インタビュー

2012.08.08

クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構) 代表取締役社長 太田伸之氏

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世界が認めるジャパンクオリティ正当な価値を認知させる交渉力

漫画、アニメ、ファッションなど世界が認める日本のクールなコンテンツの普及を、投資といった経済的側面から支えるクールジャパン機構。その代表である太田伸之氏は、“ジャパンクオリティ”に自信を持ち、強気なビジネス交渉を進めることの重要性を訴える。太田氏の豊富な体験談の中から、外国人相手のビジネスを進める上での重要なポイントを探ってみたい。

 

プロフィール:【略歴】
1977年:明治大学経営学部卒業後、ジャーナリストとして渡米(ニューヨーク)
1985年:東京ファッションデザイナー協議会を設立(事務局長)
1995年:(株)松屋営業本部顧問、(株)東京生活研究所専務取締役
2000年:(株)イッセイミヤケ代表取締役社長
2006年:(社)日本ファッション・ウィーク推進機構理事
2011年:(株)松屋常務執行役員

 

【公職等】
元内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ・日本ブランド専門調査会委員、一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構理事

 

日本の“格好いい”“おいしい”を投資を通じて世界に広める

村山

早速ですが、クールジャパン機構の設立経緯からお聞かせいただけないでしょうか?

太田

クールジャパンとの関わりは、株式会社イッセイミヤケ社長当時、小泉政権時代の内閣官房に知財本部コンテンツ専門調査会というものがあり、そこでは漫画、アニメ、映画、音楽といったコンテンツを、世界にどうやって効果的に発信していくかについての議論が行われていました。
やがて、ファッションや食、地域ブランドといったジャンルも含まれることになり、民間委員としての参加を要請されることになったのがきっかけです。

TV局や出版社の社長、漫画家、著名なシェフなど、各界の一流の方々が集まり議論を重ね、ある一定の形になったのが麻生政権になってからのこと。

そこで私は一旦、解放されたのですが、続いて各省庁に、次なる段階として具体的な実行に落とし込むべく機関が誕生していく中、クールジャパンの組織を作り、経済的な支援をしていくべきではないかの議論がはじまったようです。

 

村山

そこで、太田社長に白羽の矢が立ったのですね。

太田

事業の意義は感じていたものの、株式会社イッセイミヤケで10年間社長職に従事してきたため、もういいかと(笑)。しかし、昨年の8月、関係者の方々の間で正式に推薦したいとの声が固まり、お受けすることにしたのです。

 

村山

太田社長に期待が集まったのは、どのような背景があってのことだと考えられますか?

太田

恐らく、海外生活が長く、日本の良いモノを世界に広げようとやってきた、その経験が買われたのだと思います。

海外の方とのビジネス交渉にはそれなりに自信がありましたしね。
そしてもうひとつ、個性的なデザイナー集団を10年間まとめてきた、その経験が生かせるのではと期待が集まったのだと考えます。

海外市場を相手取り、個性的なクリエイターをまとめ上げながら、コンテンツビジネスを展開していく、そんなクールジャパンの事業には必須の力と評価されたのでしょう。

 

村山

なるほど。それでは、続いて事業概要をお聞かせいただけますでしょうか?

太田

ひと言でいえば、日本の“格好いい”“おいしい”を世界に広めていきたいという企業に対し、リスクマネーを供給するというものです。

一般のファンドと違い、長い目で見て投資を行い、慌てて回収はしない。
一般ファンドほど利益をあげる必要がなく、あくまで投資先の企業に、しっかり利益をあげてもらうおうと。

そして最終ゴールは、海外の方々に日本のことをよく知ってもらい、関心を持っていただくこと、それを政治的でなく、文化的側面から働きかけるのです。

したがって、ただ書類を作って手続するのではなく、自分たちも現場に入り込んで、一緒に汗をかかなくてはならないというのが、この会社に与えられたミッションであると理解しています。

 

インバウンドとの親和性が高いクールジャパン機構の取り組み

 

村山

4月の記者発表によると、すでにいくつかの案件が具体的に動いているとのことでしたが。

 

 

太田

立ち上げから約半年の間に400件ほどの投資相談があり、そのうちの100案件に対し検討が進められています。
すでに具体的なカタチとして発表できたのが、先の3案件ということです。

結果として、私たちが推進する「メディアコンテンツ」「食サービス」「ファッション・ライフスタイル」という3ジャンルが、ちょうどひとつずつまとまったのです。

ひとつはスカパーさんの東南アジアでのメディア及び各種支援事業への投資検討、そして中国の寧波に開発が進む商業施設内におけるクールジャパンスペースの確保、これは阪急百貨店の進出が決定しています。食のジャンルでいえば、中小のレストラングループや食材メーカーにより設立された社団法人をサポートし、東南アジアに「ジャパンフードタウン」を作るという計画の後押しをしている状況です。

 

村山

なるほど。どれも大変興味深い案件ですね。いったい、どのような基準で選考を行うのでしょうか?

