インタビュー

2011.10.09

株式会社コーポ・サチ 代表取締役 平出淑恵氏

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日本酒のもつポテンシャルを世界へ発信 そこから始まる「観光立国」を目指す

JALのキャビンアテンダント時代にソムリエの資格を取得し、持ち前の探究心により行っていたワイン情報の収集からすべてははじまった。一流のワイン専門家との出会い、そして日本人としてのアイデンティティの再発見……。現在、日本酒の魅力を世界へと発信するキーパーソンとして注目を集める平出淑恵氏に、その活動や日本酒に対する思いを語っていただきました。

プロフィール:1983年:日本航空に客室乗務員として入社。国際線担当客室乗務員として勤務。
ソムリエ取得後より空飛ぶソムリエとして会社関係のワインセミナー講師多数。
JALソムリエクラブ「ルシエール」幹事を5年間務める傍らJAL管理職の会(鵬友会)のワイン、日本酒の会の企画担当を務める。担当主催イベントは、オーストラリア大使館にてワインセミナー、ニュージーランド大使館にてワインセミナー、自然派ワインセミナー、蔵元を囲んで日本酒勉強会など多数。
1999年:JAL・WESTワイン学校立ち上げスタッフとして地上業務につく。
2003年:WESTロンドン本校にて有志蔵元による日本酒講座をサポート。
2006年:若手蔵元の全国組織、日本酒造青年協議会の酒サムライ活動を社会貢献社外活動としてサポート開始。
2007年:ロンドンで行われる世界最大規模のワインコンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジIWC2007」の本格的な日本酒部門開設にあたり日本酒造青年協議会と共に全面サポート。
2010年:日本航空を希望退職。インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)アンバサダー就任(日本代表兼務)。経済産業省主催、日本酒輸出検討会にオブザーバーとして参加。
2011年:株式会社コーポ・サチ設立。7月より『月刊時評』に「日本酒だより」連載開始。12月より1年間『月刊料理通信』に「Sake in the world」連載。外務省在外公館長赴任前研修の日本酒講習会コーディネーター、飯倉別館レセプションの日本酒ブース設営に協力。IWC上位受賞酒が外務省在外公館リストに採用となる。
2012年:佐賀県鹿島市産業活性化観光アドバイザー。
2013年:観光庁酒蔵ツーリズム推進協議会メンバー。

 

JALのCAが日本酒の魅力を世界へ発信する使命を帯びるまで

村山

平出さんは、ずいぶんたくさんの肩書をお持ちですよね。株式会社コーポ・サチの代表取締役、世界最大規模のワインコンペティションであるIWCのアンバサダー、そして、観光庁の酒蔵ツーリズム推進協議会のメンバー……。

平出

そうですね。元はといえば、全国の若手蔵元が組織する日本酒造青年協議会の会長、副会長の蔵元さん方との出会いから酒サムライ活動に参画したところからはじまりました。佐賀県鹿島市の産業活性化観光アドバイザーも引き請けさせていただいております。

 

村山

すべては「日本酒」というキーワードで繋がっているのですね。元々は、JALのキャビンアテンダントをされていたとか。

平出

そうです。JALに入社したのはまだ民営化前で、私も3年くらい勤めたら結婚して退社しようなんて思っていまして、キャリア志向などまったくありませんでした。

10年ほど勤めた頃に、同僚でソムリエの資格を取った人がいて、それに感化されるカタチでトライ。1年目に学科試験を、そして2年目にテイスティング試験をパスして資格を手にしたのです。

 

村山

当時はソムリエの資格を持たれているCAは珍しかったのではないですか。

平出

そうですね。会社側から要請され、後輩の指導に当たるようになって、仕事に張り合いがでたことを覚えています。またフライトで海外に出る機会が多いわけですから、一般的なソムリエさんでは難しい、現地のワイン情報の収集が可能でして。自主的にそのような活動を進めていく中で、現在、IWCの審査員になっているような超一流のワイン専門家たちとの出会いが生まれたのです。彼らは単なるワインの知識が豊富な専門家ではなく、ブドウの栽培から醸造、流通にも精通してワインを扱うお店の売上向上を目指すコンサルタントとして活躍し、さらにいえばワインを中心とした産業全体を育成することを視野に入れた活動を行っていました。

その姿勢に感銘を受けると同時に、ふと日本酒だって品質的にはワインに引けを取らないわけですし、圧倒的なオリジナリティを持っています。にも関わらず、大きな産業になり得ていない状況を大変残念に思いまして、先にご紹介した酒サムライの活動にコーディネーターとして参加したのです。協議会の蔵元さん方の協力を仰ぎながらIWCに2007年日本酒部門の設立に成功したのです。

村山

ずいぶん行動的ですよね。まだ、その段階ではJALでCAをされていたのですよね。

平出

そうです。酒サムライは完全にボランティア活動でした。関係各所の調整など、しばらくは二足のわらじを履いていたのですが、2010年にJALが経営破たんに陥り、希望退社者を募ったので、それに背中を押された形で退職を志願しました。落ち着かない乗務生活から解放されたわけですし、しばらく情報収集でもしようかと思っていたら、東日本大震災が発生したのです。早く社会に復帰して、何かしなくてはとの思いに駆られ、2011年6月に会社を設立するに至りました。

 

