インタビュー

NPO法人 秋葉原観光推進協会 理事 兼 事務局長 泉 登美雄 氏

2009.10.10

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進化する街·秋葉原の英知を集結、新たな観光資源を創出する

プロフィール

・1954年北海道生まれ
・78年4月ソニーグループに入社
・85年に外国人向け専門販売会社が設立され秋葉原に異動
それ以降、2007年までツーリスト専門部署で全国の免税店を担当
・05年5月から07年3月までTIJ東京部会で商業部門のワーキングクループリーダーとして、無料ツアー等を実施して秋葉原の観光地化を行った。
・08年はソニーカスタマーサービス㈱のお客様ご相談センターでクレーム対応をおこなった。
・09年5月年からはNPO秋葉原観光推進協会で理事、事務局長として活動している。

目次
ソニーに勤務していた時代から故あって秋葉原の観光推進に関与
学生さんやクリエイターとともに、ほどほどのビジネス感覚を持って取り組む
ターゲットを限定せずに、訪れる人全てを対象とした提案を

ソニーに勤務していた時代から、故あって秋葉原の観光推進に関与

村山
こちらのNPO法人に関わるようになった経緯からお話いただけますでしょうか。

元々はソニー関連会社(ソニーマーケティング)勤務していました。1978年に入社して、たまたま千葉エリアの販売グループに配属。ちょうど成田空港が開港した年でしたので、その頃から外国人の方とのビジネスに関わってきました。
1985年にソニーが外国人向け専門の販売会社を設立しました。声がかかり、そちらに転属になったのですが、その販売会社というのが、秋葉原の岩本町にあったのです。

村山
それが泉さんと秋葉原の出会いであったということですか。


おっしゃるとおりです。その会社で、私は秋葉原の人たちと一緒になって、外国人向けのビジネスを進めてきました。
例えば、秋葉原の電気店を営む方々を集めて、外国人向けの新商品の導入会を開催し、地元の方々と密接にやってきましたので、徐々に人脈が広がっていきました。
そして2005年に時の総理であった小泉さんが「VISIT JAPAN」キャンペーンを立ち上げて、2010年までに1,000万人の観光客を呼ぼうという話になり、我々も外国人向けのビジネスをやっているという流れから、日本ツーリズム産業団体連合会(現・日本観光振興協会)さんとともに、秋葉原の電気屋さんの社長を集めて、中国マーケットや観光業についての勉強会を開催したのです。
そうしたら、秋葉原の電気振興会の会長である宝田無線電機の寶田篤社長が声を掛けてくれまして…。

村山

なるほど。寶田篤社長は、現在こちらの秋葉原観光推進協会の理事長でいらっしゃいますね。

そうです。いきなり電話が掛かってきまして(笑)、「これまでの秋葉原は電気だけだったが、これからは観光だ」という話で盛り上がり、「何か一緒にやらなきゃね」ということになりました。

そして2005年からJR東日本やJTB、JALなどが主幹の日本ツーリズム産業団体連合会を巻き込んでの、秋葉原の観光地化を推進するための本格的なプロジェクトが立ち上がり、私もチームリーダーとして参加することになりました。
秋葉原を案内する無料ツアーを始めたり、海外のイベントに参加して秋葉原の魅力を紹介するような活動を開始したのです。

村山

当時は、まだソニーの社員だったわけですか。

そうです。当時、ソニーは外国人向け製品のジャンルにおいては80%前後のシェアを持っていました。ですから、これ以上シェアを伸ばすのは難しく、海外からの訪問客を増やすのが得策だろうとの判断となり、このプロジェクトへの参加を重点施策のひとつとして捉えていたのです。
そして、活動の規模が大きくなるにつれ専門機関の必要性を感じ、2008年にNPOを立ち上げ、さらに専任の担当が必要だろうということで、2009年に私がソニーを退社し、現在に至るわけです。

学生さんやクリエイターとともに、ほどほどのビジネス感覚を持って取り組む

村山

現在、こちらのNPO法人ではどのような活動を行っているのでしょうか。

秋葉原の観光事業の発展のために、さまざまな角度からサポートを行っています。
まずは、外国人向けのインフォメーションセンターを設置し、秋葉原の観光や免税店やポップカルチャー、外国人が安心して楽しめる飲食店などを紹介しています。
こちらはNPO法人の賛助会員でもあるソフマップさんから場所を提供してもらって運営しています。こちらは設立前から実施している無料ツアーとともに、大変評判の良い企画となっています。
また、海外のイベントで秋葉原を紹介するという動きも、観光庁や経済産業省を通じて働きかけています。
しかし、もっとも力を入れているのが、この街でしかできないことを仕掛けていく活動でしょうか。

