インタビュー

2010.06.10

株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド代表 福永浩貴氏

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日本の旅館の存在を“文化”として世界へ発信
プロフィール
1970 年5 月9 日兵庫県西宮市生れ。
約15年に渡る英国の高級ホテルチェーンでの勤務を経て、世界各国の富裕層旅行関係者の人脈をバックに、2004年に日本で初となる高級旅館コンソーシアム「ザ・リョカン・コレクション」を発足し、海外マーケットにおいて加盟旅館のマーケティングやPRを推進し、海外の一流ホテルチェーンを凌ぐブランド構築を目指し活動している。
経済産業省事業であるラグジュアリートラベルマーケット委員会にも事業立ち上げ当初より事務局長として参加、昨今ではツーリズム関連に留まらず、海外に向けた日本発高級ブランドや伝統工芸品、地方自治体等の海外富裕者層に向けたPRやマーケティングのコンサルティングも手掛ける。

目次

  • 日本の旅館は世界的に稀有な存在。そんな魅力にひかれてホテル業界から転進
  • 海外富裕層の旅行者は、旅館が持つストーリーに興味を抱く
  • アートや食など業界の枠を超えた、旅行のプロモーションが今後の課題

 

日本旅館は世界的に稀有な存在そんな魅力にひかれてホテル業界から転進

 

村山

まずは御社の事業概要からお聞かせいただきますでしょうか。

福永
大メイン業務は「ザ・リョカン・コレクション」の運営です。これは日本初の海外マーケティングを目的にした日本旅館コンソーシアム(組合・連合)で、小規模な旅館が集まり、個々ではなかなかできない全世界へ向けた営業、プロモーションを行い、さらに外国人受け入れのためのノウハウを提供する組織です。現在では約1万2千人の外国人富裕層の会員があります。

そして、もうひとつが、コンソーシアムの活動を通じ、加盟旅館一軒一軒が外国人を効果的に受け入れ、経営の安定化を図る目的の事業のほか、外国人旅行客の方が日本旅館のほかに、日本の楽しみ方をご提供するコンシェルジュ事業。単純に観光地のご案内をするだけではなく、富裕層の方々が求める”一生に一度の体験”を意識した付加価値の高いサービスを提供する「RPIコンシェルジュ」を運営しています。

さらに、このような業務経験を通じて培ってきたノウハウをベースに、海外のホテルチェーンや各省庁、地方自治体に対するコンサルティング業務を行うという、3本柱にて活動しています。

村山

日本の旅館だけに特化したコンソーシアムサービスは、オンリーワンのビジネスモデルのようにお見受けいたしますが、どのような経緯で起業するに至ったのでしょうか。

福永

元々はホテルマンとして、イギリスのホテルチェーンに勤務。イギリスやシンガポールなどで世界各地のホテルの立ち上げに携わってきました。海外を渡り歩いて気づいたのが、日本のホテルマンが世界に進出している例もなかったし、そもそも日本のホテルの存在感が世界であまり認識されていなかったこと。
サービスやホスピタリティの面においては、間違いなく世界レベルであるはずなのに……。
ホテルマンとして、”私たちの日本はこんなものではない”といったジレンマのようなものを感じていたんです。

村山
なるほど。海外から日本を見ることで気づいたということなのですね。

福永
そうです。そこで、改めて日本の宿泊産業を見直してみたのです。すると日本の旅館というのは、ホテルの8倍である約6万5千軒(2004年の開業時現在)という規模があり、それこそ1300年も前から続いている伝統産業のひとつ。しかも大きな運営会社や組織的なバックボーンもなく、代々家族経営で伝統を守っているというケースが多い。

世界的に見ても稀有な存在であるにも関わらず、海外の方にはその素晴らしさが理解されていないのでは、と思ったのです。

村山
そして、起業を決意されたわけですね。

福永
当初はそんなつもりはありませんでしたが(笑)。
ホテルに勤務しながら多くの旅館を回り、様々なヒアリングを重ねていくうちに、どんどんその魅力に取り付かれていきましたし、欧米のホテル勤務が長かったせいか、逆に日本人としてのアイデンティティを強く意識するようになったのです。
そして何とかしたいという思いが強くなり、ヒアリング終了後にビジネスモデルが出来上がった時点で起業を決意したのです。

海外富裕層の旅行者は旅館が持つストーリーに興味を抱く

村山

「ザ・リョカン・コレクション」について教えてください。現在では、どのくらいの規模で運営をされているのでしょう。

福永

立ち上げ時には、加盟旅館軒数19軒からスタートし、今では30軒となっています。それに対して、利用者の側である外国人会員は、先ほど申したように1万2千人ですが、2010年の実績ですと年間約1万人の方がアクティブに予約をしているという状況です。

「ザ・リョカン・コレクション」に旅館を加盟するためは、私どもが設置する審査委員会にて、250ポイントに渡る審査基準をクリアした日本旅館、小規模ホテルのみが加盟できます。

評価をするメンバーは海外の富裕層の方、日本のホテル関係者など8人で構成。電話の応対からはじまり、ホスピタリティ、食事、清潔感など、こと細かにチェックさせていただいています。

