インタビュー

岐阜県高山市のインバウンド戦略に学ぶ ~なぜ人口の5倍以上、46万人の外国人を集客できるのか~

2017.11.01

堀内 祐香

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1986年、国際観光モデル地区に指定された直後に、国際観光都市宣言をした岐阜県高山市。それ以降、他の地域に先駆けて、多言語化やバリアフリーを実現してきた。その努力もあり、現在は、人口9万人の高山市に年間約46万人もの訪日客が宿泊している。

これほどまでに多くの外国人の心を惹きつけて離さない高山市が行ってきた、インバウンドの取り組みはどのようなものなのか、長年同市で海外戦略を担ってきた田中明氏にお伺いした内容を、Part1~4の4回にわたってお届けする。

Part1では、インバウンドの戦略を立てるにあたって欠かせない“商品(地域の魅力)・集客・受入環境整備”の3つの観点から、高山市の取り組みを紹介する。

 

<目次>

    1. 地域の魅力の見極めのコツ、それは「今あるもの」で勝負する
      1-1.地域の魅力を絞り込んだうえで「普段の暮らし」をいかに魅せるか
      1-2.自治体の方が見せたいものと、外国人観光客が見たいものは違う
    2. プロモーションにあたっての高山市のこだわりとは?
      2-1.一番大切なことは、何においても「人間関係」
      2-2.実績を出すためのコツは、積極的な民間企業を応援すること
      2-3.プロモーションビデオは最大3分 動画制作も「絞り込み」が必須
    3. 受入環境整備における行政の役割は『インフラ整備』
      3-1.高山市のコンセプトは「一人歩きできる街づくり」 
      3-2.MAPの言語はできるだけ豊富に、ただし街中の看板はシンプルに
    4. インバウンドに本気で取り組むならば、真剣さと覚悟が必要!
      4-1. このままでは…という危機感が高山市の原動力に
      4-2. 「継続は力なり」5年後10年後を見据えた計画が結果へつながる?!
    5. インバウンド対応にあたっては、民間企業の巻き込みが必須!
      5-1.行政の存在意義は『地域住民の幸せ』を追求すること
      5-2.行政ができることは、「売るサポート」実際に売るのは民間企業
    6. 訪日外国人の集客には、周辺地域との連携が必要不可欠!
      6-1.競争ではなくて共生! 周辺エリアとは積極的に連携を
      6-2.考え方の基本は、「外国人視点」連携先を選ぶ際のポイントは?
    7. 最後に「インバウンド成功の鍵は、そこに住む人々」

 

 

インバウンド対応に欠かせない、“商品・集客・受入環境整備”の3つを制するために

1.地域の魅力の見極めのコツ、それは「今あるもの」で勝負する

1-1.地域の魅力を絞り込んだうえで、「普段の暮らし」をいかに魅せるか

インバウンド対策を進めると決めた事業者の方、特に地方自治体の方が陥りがちなのは、「外国人向けの新しいコンテンツを作らなければならない」と思い込んでしまうことです。しかし実際、そのような考えは必要ありません。

その地域の風習や習慣など、“普段の暮らし”を見せることが最強のコンテンツだと思います。

雪景色

具体的には、食べ物やお酒、お祭りといった、その地域ならではの特徴をしっかりと見定めて、それをクローズアップして見せることが重要です。その際に気をつけたいのが、魅力の絞りこみです。

つい、いろいろ詰め込みたくなりがちですが、そうすると魅力が際立たず、地域の魅力が曖昧になってしまい、外国人の方に伝わりにくくなります。

 

1-2.自治体の方が見せたいものと、外国人観光客が見たいものは違う

先ほど、魅力の絞りこみが大切とお伝えしましたが、その際に心に留めておきたいことは、地方自治体の方が見せたいものと外国人観光客が見たいものは違う、ということです。

つい、私たち日本人が魅せたいものを盛り込んでしまいがちですが、外国人の心に刺さる魅力をわかりやすく伝えるためには、外国人の視点が欠かせません。高山市では、在日外国人の方を招待してモニターツアーやファムトリップを行い、外国人にとって魅力的なコンテンツがどのようなもので、何に興味を示さないかを何度も確認してきました。

市役所駐車場(雪よけ後の雪景を写真で撮るタイからの旅行者)

▲高山市役所駐車場で雪景の写真を撮るタイからの旅行者

その中で、タイの方には、冬の高山市の“ただ雪が積もっている景色”がとてもエキサイティングで魅力的に映ることや、韓国の方(特に若い世代)には、高山の魅力が伝わりづらい、ということなどがわかってきました。韓国の方にとっての日本の魅力は、1~2泊でリーズナブルに旅ができることであり、空港から電車やバスを乗り継いで何時間もかけてまで高山を訪れるよりも、もっと短時間で訪れられる魅力的なエリアに目が向くのでしょう。

一方で、欧米の方には、高山は非常に人気があります。彼らの旅行の特性として、2週間以上をかけて日本国内を周遊する人が多く、東京―大阪を結ぶゴールデンルートの途中に高山が位置するため、立ち寄っていただきやすいのだと思います。

このように、誰がどのようなコンテンツに魅力を感じるのかを掴むことで、重点地域やエリアを絞ったプロモーションができます。そのため、限られた予算を効率的に使うことができるようになりました。

 

2.プロモーションにあたっての高山市のこだわりとは?

2-1.一番大切なことは、何においても「人間関係」

海外プロモーションに限ったことではありませんが、一番大切なのは、人間関係だと思います。

高山市は、海外で開催される旅行博に出展する際、現地の旅行会社やメディアの担当者と名刺交換や情報交換をしますが、それ以外でも有効だと思ったら、予算の範囲内で現地に足を運びます。

その際、高山市が最も大切にしていることは、トップセールスです。

市長ソウルでのトップセールス

▲高山市長のソウルでのトップセールスの様子

海外現地を訪れる際、私たち職員が挨拶に行くのと、高山市長が自ら出向くのでは、相手の反応が全く違います。市長の訪問で、少しでも先方に興味を持っていただけたら、インバウンドを担当する職員が再訪して関係を作っていく。その上で、興味を持ってくださった現地企業の方に高山をPRしていただくなど、地道にコツコツ努力してきました。

この取り組みは、海外の現地企業に対してだけではありません。インバウンドに関するすべての組織との関係構築に努めています。例えば、高山市では、市長や職員が東京へ行く際は、必ずと言っていいほどJNTOや観光庁を訪れます。JNTOの松山理事長や観光庁長官への挨拶は欠かしません。

地道な努力の甲斐もあり、高山市が運用するFacebookで「桜」に関する記事を投稿した際、JNTOが公式アカウントにシェアしてくださり、瞬く間にリーチ数が20万以上に上り、多くの方からの「いいね」をいただくことができました。

 

次回(Part2)では、引き続き高山市のプロモーション施策を紹介、また行政のインバウンド対応に欠かせない「受け入れ環境整備」に対しての高山市の方針もお伺いする。

Part2へ続く

 

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高山市役所 企画部 部長 田中明 氏

1961年岐阜県県高山市生まれ。
大学を卒業後、都内商社に勤務し貿易を担当。
昭和62年、高山市役所入所。16年間の国際交流担当を経た後、教育委員会、久々野支所次長、地域振興室長(課長級)、地域政策課長を務め、平成23年4月から6年間、海外戦略部門の部長を務める。

 

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