TOTTEOKI PROJECT

スキー場としての“圧倒的な潜在力”をどう消費拡大につなげるか。豪州と台湾を狙ったコンテンツ強化策が志賀高原でスタート

2021.03.12

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コロナ禍によって、世界中の観光業を中心とした地域経済が岐路に立たされている。しかし、人口減少という大きな流れがあるなか、海外需要の獲得を包含したインバウンド消費の増加への取り組みは〝待ったなし〟で進めていかなければならない。

そんななか、海外のライフスタイルやニーズをしっかりと捉えたうえで、地域の魅力を磨き上げ、需要拡大につなげていくプロジェクトが進められている。その名も「TOTTEOKI PROJECT(とっておきプロジェクト)」。

外国人専門家を中心とした外部の有識者と地域が共創することで、商品やサービスに化学反応をもたらすこのプロジェクトは、コロナ禍後を見据えた需要拡大に向け、全国で12の事業が進められている。今回は、そのなかでも「やまとごころ.jp」が注目した3つのプロジェクトについて紹介していきたい。

 

積極的なインバウンドへの取り組みをしてこなかった日本有数のスキーエリア「志賀高原」

最初に紹介するプロジェクトは、長野県北部、上信越高原国立公園に位置する志賀高原が行っている「外国人による長期滞在や消費拡大を強化するためのウィンターシーズンのコンテンツ強化」である。

「インバウンドが大事だといっても、既存の国内需要を割いてまで新たに拡大させようという思いは、志賀高原にはありませんでした。そのことをマイクさんにもお伝えしたところ、『需要の拡大を狙うといっても、地域側の条件に合わせること、そのうえでの商品造成が重要だ。それが地域の個性にもなる』と言ってもらえて、“我々がやろうとしてきたこと”に自信を深めることができました」

そう語るのは、本プロジェクトの実施主体である一般財団法人長野経済研究所とともに事業を推進させている志賀高原観光協会で事務局長を務める野口晃一氏だ。〝マイクさん〟とは、ニュージーランド出身で、2000年より群馬県みなかみ町でアウトドア・スポーツ事業を展開するマイク・ハリス氏のことである。

志賀高原が推進しているのは、オーストラリア人を中心にターゲティングしたレジャー用に管理された区域の外で行うバックカントリースキーツアーと周遊ガイドつきスキーツアーの造成、ならびに台湾人を中心にターゲティングしたキッズと雪山初心者向けの体験ツアーの造成である。

そもそも志賀高原は18のスキー場、約80以上のコース、50本ものリフトとゴンドラが折り重なっている、日本でトップクラスのスケールを持つスキーエリアで、1300〜2300メートルという標高の高さからくる極上のパウダースノーでも知られている。こうした地域特性を最大限に生かそうと考えたわけである。

「実は、マイクさんとは本事業前からお付き合いがあり、そのなかで我々志賀高原が持つポテンシャルを非常に高く評価していただいておりました。一方で、志賀高原は国立公園であり、さらに大部分が江戸時代末期から続く入会地でもあります。入会地というのは、特定の地域に住む特定会員のみが営利事業を行えるという規制のある土地のことです。そのため、志賀高原には他の観光地のようなスキー以外のエンターテインメントの部分や町、村の日常生活圏、つまり食べたり飲んだり遊んだり、買い物をしたりといったコンテンツがほとんどないんです」(野口氏)

そうした地域事情に加え、教育旅行を含めた国内需要が大きかったことから、北海道のニセコや、志賀高原と同じ長野県にある野沢温泉や白馬といったエリアでインバウンド需要が沸いているのを目の当たりにしながらも、積極的に外国人を誘客しようという考えはなかったという。

 

セールスのために訪れたオーストラリアの旅行会社からの言葉が転換点に

しかし、2017年を境にして、考え方に変化が生じてくる。そのきっかけになったのが、自然環境の保護と利用の好循環を生み出すために始まった環境省の「国立公園満喫プロジェクト」だった。

