国立公園満喫プロジェクト

外国人富裕層の誘客を目指して、舵を切った富士箱根伊豆国立公園と日光国立公園の取り組み

2021.03.29

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2016年に日本政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」に端を発し、環境省が始めた「国立公園満喫プロジェクト」。世界水準のナショナル・パークを目指し、インバウンドを含めた観光への利用を推進するこのプロジェクトでは、令和元年度より「先進的インバウンドプロジェクト支援事業」を行っている。

同事業は、国立公園における自然環境の保全にも寄与する持続可能な収益モデルを築くため、アドバイザーの派遣や事業費の支援を行うもの。品質と価格の両面においてコンテンツの高付加価値化は喫緊の課題であり、先進的な事例を支援することで、全国に34カ所ある国立公園へ波及させる狙いもある。

本稿では、そんな先進的な事例ならびに成果を3つの切り口から紹介していく。具体的には、これからのインバウンド施策のキーワードでもある「ラグジュアリー」、「デジタル」、「アドベンチャー」である。それぞれ、2つの国立公園の取り組みに言及する。

 

コロナ禍で加速する量から質への転換のなかで不可欠な「富裕層」の取り込み

国立公園を観光に活用していくという施策には、“ジレンマ”もある。国立公園には保全という至上命題があるからだ。そこで考えるべきは、オーバーユースを防ぎながら、収益アップを狙っていくこと。

必然と、観光客を集客するにあたっては、量(人数)ではなく質を追う施策が求められてくる。加えていえば、2020年よりコロナ禍が世界の観光業界に猛威をふるっているなか、量から質への移行は加速するともみられている。

そこでキーとなるのが、ラグジュアリーな観光客(富裕層)をいかに取り込むかだ。国立公園に限らず、あらゆる観光地にとっても重要な施策であるラグジュアリー層の取り込みに臨んでいるのは、富士箱根伊豆国立公園ならびに日光国立公園の2つのエリアである。

 

5カ国12観光団体が参画する「Best on the Alps」をベンチマークに3県が連携

先に紹介するのは、富士箱根伊豆国立公園。同エリアでは、Best of the Fuji富士山ラグジュアリーツーリズムコンソーシアムが「Best of the Fuji富士山ラグジュアリーツーリズム企画推進事業」を行っている。

富士箱根伊豆国立公園における最大の魅力は、日本一の山である富士山だ。富士山は、海外での認知度も高く、実際にインバウンド客からの支持も厚い日本屈指の観光スポットである。

一方で、大阪と東京を結ぶ、いわゆる“ゴールデンルート”のなかで、立ち寄りスポットの定番にもなっていることからわかるように、「滞在客が少ない」という課題も抱えていた。なかでもとくに富裕層向けのコンテンツが不足しており、4〜5泊という長期滞在には不向きであった。

実は、欧州のアルプス周辺エリアでは、5カ国12観光団体が参画する「Best of the Alps」という広域で連携したブランド戦略がある。1つの限られた地域だけでは富裕層に好まれこそすれ、惹きつけることはできない。したがって、点在する魅力ある地域を結びつけ、周遊を促すことで、富裕層への訴求力を高めるという戦略だ。

Best of the Fuji富士山ラグジュアリーツーリズムコンソーシアムでは、この欧州で富裕層を惹きつけることに成功している戦略をベンチマーク。静岡、山梨、神奈川の3県の団体が連携し、さらに各県の地域金融機関がバックアップに入り、「Best of the Fuji」の構築ならびにブランドやマーケティングの強化につなげるべく事業を行っている。

 

富裕層向けの特別な体験を組み入れたツアーを造成し、マーケットでの販路構築を目指す

具体的には、エリア内に点在する富裕層向けのコンテンツを洗い出したうえで、ラグジュアリートラベルのプロである欧米の外国人専門家をファムトリップに迎え入れた。これにより富裕層向け周遊ツアーとしてのポテンシャルをもつことがわかったものの、「日本文化への理解を得るコンテンツ」「特別な自然体験の提供」「食事における選択肢の多様化」「ナイトタイムプログラムの充実」「地域経済への貢献性」などのポイントで課題があるとされた。