村山

審査が通った時点で、加盟料を支払い加盟できる、というシステムなのですね。

福永

そうです。ヨーロッパではこのような組織が多くありますが、この日本では馴染みの無いビジネスモデルでしたので、なかなか理解されずに苦労しました。

日本では旅行会社の力が強く、任せておけば成功報酬で大丈夫というか、これだけITの普及によりユーザーが自分たちで直接アプローチできるようになったにも関わらず、そういった旅行会社任せのマーケティング方法しか存在しないと思い込んでいたんですよ。

しかし、どんな人気旅館であっても、世界に日本旅館の素晴らしさを伝えたい、これからはグローバルに自分の守ってきた旅館のブランドをゼロから構築したい、そんな旅館オーナー様の熱意に支えられ、世界での「RYOKAN」ブランドを着実に構築してまいりました。

村山
そこにニーズがあったわけですね。

福永
日本では老舗として有名であっても、世界ではブランドが確立されているわけではないですからね。しかし、マーケットに入っていくことができれば、間違いなく評価されるということを私は確信していました。
特に私たちがターゲットとしている富裕層のニーズというのは特殊で、彼らは目に見えないものへの投資を通じ、自分の心を豊かにし、健康であり続け、富を永続したい、という目的を持っています。
だから、買い物とかグルメとか即物的なものでなく、1300年という歴史の中で培われてきた、日本的なおもてなしの心、その背景にあるストーリーに興味を抱き、そこに日本経済発展の秘密などを探ろうとしていたわけです。

村山

なるほど。確かに普通の旅行者の感覚ではないのですね。

福永

そういった観点からすると、日本の旅館というのは、海外の富裕層のニーズにしっかり応えていけると実感しているのです。
まずトップニッチにアプローチして認識を深めてもらい、各旅館ではなく「ザ・リョカン・コレクション」のブランディングを強化し、やがて中間層などにも浸透させ、日本旅館全体が世界的な認知度を獲得し、日本旅館が恒久的に世界に認められ、この素晴らしい我が国の「文化」を維持、継承を行っていけることを大きな事業目的としています。この国の「文化力」を上げ、世界中の人を惹きつけ、憧れの国「日本」として世界に認められるまで、真剣に事業に取り組んでいます。

アートや食など業界の枠を超えた旅行のプロモーションが今後の課題

村山
今後の展望について教えて下さい。

福永
まずは世界に向けて”日本の旅館”を認知してもらうこと。ただ知ってもらうだけではなく、10年、15年という期間をかけて、”文化”として世界に浸透することが最終目標です。

そして、加盟旅館の方々が、それぞれに考える成功、例えば客数を伸ばしたいのか、世界に向けてブランドを構築したいのか、それらを手にできるまで、共に二人三脚で、地道に歩んでいきたいと思っています。
加盟したからといってすぐ集客できるものではありませんが、利用者数の推移からしても確実に認知度が高まっていることは事実です。

村山

福永さんだけではなく、旅館の方々も共に歩んでいくという姿勢が大切だということですね。

福永

そうなんです。我々の役目は、日本旅館に初めて泊まる方、「ファーストタイマー」を創出することですので、その後リピーターやよい口コミを得るには旅館そのものの努力とやる気が必要だと思います。

しかし、日本の旅館文化は、世界においてプレミアムな存在であることは、間違いなく断言できると思っています。世界中の人々を魅了するに充分なものを持っていると。まずは、それを旅館側の方々も認識し自信を持つことが大切だと思っています。そして、客観的に日本の魅力を発信できるように。そのためには海外から日本を見直すことも重要です。

村山
そうでないと、日本がひとりよがりの情報提供になってしまうと?

福永
おっしゃるとおり。少なくともツーリズムに関わっている人間ならば、そういった意識を持ってもらいたいと思います。
外国の方が日本に来るきっかけをつくるということは、そこからあらゆる日本産業の底上げに繋がる可能性が高いということ。要するにホテルやレストラン、交通インフラといった直接的なもの以外に、例えば日本の伝統工芸品や伝統芸能の魅力に触れた富裕層の方から、その尊い文化を継承、発展していける大きなビジネスチャンスが生まれるかもしれない。そういう重要な役目を担っていると自覚するべきなのです。「観光」に携わる人間は世界に「日本」を売り込むトップセールスマンの自覚が絶対に必要です。

村山
確かに。日本にはたくさんの素晴らしいプロダクトがありますから、インバウンドがその魅力を紹介する窓口となる可能性は大いに高いですね。

福永
私が最近手がけているアート業界との協力事業もそう。フランスで高野山を撮影した写真の展示会を実施したのですが、写真が売れるのはもちろん、高野山へ旅行したいという声がそこから生まれました。
アートというアイコンをシェアして、アート販売、旅行、レストランなどいくつかの関連事業がコラボできるわけです。これからは業界の枠を超えた旅行のプロモーションが益々求められることになるでしょう。産業を超えて今までの観光業の常識を超え、「日本ブランド」を世界に売るのです。当社が構築してきたネットワークを使って、新たな需要を生み出すことも必要ではないかと思うのです。

村山

日本の文化を外国人視点にて紹介を続ける福永さんの取り組みに大きな可能性を感じました。これからもその意義ある業務を進め、日本の旅館、ひいては観光業をリードする存在であっていただければと思います。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。

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