村山
秋葉原でしかできない活動とはどのようなものですか。


NPO法人の役目は、秋葉原の全ての事業者がもっているコンテンツを活かして、秋葉原の街のブランド力を高めていくことだと考えています。
そのためには、会員として登録されている商店街の方々が、それぞれに”秋葉原の発展のためにやりたいこと”を実現できるように調整をする機関が必要です。
秋葉原には、昔ながらの電気店もあれば、免税店、飲食店、フィギュアなどを扱うポップカルチャーのショップなど、他の街では類を見ないほど多岐に渡る多彩な事業者がいます。
これらの業種の垣根を越えて、NPO法人が横断的に繋げることで、旅行会社だけでは企画し得ない新たな観光資源を作り出していくことが可能となるのです。
そんな秋葉原の特性を象徴しているのが、現在デジタルハリウッド大学の学生さんや「プロダクションI・G」さんと進めているプロジェクトでしょう。

村山
こちらのキャラクターがそうなのですね。


秋葉原には、本当に素晴らしい才能を持っている事業者やクリエイターがたくさんあつまっています。この秋葉原的な個性を観光産業と結び付けない手はありません。
これらのキャラは、それぞれに日米中韓露印仏の女の子でして、彼女らが通う”アキハバラインターナショナルスクール”という架空の学校を設定しストーリー展開をしています。キャラクター制作は「プロダクションI・G」さんが担当し、人格や世界観からストーリー制作はデジタルハリウッド大学の学生さんが担当しています。

このオリジナルのキャラをそれぞれの国の観光親善大使に仕立てていくという趣旨です。

村山
秋葉原の独自性が活かされていて、とてもユニークで画期的な企画ですね。


あまりビジネスビジネスしてしまうと、発想が狭くなってしまいます。学生さんやクリエイターの方と、ほどほどのビジネス感覚を持ちながら、「アキバのためになること」を楽しく考えながらやっていく、というスタンスだからこそ作り上げることができるものもあります。
私自身も、この秋葉原の街が大好きですからね。そんな思いが集結したときに力になるのだと思います。

ターゲットを限定せずに、訪れる人全てを対象とした提案を

村山

こちらのキャラクターは、さまざまな形で発展していきそうですね。


はい。「ようこそアキバへ!」という公式ソングも作って、ダウンロード販売を開始しました。また、こちらのTシャツや、金紙に包まれたコインチョコ、トートバックや時計などのキャラクターグッズの製作も進めているところです。
このようなグッズ販売に関しては、物販を専門とする会社を立ち上げる予定です。また、ライセンス管理も専門の部署にすることでキャラクターグッズの品質アップも可能にしています。
他にもゲーム化、アニメ化などの話も持ち上がっています。また、QRコードを読み込ませると、このキャラたちが3Dで登場し、秋葉原のお店を紹介するというようなシステム作りも進行中です。
なにせ秋葉原といえば、こういった感性や技術力が集結している街ですから、さらに世界は広がっていきます。

村山
なるほど。物販やライセンス管理はこちらのNPO法人では取り扱われないのですか。


私たちは、このNPO法人の規模を拡大するつもりはありません。
関わってくれた人たちが必要な会社を作り、大きく育てていけばいいと思っています。
NPO法人は会費だけで運営していけばよいのですから。
私たちの役目は、あくまで会員として参加されている方々を横断的に繋いで調整し、街全体が発展していくことを目的としています。ある企業やNPO法人が点として栄えるのでなく、街全体が面として発展することが強みとなるはずですから。

村山
今回の震災の影響で、外国人客の訪日が激減していますが、なにか対策を講じてはいらっしゃるのでしょうか。


今回の震災をきっかけとしたわけではないのですが、すでにリスクヘッジについて考え、対策を打ち出していました。
これまでの私の経験の中でも、プラザ合意や湾岸戦争、SARSなどインバウンドにとって大変な打撃を受けた時期もありました。
秋葉原を観光地として位置づけるのならば、特に外国人対象に絞る必要はないわけです。
日本人が購入してウケるものは、外国人も楽しいはずですから、ターゲットを限定せずに、訪れる人全てを対象としたおもてなしや観光資源を提案しようという動きが生じています。
まだまだ、日本人でも知らない部分がたくさんあると思うのです。秋葉原って想像以上に奥深いですから。ホコ天が再開し、1日で8万5千人もの日本人がここにやってくるのですから、しっかりアピールしていきたいです。

村山
常に新たな試みにチャレンジし、これまでに例の無い観光資源の開発に注力する秋葉原の街の姿に、他の多くの観光地も学ぶべきヒントがありそうですね。今日はお忙しいところお時間をいただき、誠にありがとうございました。これからも秋葉原の街の発展のためにご尽力下さい。

NPO法人 秋葉原観光推進協会
http://www.npo-akiba.com/

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