「先行事例として行う8公園にはなりませんでしたが、展開事業として選ばれたいくつかのエリアの1つになりました。そこでまずは志賀高原を知ってもらうことに注力するため、オーストラリアや香港、アジアを中心とした旅行会社を志賀高原にお呼びするなど、この地域のことを知ってもらう取り組みを行いました」

その際、スキーエリアとして高い評価を受けた一方で、アクセス方法や先にお話ししたスキー以外のエンターテインメントがないことなどが、認知されていないという課題が浮かび上がってきた。そこで翌年の2018年には、海外に出向いて、志賀高原のセールス活動を行った。すると、オーストラリアの旅行会社を中心に、驚きの反応が返ってきたという。

「日本のスキー旅行を扱う会社さんに行った際、『10年以上スキー旅行商品を扱ってきたけれど、ここ1、2年は志賀高原への指名が多い』と言われたのです」

彼の地へ赴いた担当者が「なぜですか」と聞くと、「“ニセコも白馬も野沢もいいけれど、プラスアルファで行きたいところがある。SNSやネット検索で調べると、志賀高原というところがあるらしいじゃないか。そこには行けないのか”というような問い合わせが多い」という回答だった。

スキーを目的として日本を訪れてきた外国人リピーターたちが、「まだ行ったことがない場所」「ニセコや野沢とは違う魅力を持つところ」を探し始めていたのだといえる。いわば、日本人がハワイ旅行をリピートするなかで、ホノルルやオアフ島以外の場所を求めだしていったイメージが近い。

 

マイク氏からの助言を受けて実施した2泊3日のモニターツアー

実際、志賀高原にはすでに外国人の姿が現れ始めていた。特に2018年からは、目に見えて海外からのスキーヤーが増えてきたという。

「それならば、志賀高原の強みときちんと生かしたコンテンツを造成して、滞在期間を伸ばし、消費の拡大を狙っていこうじゃないかと考えました。しかし、それまで我々志賀高原は、きちんとリフトを動かし、ゲレンデを整備することによって、お客さまが来てくれるというような気持ちもありました」

それでは海外からの観光客はおろか、日本国内からの観光客にとっても、他のスキー場との差別化という意味では、十分ではない。そこで、本プロジェクトを実施するに至ったというわけだ。

とはいえ、新型コロナウイルス感染症が発生した最中での船出だった。そこでまずは在日外国人を対象としたオンラインでのワークショップを実施し、ウィンターシーズンにおけるニーズの調査を行った。そのうえで、海外におけるアウトドア・スポーツ市場に造詣が深く、自身でもバックカントリースキーのツアーを実施するマイク氏のアドバイスをもとに、2泊3日のモニターツアーを実施した。

実は、このモニターツアーは当初の実施予定に入っていなかった。しかし、バックカントリーツアーの商品化を目指すためには、フィールド(現地)調査とコース選定は必須との指摘を受けて、2021年1月に感染症予防対策を十分に施したうえで、開催にいたったという。

 

有益なモニターツアーの実施につながった、隠れた成功要因とは?

参加したのは2人の在日オーストラリア人と3人のニュージーランド人。コース設定の段階からマイク氏の知見や下調べを存分に活かしたことに加え、ガイドやサポート役を務めた地元のスキースクールのインストラクターや、観光協会の若手職員らの尽力のもと、非常に満足度の高いモニターツアーとなった。長野経済研究所の玉木壮太氏はこう指摘する。

「マイクさんのアドバイスもさることながら、ツアーを実施した地元の皆さんがとても良い働きをしてくれたと感じています」

志賀高原は日本のスキーリゾートのなかでは異色な存在であるのだという。共通のリフト券により広大な18のスキー場をすべて利用できる仕組みは日本では珍しく、どちらかといえば欧米にあるスキーリゾートの仕組みに近く、特にオーストリアのチロル地方は、その地域の成り立ちも似ている。そんななか、志賀高原観光協会では、地域の将来を担う若手を中心に、約10年前より定期的に、海外リゾートの視察を行ってきた。

