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【地域連携:黒門市場】食べ歩きのできる商店街として、世界に発信される仕組み作り

2018.07.23

大阪ミナミの中心部、難波からほど近い場所に位置する「黒門市場」。古くから大阪の台所として浪速っ子達に愛されてきたこの市場に、外国人が訪れるようになったのは、9年ほど前の頃から。SNSの発信地ランキング、グルメスポット部門でも上位になり、今では来訪者の実に約8割が外国人観光客という黒門市場が、インバウンドに取り組むことになったきっかけは何だったのか。外国人観光客を受け入れるためにどんな対応をしてきたのか。他エリアの商店街が学ぶことのできるヒントがここにはある。

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食の街・大阪のプロが通う市場としてアジアからの観光客が通い始める

大阪屈指の繁華街ミナミにある「黒門市場」は、江戸時代文政5年〜6年(1822年〜3年)の頃からこの地で行われていた魚の売買が起源と言われている。“黒門”の名は、明治時代まで市場の近くにあった寺院の黒塗りの山門に由来する。

獲れたての魚介類が並ぶ鮮魚店に、新鮮な野菜や果物を扱う青果店などの店舗がひしめき合う商店街の長さは580m。大阪の食文化を支えてきた黒門市場へは、地元の人をはじめプロの料理人たちの仕入れに行く場として長年栄えてきた。しかし、大型量販店の台頭などにより市場を訪れる客足は次第に少なくなってきていた。

そんな日本人に代わるように増えてきたのが外国人観光客の姿だった。彼らの心を捉えたのは、店頭に並ぶ、高級食材の河豚の刺身や握りたての寿司、焼きたての神戸牛など。黒門市場は、プロも通う本物の日本の味をその場で味わえる「食べ歩きできる商店街」として訪日客の間に知られるようになっていく。

2018年3月に実施した調査によると、1日あたりの通行人数は2万9千人で、5年前から1万人以上増加。そのうち約8割が外国人となっている。特に中国や韓国の観光客を中心に人気を集めている。

 

外国人観光客に喜んでもらう方法を商店街全体で考え即実行

商店街にアジアからの観光客が増えてきたのが2011年頃から。当時はイートインスペースを設けた店は数軒だったが、その人気を受け他店にも急速に広がっていった。インバウンドに取り組み始めた頃は、遠く海外から来てくれたお客様にいかに喜んでもらうのか、それぞれの店舗が個別に試行錯誤していた。「その個々店舗の工夫が商店街全体の魅力を高める結果に繋がったんです」と語るのは、黒門市場商店街振興組合副理事長の吉田清純氏だ。

組合として本気でインバウンドに取り組み始めたのは2012年。まず行なったのが、ニーズを知るためのアンケート調査だった。「観光コンシェルジュサービス」と並行して行ったアンケートでは、「何かを売りつけられるのではないかと警戒される方が多くて(笑)」と、苦労もあったが、丁寧に趣旨を説明し、3カ月間で408名分の回答を集めた。

「黒門市場で困ったことは?」という質問に対して、「ごみを捨てる場所がわからない」、「休憩するスペースがない」、「トイレが少ない」という答えが多かったことを受け、市場内で買ったものを持ち込んで、ゆっくり食べられる、無料休憩所と多言語表記のトイレを整備した。また、「メニューが日本語で読めない」という声に対しては、多言語対応のホームページとガイドブックを作成することで対応した。

また、「黒門市場を知ったきっかけは」という質問への回答では「インターネットやブログ」が1位で、2位が「知人や友人からの口コミ」だった。ブログや口コミの信頼度と集客力の高さを示す結果となった。

2012年よりはじめた訪日外国人へのアンケートは、その後、毎年実施。アンケート結果を受け、メニューやサービスの改善など、細やかな対応を重ねてきている。

 

旅行中の感動を、その場で世界にシェアしてもらう仕組み作り


黒門市場を知ったきっかけがブログや口コミだったことを受け、組合で空き店舗を購入しオープンさせた無料休憩所にフリーWi-Fiを導入した。市場で食べ歩きを楽しみながら撮影したばかりの、臨場感あふれる画像や動画を、興奮冷めやらぬうちにブログやSNSにアップしてもらう作戦だ。

Wi -Fi設置後のアンケートで、「フリーWi -Fiを使用しましたか」という質問に65.8%が「使用した」と答えており、Wi –Fiがあることで訪日客がSNSを通じ世界に向け発信。彼らのライブ感あふれる口コミが黒門市場の大きなPRとなっている。「その効果はとても大きい」と、吉田氏は成果を実感している。

2016年、無料休憩所は「黒門インフォメーションセンター」と名を変えてリニューアルオープンした。英語や中国語が話せるスタッフが常駐し、両替機も設置された。手荷物預かりサービスも始まったが、事務局長の國本氏に寄れば「2階部分にトイレを増設したことが大きかった」という。センターは大盛況で、2016年のSNS発信地ランキングでは「グルメスポット部門」で全国5位にランクインしている。



▲多言語のパンフレットは、近隣の宿泊施設にも配布。訪日客増加に大きく貢献してくれた

 

明日使える英語表現を学べる研修の導入、商品を魅力的に伝える英語表記も

インフラ整備の次に、黒門市場商店街振興組合が取り組んだのは、言葉の壁を解消することだ。2015年から商店街振興組合の事務所で、週に1回程度、派遣講師を迎えて英会話の授業が行われている。

外国人観光客とのコミュニケーションと接客の向上を目指す店舗の店主など28名で始まったレッスンは、今年5月で4年目を迎える。当初からの参加者は上達が目覚ましく、今では入会希望の見学者が「ついていけない」と諦めるケースも出てきているという。そのため、「基礎コース」も新設した。

長続きの秘訣は、授業内容が「市場での接客に使えること」に特化しているからだ。自慢の商品を説明するのに欠かせない「甘い」「辛い」など味の伝え方や、客とのトラブルを避ける「使ってはいけないゼスチャー」の指導、使用頻度が高い「道案内」の表現など、「習ったら翌日には使えるのでやりがいがあります」と國本氏も授業に満足している。

店舗で使用するメニューや店頭ポップの英語表現のアドバイスも受けられるとあり、まさに売り上げに直結する内容だ。この充実の授業が実現したのも、商店街振興組合が、何を習いたいかを事前に明確に示したからに他ならない。

 

インバウンドを超えて次のステージへ

黒門市場商店街振興組合は現在、さらなる高みに向かって動いている。それは、日本人客の取り込みだ。その第一弾として、日本人の若者に向けてPR動画を作製し動画サイトにアップした。「くろもん、ええもん、ほんまもん」という心地よりラップにのせて、新鮮な食材や市場の人々の姿が映し出される。食の質の高さと商店街の活気が画面から伝わる自信作だ。

また、日本人観光客向けのバスツアーとのコラボや、地元客へのポイントカード事業の強化にも力を入れる。時代を超えて黒門市場が愛されて来たのは、食材の確かな品質とそれを扱う市場の活気だ。地元の本物の食文化を、外国人にも惜しみなく解放し、快適に楽しんでもらうシステムを作り上げた、インバウンドのトップランナー黒門市場は今、次のステージ「本物であり続ける」ための取り組みを始めたところだ。

「ほんまもん」として地元客である日本人に必要とされ続ける市場であることで、訪日外国人からも更に愛され続けることだろう。