太田

まずは大義として、クールジャパンが本当に広がるのかどうか。そして事業主たちの情熱が感じられるのかどうか。最後に、当然投資ですから、たくさん儲ける必要はないにせよ、最低限、出資者の資金は担保されなくてはなりません。
すなわち、事業性があるのかどうかも当然、判断基準のひとつになります。

 

 

村山

そうなると、申請のあった事業に対しての目利きも重要になってくるということですね。

太田

おっしゃる通り。
まずは、長年投資の世界で活躍してきた人材を集めてきました。

しかし、官民一体となる事業の性質上、彼らに多くの報酬を与えるわけにはいきません。この事業に意義を感じ、日本のために役に立ちたいという、奇特で(笑)、思いのある人たちを集めることに成功したのです。

 

村山

クールジャパンの3つの軸として、情報発信、物販、日本に呼び込んでの消費促進があげられると思いますが、インバウンドとの親和性についてはどのようにお考えでしょうか?

太田

様々なコンテンツ、おいしいもの、かっこいいファッションやライフスタイルを届けていく中で、もっと日本の生活や文化に興味を持ってもらえるような、そんな流れを作ることが大切だと考えます。

それは関連各社、諸団体と一緒になって戦略を立て実行していかなくてはなりません。そういった意味で、クールジャパンとインバウンドは密接に協力しながら進めていくべき施策だと思います。

 

村山

と、いうことは、日本国内で外国人観光客向けのビジネスを展開する、いわゆる「受け入れ側」への出資もあり得るということでしょうか?

太田

もちろん、排除する理由はありません。しかも、これは東京や大阪など大都市において、一極集中で取り組むことではないと考えます。地方も含めたオールジャパンで考えなくてはならないことです。

クールジャパン機構を任されるようになってから、各地で講演を行っているのですが、これからは「地方発世界」の時代だと、地方には素晴らしい資源がたくさんあるのだから、ちょっとした工夫を加えて世界に届けようと伝えているのです。

例えば、富山県高岡市の鋳物会社が作った、クールな風鈴やぐい飲みが海外で受けているとか、岩国のお酒「獺祭(だっさい)」の例もそう。東京では認知されていなかった獺祭が、地方発でいきなり世界に認められています。

興味がある外国人なら、工場や酒蔵を中心に観光に訪れたいと考えます。そうやって直接、地方からインバウンド情報発信を行うことも可能だと、関係者に伝えていきたいと考えます。

 

“おまけ”をしない日本 胸を張って良いモノを発信する

村山

外国人の方とのビジネスを進める上で大切なポイントは、どのようなものでしょう。

太田

ずばり「おまけをしない日本」であるべき、ということです。

日本人は真面目なので、先方の価格要求に何とか応えようとやってきました。そうでないと、近隣諸国に持って行かれてしまう、そんな恐怖感があったのだと思います。
しかし、「安心でおいしいです」とか「優れものの素材で作っている」とか、「カッコいいコンテンツです」、だからそれなりの価格になるのですと、誠心誠意説いていけば、外国の方でも必ずわかってくれるはずです。

初めから、ハイハイと電卓叩いて最安値を提示するような薄っぺらなビジネス関係など、長続きするわけがありません。もっと自信を持って売ればいい。

 

村山

難しい海外ビジネスを長年経験してこられた太田社長ならではのお言葉ですね。

太田

品質が良くて、せっかく高く売れるモノを“おまけ”して売るのは、もうやめましょうということです。

例えば、ファッションでいえば、パリコレは今、日本の素材なしで成り立たないほど依存度が高くなっています。
そういった、世界が認めているジャパンクオリティがあるのですから、誇りを持って堂々と交渉に臨むべきだと思うし、それを皆さんに伝えていきたいと考えます。

 

村山

しかし、クオリティを伝えるには、それなりの手段も必要ですよね。

太田

そうなのですよ。中身については自信を持ってください、しかし、見た目や陳列にも気を付けようと、モノの価値を見た目でも理解いただかなければ意味がないでしょうと申し上げているのです。

例えば、日本酒。
海外の百貨店などでワインのようにカッコいい4合瓶だけをずらりと並べて売れば、外国人はまとめて購入してくれます。
日本茶もそう。お洒落なパッケージで陳列し、店頭デモでふるまえば、高級茶葉でも飛ぶように売れます。

色々な仕掛けをしてはじめて、海外の方たちに購買意欲が生まれるのです。海外の売り場を見ると、良い例も悪い例も含め本当に勉強になりますよ。

 

村山

そこまでするから、“おまけ”しなくても売れるということですね。

太田

良いモノを作っているからわかってくれるはずだ、という時代ではありません。いかにその商品を カッコよくキレイにみせるか、あるいはおいしそうなパッケージで見せて実演して体感していただく。

それは文化を理解してもらうことに繋がります。

手間暇かけているからこそ少々高いのだと理解してもらえるのです。
日本の食は、世界中から注目されている今こそ、攻勢にでるチャンスといえるでしょう。しかし海を渡っていくには、それなりの知恵は必要です。

 

村山

とても貴重なお話をありがとうございました。最後に2020年のオリンピック開催に向け、外国人観光客の増加が予想される中、インバウンドをより活性化していくために必要なことについてご意見をいただけますか?

太田

まず外国人の方が理解できる案内表示、英語表記が少ないこと。これは早急に改善すべきでしょう。

そしてもうひとつ、外国人観光客が困った時に駆け込むことができるインフォメーションセンターの設立が必要だと思います。単なる観光案内だけでなく、パスポートを紛失したなど困 ったことが起こった際に相談できる施設を、東京のど真ん中に設置すること。

外国人の方にとって、優しい日本であるべきです

 

村山

本日は、ありがとうございました。

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