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第76回

訪日客数4000万人に向けたJNTOのデジタルマーケティング戦略とは?

2018.02.07

2018年1月31日、第19回JNTOインバウンド旅行振興フォーラムが開催された。海外で訪日プロモーションを手掛ける、世界20市場、22拠点の事務所長が一堂に会し、海外市場の最新動向を発表したほか、デジタルマーケティング・ビッグデータ・MICE・ラグジュアリートラベルといったテーマ別の講演も開催。

今回は、2017年10月にJNTO内に新設されたデジタルマーケティング室で室長を務める吉田氏の講演「JNTOにおけるデジタルマーケティングの考え方」の内容をわかりやすく解説する。

 

ミレニアル世代の獲得にはデジタルマーケティングが欠かせない

 デジタルマーケティング室が発足した経緯は、何よりも政府の方針によるところが大きい。

2017年5月に開催された第12回観光戦略実行推進タスクフォースの中で、政府が掲げた「2020年に訪日外国人旅行者数4000万人、旅行消費額8兆円」実現のために3つの取り組み方針が提案された。その一つが「JNTOの大胆な改革」。この中でデジタルマーケティングを本格導入のために専任部署を立ち上げるべきと言及されたことを受け、実現した。

ただこれだけではなく、世界の旅行者のトレンドの急激な変化も大きく影響している。昨年、米フォーカスライト社が発表した調査結果に、ミレニアル世代の旅行トレンドとして①モバイルブッキング、②OTA活用、③民泊、④チャットの4つの特徴が示された。ここに見られるように、若い旅行世代の取り込みにはデジタル対応が欠かせないとの考えを持ち、現場では取り組みを進めている

 

デジタルマーケティング実施にあたっての4ステップ

こうして立ち上がったデジタルマーケティング室だが、「デジタルマーケティング」という漠然な言葉に対して、どう整理していくかについて、JNTO組織内でまとめ、①情報発信基盤の整理、②データ収集、③データ分析、④データ活用という4ステップのサイクルを回していくことが明確になった。まずは、きちんとした情報発信基盤を整え、そこで情報発信をすることで、良質なユーザーが集まり、滞在時間が長くなることで、それ以降のデータの収集、分析、活用につながるということだ。

 

スマホファーストの時代に起こった変化

デジタル分野の情報伝達手法は、目まぐるしいスピードで変化している。端末については、PCからガラケーへと変化し、今やスマホ利用が中心になっている。また、利用する回線についても、1G、2Gから、現在は3G、4Gが主流だが、2020年には5Gの時代がやってくるとも言われている。

このように、ユーザーが情報に接するスピードやデバイスの変化に従い、ユーザーのコミュニケーション手段や情報取得方法も変化している。なかでも、今はスマホによる情報収集時間が増大している。これはつまり、①24時間、365日、30㎝の距離で情報取得、②ニュースフィードが活性化し、縦型スクロールによる情報接触が主流(つまり、ファーストインパクトが重要視されるようになる)、③回線速度を加味したコンテンツ配信(ターゲットとする外国人が必ずしも速い回線を使っているとは限らない)といったことを考慮する必要がある。

 

情報取得方法の変化により、情報の「出し方」にも工夫が必須

更に、スマホ化が進む中で、利用者は、自身が興味ある分野の情報収集ばかりに偏り、発信者側としては、興味がない無関心層へのアプローチが困難になる可能性もある。また、インスタグラムユーザーの拡大につれて、インスタを通じて興味関心でつながる関係性「インタレスト・グラフ」や、非日常のみならず日常を気軽に投稿できる「ストーリーズの拡大」といった新しい展開も期待される。

このほか、今後は音声認識技術の普及が進むなど、ユーザーの情報取得方法が変化するにつれて、ますます情報の「出し方」の工夫が重要となる。

 

JNTOがデジタルマーケティング施策の2軸

こういった現状を踏まえると、情報発信基盤の整備にあたって「スマホ対応」は重要なテーマだ。

そんな中、JNTOでは、大きく2つの施策を実施している。まず一つ目は、新しい取り組みとして、ウェブサイト・Facebookアカウント以外の情報伝達チャネルの開設。2017年9月に「Japan Official Travel App」というスマートフォン向けアプリを、10月には、インスタグラム公式アカウントを開設した。なおアプリは、利用者の属性や行動をデータとして蓄積できる仕組みになっている。

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JNTOが運営するインスタグラム公式アカウントから投稿された写真

二つ目、既存の改良策として行っているのが、英語のグローバルウェブサイトの抜本的リニューアルだ。従来のサイトから刷新したのは、スマホからのアクセスを前提としたデザインにしていることだ。例えば、1観光スポットの説明文字数を100~150字にして文字数を大幅に減らしたり、低速度回線であっても情報取得できるような工夫を取り入れている。

従来のサイトの全コンテンツのアクセス解析を行い、閲覧が多いコンテンツに絞ったうえで、2月5日に初期公開された。このほかにも、ネイティブライターを活用した記事作成や、AIを活用してサイト内の検索機能の高度化などにも対応している。

 

情報発信を通して得た知見やデータの共有と還元がカギ

今回は、アプリ開設やグローバルサイトリニューアルなど、オウンドメディアに関する話がメインだったが、これ以外にもインフルエンサーの活用や、メディア・PRを用いた施策など他の情報発信チャネルについても、ターゲット、旅行者の置かれた状況、伝えたい内容を考慮したうえで決定していくということ。

今後は、情報発信を通して得た知見などをJNTO内外に共有し、より魅力的なコンテンツを発信するために、発注者ガイドといったものも作っていくこと、また、情報発信基盤に蓄積されたデータについても、地方自治体などに何らかの形で提供することも検討しているそうだ。

 

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