日本酒の復権をかけて、蔵元と行政を巻き込む

村山

それほどまでに平出さんを突き動かした日本酒の魅力とは、どのようなものなのでしょうか。

平出

ひと言でいえば、米と水という日本の風土の源流が凝縮されたもの。余剰作物の活用から生まれたワインやビールと違い、貴重であった米の外側を削ったピュアな部分だけで作り、神様にお供えしてからいただくという成り立ちからして日本の心そのものだなと感じたのです。そのような文化的背景も含め、海外にアピールするには十分なポテンシャルを有しているにも関わらず、それが実行できないのは、日本酒の蔵元が置かれている環境に問題があると思ったのです。

日本全国、各県に蔵元はありますが家族経営で成り立っているところがほとんどで、当然のことながら、海外へ発信するマンパワーなどありません。さらに都道府県だけでも不十分。国の力を借りて情報を発信していけば、グローバルマーケット(輸出)に繋げていくことができると思いました。

 

村山

海外の方からの評価はどうなのですか。

平出

ワインの専門家のみならず、従来出回っていた「ホット酒」ではない、その繊細な味わいに注目する人は増えていますし、彼らは歴史ある蔵元が、そのファミリーだけで伝統の味を守り続けているという事実にも関心が高いです。総じて、海外の方にとって未知なる存在である日本酒の新しい魅力を発信することは、大きなビジネスチャンスに繋がると感じたのです。

 

村山

マーケットを世界規模で捉えると、かなり大きなビジネスになりそうですね。

平出

はい。これは決して夢物語ではないと思うのです。実際に、ワインは海外でグローバルにビジネス展開していますからね。ちなみに2011年における日本酒の輸出額は88億円で、国内生産量のわずか2%に過ぎません。ところがフランスワインは7740億円で、国内生産量の半数を占めています。まだ日本酒の輸出は本格化していないのです。

村山

日本酒の情報を海外に発信する上で、弊害となる点はあるのでしょうか。

平出

やはり日本特有の縦割り行政の問題はあると思いました。お酒は酒税の関係で国税庁が管理しているのですが、輸出をすれば税収があがりませんから、産業振興を進めるのは組織として弱いですね。ですが、前政権の時に古川元国家戦略大臣が「國酒プロジェクト」を立ち上げて全部の省庁が主体的に日本酒に関われるようにされたのです。

国が一丸となって日本酒をバックアップする体制ができあがったのです。もう夢のような出来事です。そして安倍政権でもそれを更に推進する方向と聞いていますので、大きな希望を抱いています。

村山

それは素晴らしい。

日本酒のこれからの道しるべとなるべく、ビジネスフィールドは無限大

村山

肩書の多さから予想しても、平出さんのビジネスフィールドはかなり広いものとなっているのでしょうね。

平出

現在は蔵元7社のコンサルを行い、各種プロモーションからインポーターへの紹介を行うなど、日本酒全体のイメージアップを図るための活動に従事しています。また、海外にあるレストランの日本酒リストの作成やアドバイスなど営業支援的な業務も請け負っていますね。さらに、IWCのプロモーションにも関わっています。

それからこれはビジネスというより、ワインの世界で起こっていることを日本酒の蔵でも実現したかったという部分ですが、2011年にIWCで日本酒のチャンピオンとなった「鍋島」のある佐賀県鹿島市には地域興しを働きかけました。地域の蔵元さんや鹿島市、観光協会が「鹿島酒蔵ツーリズム推進協議会」を立ち上げて、その後の蔵開きのイベントに3万人もの観光客を集めることができました。2回目となる今年は5万人という事で通年観光にも取り組みはじめました。これは“スター日本酒”が登場すると地域活性も可能という良い例になったと思います。

 

村山

なるほど。IWCで評価されることがポイントなのですね。

平出

まずは海外マーケットに日本酒の品質のよさを訴求するためにIWCに日本酒部門を作ってもらうように働きかけました。これまでは、海外の和食店でしか扱われていなかったので、販路を拡大するという目的にもかなっていますし、IWCが認めることで、その“スター日本酒”がプライスレスなものになります。価値が上がれば、それを扱いたいと思うインポーターも増えてきますし、蔵元さんも潤うようになるわけですから、とても大きな意義がある活動だと思うのです。

 

村山

インバウンドにもつながっていきそうな動きですよね。

平出

おっしゃる通り、“スター日本酒”への関心にはじまり、伝統工芸品や農産物、食への興味から外国人観光客を呼び寄せるコンテンツが強化されると思います。また、同様に日本に住む外国人の方々へのアピールも重要だと思います。彼らを日本酒愛好家に育て上げれば、自国に帰ってから広がりを見せるはずです。だから、そういった方々を対象にした酒蔵巡りツアーなどを、代理店を巻き込みながら進めているところです。

 

村山

日本酒をキーワードに、国内から海外へと縦横無尽に、そしてあらゆる切り口から活動をされている点が、他に類を見ない大変ユニークな動きのように思えます。さらに広がりが生まれそうですよね。

平出

現在、6月スタートを目指して進めているのが、台湾での日本酒学校の設立。そこでファンを作って蔵元ツーリズムを実施しようと考えています。さらに食がテーマとなっているミラノ万博は大きなチャンスだと思います。世界中にひとりでも多くの日本酒愛好家が生まれるよう、そして日本酒からはじまる観光立国を目指し、今後もあらゆるキーパーソンを巻き込みながら活動を続けていきたいと思っています。

 

村山

本日はありがとうございました。

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