「10名単位で、スイス、オーストリア、フランス、それから直近ではアメリカのコロラド州にあるベイルリゾートに行き、現地の観光局や行政とのビジネスミーティングを含め、最先端のスキーリゾートを体験してきました。帰国後は観光協会の各事業所の全員を集めての報告会も行い、志賀高原のビジョンについても話し合います。そうした下地があったからこそ、マイク氏とともに実施したモニターツアーでは、関わった全員が有機的に動くことができたと思っています」(野口氏)

冒頭で“我々がやろうとしてきたこと”と書いたが、それはこの海外視察で端的に表れている。いわば、日本でインバウンドの誘致に成功してきた他のスキーリゾートに追随するのではなく、志賀高原の特徴と強みを生かしたうえで、どのように質を高めていくかという戦略だ。この点については、太鼓判を押してもらった気持ちだという。

モニターツアーでは、マイク氏や参加者から、ツアーのサービス名である「スキーサーカス」が外国人にはネガティブなイメージがあるため、「スキーコンシェルジュ」にしたらどうかといった具体的な提案から、徹底したルールづくり、案内看板の設置などの受け入れ環境の整備を行うこと。さらに、バックカントリースキーに欠かせない専門知識を持ち合わせたガイド会社の誘致とガイドを付けることを推奨する仕組みづくりなどが提案された。

 

在日台湾人を対象にしたワークショップと1泊2日のモニターツアーの効果

さらに、台湾は日本と文化形成も似ていることもあり、国内旅行者の延長で呼び込めると考え、プロジェクトに取り入れた。

「長野県には従前より台湾からの観光客の受け入れ実績があることから、短期間で成果を出すという狙いも込めて、オーストラリアと並んでメインのターゲットに据えました」(玉木氏)

そこで、在日台湾人を対象にした1泊2日のモニターツアーを実施。よく知られているように、台湾には滅多に雪がふらない。そのためターゲットとして、「スキーの経験値が少ないものの、雪を生かしたアクティビティに関心がある層」とした。

先に記したワークショップで、スキー初心者でも楽しめるアクティビティへの関心度が高いことが判明したため、よくある雪遊びだけでなく、スノーシューを履いたハイキングも実施した。

「そうしたアクティビティは、事前にすべて自分たちでやってみて取捨選択していきました。とても満足度が高かった一方で、志賀高原の認知度の低さを実感し、その課題に向けては繁体字でのパンフレットの充実や、台湾にある既存のコンテンツとの連携などの提案があり、なるほどなと思いました」(野口氏)

具体的には、志賀高原のゆるキャラである「おこみん」と台湾のゆるキャラ「オーベア」の合同プロモーションや、台湾にある国立公園との相互連携などがあったという。

 

潜在力に甘んじることなく、コンテンツ強化に邁進する

まだまだこのプロジェクトを含め、志賀高原のインバウンドへの取り組みは始まったばかりだ。今後は、先に触れた施策や事業に加えて、SNSを通じた情報提供への取り組み、さらにファムトリップやインセンティブツアーにも力を入れていきたいと話す。

「正直、現地(志賀高原)に来てもらいさえすれば、満足してもらえる自信はあります」と野口氏ら関係者は口を揃える。それほど、志賀高原には魅力があると考えているからだ。

ただし、それだけでは滞在中の満足度は高まらないし、地域にお金が落ちる消費拡大にもつながらない。もちろんそのことを理解しているからこそ、本プロジェクトを通じて消費拡大につながるコンテンツの充実を図っているわけだ。このウィンターシーズンのコンテンツ強化が事業として形となった暁には、まさに“鬼に金棒”といえる状態になっているだろう。

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