に盆栽にまつわる各種の歴史・民俗資料コレクション。

この総合的な収集品を研究に携わる学芸員と盆栽技師及び専門職人が管理し、季節やテーマのあわせた企画展を開催しています。

国内外から訪問客がいらっしゃるので大きな駐車場も完備しており、団体のお客様用のバスでもアクセス可能です。都内からは30kmほどですから、横浜や鎌倉へ足を伸ばすのと変わらない距離にあるという地の利もあります。

外国人の反応はいかがですか?

おかげさまで開館後、世界中から4400人を超す方がお見えになっています。特に欧米の方は盆栽への関心が高い。アメリカ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、フランス、スペインなどを中心に、南米、アジア諸国、中東と満遍なく足を運ばれています。

さらに在留外国人が、日本の優れた文化に魅せられていらっしゃるケースが多いようです。それに伴い館内を鑑賞する際の音声ガイドは日本語だけでなく英語、韓国語、中国(北京語)の4言語を用意しています。また、当美術館のウェブサイトは、この4ヵ国語に加え、中国語(広東語)とスペイン語もあり、6つの言語で閲覧が可能です。また欧州での盆栽人気を受け、海外メディア、特にガーデニングなどの専門誌による取材も多く受けています。

毎月開催している「盆栽ワークショップ」も人気です。時間は1時間半。基本的な鑑賞方法や樹形、歴史などの講義をし、参加者各自が盆栽を作る作業を行ないます。鉢を準備し、素材の見所探し、剪定(せんてい)や植え替え、水やりまですべての工程を体験できます。完成した作品はお持ち帰りいただけ、料金は教材費のみ2000円を頂戴しています。

 

盆栽の魅力とは何でしょうか?

盆栽をひと言で定義するのは難しいですが、強いて言えば「生きたアート」ということになるでしょうか。

一鉢の盆栽が形作られるためには、植物が風雪に耐えながら成長してきた膨大な時間と、その盆栽を何世代もかけて受け継ぎ、慈しんできた人々の手業や創造力が込められています。植物の生命力と、生きた素材を美に昇華していく人間の技が合体して、はじめて生み出される作品だと言えます。いわゆる名品は、他の芸術作品とは違い、成立年代も作者も不明というものが多い。少なくとも100年200年は経っているものが大半です。
もちろん「生きている」以上、いつかは「死ぬ」ことになりますが。当美術館のコレクションは超がつく一流品がそろっています。佐藤栄作氏、岸信介氏といった歴代首相や東武グループの創始者・根津嘉一郎氏ら政財界のトップたちが愛好してきたものも含まれています。

盆栽を楽しむには大きな庭が必要なことも確かです。植物ですから光や風もいる。樹種や季節にもよるが室内に飾るのは一週間が限度であり、世話ができる匠を持った職人も必要という高尚な面もあります。

一方でミニ盆栽や苔盆栽などが人気を博し、代官山のフラワーショップで若い女性が観葉植物の延長で買い求める姿も珍しくなくなりました。「クールジャパン」の一環としてアメリカの大都市部や欧州各地では、日常生活で気軽に楽しめるグリーン・インテリアとして安価に売られてもいます。こうしたことからも盆栽は国境を越えて、形を変えながら受け継がれているのです。

 

今後の展望をお聞かせ下さい。

海外に“BONSAI”を発信するために運営委員会のもと、専門部会を立ち上げました。有識者の知恵をお借りしながら、海外広報に力を入れていく。海外の旅行会社との連携や、英語パンフレットを作成して宿泊施設に配布するなどの工夫はすぐに実行したい。音声ガイドとウェブサイトの多言語対応の充実化をはかり、日本の伝統文化への関心の高まりに応えていくことも必須です。また世界最高レベルの盆栽コレクションを擁するロンドン郊外の王立植物園(Royal Botanic Gardens)、ワシントンの国立樹木園(National Arboretum)などの施設との交流を活発化して協働していく構想も練っています。

毎年5月には、美術館周辺の盆栽村が中心となり、関東近辺の盆栽業者が一堂に会して「大盆栽まつり」が開催されます。今年で30回目となります。本格盆栽からミニ盆栽、盆器、各種道具類、山野草、陶芸品、肥料、観葉植物まで販売され、鑑賞できます。地域が一番盛り上がる。こうしたイベントを、近隣の観光マグネットとなる鉄道博物館や氷川神社、岩槻の日本人形、川越市の城下町の風情などと繋げて地元全体を盛り上げる必要もあります。その一環として昨年の夏のシーズンには大宮盆栽美術館と鉄道博物館を往復するシャトルバスを運行させました。来年度も季節やイベントに合わせた運行を予定しています。

現在、経済産業省がバックアップして積極的に盆栽を世界に輸出しています。急激に伸びている市場で、川口市安行や四国の高松などの産地からは苗から育てて出荷しています。こうした流れの中で、1989年大宮で「第一回世界盆栽大会」が開催され、世界中のバイヤーが集まりました。4年に一度、各大陸を巡回しながら開催されています。そうした場所で「世界一の盆栽地」として大宮をブランディングしていくことも必要でしょう。また当地で「盆栽アカデミー(仮称)」を開催し、情報発信することもアイデアとして暖めています。今後は、世界展開に力を注いでいきたいと考えています。

※撮影は施設に許可を受けております。

大宮盆栽美術館
http://www.bonsai-art-museum.jp
取材:Jun Kato

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