そこで富裕層向けの体験商品の企画開発を行うと同時に、5つのツアープランを造成した。もちろん商品をつくるだけでは観光客を呼び込むことはできない。その先には、いわゆるセールスやマーケティング活動が必要となってくる。

無論、Best of the Fuji富士山ラグジュアリーツーリズムコンソーシアムでもすでに動き出している。そもそもラグジュアリートラベル市場は、クローズドなコミュニティが形成されていることもあり、ピンポイントに情報発信やセールスが有効である。

具体的にはラグジュアリートラベルに関する豊富な知見をもつルート・アンド・パートナーズ社と連携し、ILTM(世界的な富裕層向けの旅行博)での販路構築を画策した。コロナ禍によって、ウェビナー商談会となったが、事前に想定していた以上に、有望な富裕層専門のエージェントと商談を行うことができた。

加えて、ブランド構築に向けたB to C向けのPR活動も重要だ。かつて京都がアメリカの富裕層向け旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」でPRに成功してきたように、富士箱根伊豆国立公園エリアでも、富裕層向けの雑誌やメディアにアプローチしていく。

 

歴史的にも富裕層に選ばれてきた奥日光・中禅寺湖畔

日光国立公園エリアにおいても、ラグジュアリー層を取り込むためのコンテンツ開発事業が行われている。日光東照宮を筆頭に、日本を代表する観光地である同エリアは、国内旅行者ならびに日帰りのインバウンド客が主体となってきた。

一方で、奥日光の入り口に位置する中禅寺湖畔は、歴史的に富裕層向けの避暑地として高いポテンシャルを持っている。加えて、2020年にはザ・リッツ・カールトン日光が開業したこともあり、ラグジュアリーをターゲットにした商品開発やコンテンツの造成によって、欧米を中心とした富裕層を呼び込むことが期待されている。

 

歴史的建造物をユニークベニューとして活用、富裕層誘客のフックに

1つの大きな動きとしては、中禅寺湖畔に佇む歴史的建造物をユニークベニューとして活用するものがある。会議やイベント、レセプション(いわゆるMICE)をコンベンションセンターではなく、地域の文化的な施設で行うことで特別感を演出し、参加者や招待客をその地域のファンにする狙いがある。

国の登録有形文化財にも登録されているイタリア大使館別荘記念公園や、約120年前から使用されていた別荘を復元した英国大使館別荘記念公園などの旧大使館別荘をユニークベニューとして活用することを目指している。もちろん、奥日光がほこる豊かな自然資源を舞台にした、さまざまな高品質のアクティビティも、富裕層向けに磨き上げていくことで、高単価・高品質のツアー商品を地域として戦略的に造成している。

先に記したイタリア大使館別荘記念公園は、2022年度の運用開始を目指し、改装計画を進めているが、同時にフォトウェディングや貸切パーティーの成約と、既存施設での実施も行っている。

アクティビティとしても、eバイクトレッキングやスタンドアップパドルボードなどの新規アクティビティの構築、ならびにガイドの養成や通訳案内士との連携などを通じた既存商品の磨きあげを進めている。

2020年には、一般社団法人DMO日光(2017年発足)が組織を一新させ、インバウンド施策の実行組織として、地域全体を牽引していく姿勢を打ち出している。こうした一連の事業や活動から見て取れるのは、栃木県として滞在型のインバウンド獲得に向けての覚悟だ。

 

コロナ禍後を見据え─

有事によってインバウンドが落ち込んだ後、反転攻勢に成功するのは、こうした事前準備を怠らなかった地域であることは、歴史が証明している。

コロナ禍後に、国際観光市場が復元してきたときに、富士箱根伊豆国立公園エリアならびに日光国立公園エリアがどう変貌を遂げていくか、注目していきたい。

 

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