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在日外国人に聞く、ヴィーガンの受入れにはライフスタイルや理念への理解が欠かせない(後編)

2019.10.18

前編では、欧米を中心に若い世代に急速に広まっているヴィーガン市場についてお伝えした。日本では、まだまだヴィーガン料理を提供している飲食店は少ないが、確実にニーズは高まっている。後半では、ヴィーガンの世界的な動きとともに、ヴィーガンのライフスタイルや理念についても理解を深め、日本での受入れについても考えてみよう。

 

外国人もやって来るヴィーガンイベントも盛況に

9月29日に、ヴィーガン食のイベントである「東京ヴィーガングルメ祭」が都内・江東区の木場公園で開催された。多くの在住外国人を含め、ヴィーガン食の人やヴィーガン食に興味のある人が集まった。

55店のブースがあり、いろいろなヴィーガン食を楽しめる。大豆ミートを使った焼きそば、カキフライのような味の舞茸を使った料理、野菜だけでつくった押し寿司など、実に多彩である。また玄米のアイスクリームも好評であった。全国の様々なヴィーガン関連のお店が一同に介したイベントだった。

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西荻窪はヴィーガンタウンになっていた?

ところで、実は、都内でヴィーガン料理のお店が集中したエリアがある。それは、西荻窪界隈だ。街の規模では、隣の吉祥寺がはるかに大きいのだが、ヴィーガンのお店は圧倒的に西荻窪が多い。もともとオーガニック系のレストランや店が多く、その流れがあるのだろう。

さらに外国人向けのヴィーガンマップというのも存在している。これを製作したのが、西荻窪に暮らすイギリス人のイアン・ジャクソンさんと奥さまのミナコ・ジャクソンさん夫妻で、いずれもヴィーガンだ。

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イアンさんは、リバプール出身の現在67歳で、ベジタリアンとして20年、さらにヴィーガンとして20年の筋金いり。たまたま西荻窪の場所を気に入って、長期滞在をして、移住となったという。この界隈は、人がフレンドリーなところが好きだという。都心に近いわりには忙しくしていないのも気に入っているポイントだそうだ。

西荻窪ヴィーガンマップをつくろうと思ったきっかけは、地元で毎年秋に開催しているアートイベント「トロールの森」があり、その一環の「続・西荻案内所」の企画のひとつとして、ヴィーガンのイベントをやることになったからだ。

そこで西荻窪界隈のヴィーガンの店をリサーチしたところ、ベジタリアン向けのお店も含めると多いことがわかってきた。さらに、店主に相談すれば、ヴィーガンメニューをつくってくれる店もいくつもあった。個人経営のお店が多く、クリエイティブなオーナーさんたちがチャレンジをしてくれたのだ。懐の深いオーナーさんたちだという。そのようなお店を地図に落としていき、さらにヴィーガンに優しいお店は、ヴィーガンフレンドリーのお店として掲載した。

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完成した地図は大きく引き伸ばされ、イベント当日、会場に貼られた。さらに、地元で有名なヴィーガンレストン「米の子」の代表、市川さんとヴィーガンにまつわるトークセッションも行った。

 

西荻ヴィーガンマップの製作者はヴィーガン歴20年を超えるイギリス人!

さて、イアンさんが、ヴィーガンになったきっかけは、動物愛護からきているそうだ。ベジタリアンのときからも、動物の命の尊重するエシカルな考えが主な理由だったが、酪農の問題、特に狂牛病の問題が発覚してからは、乳製品、卵もやめたのだ。代替え品としてミルクを豆乳やアーモンドミルクなどを利用している。さらにはウール、シルク、革製品も使用しない。人間の合理性のために動物が虐げられているのが許せないと憤る。動物虐待に加担したくないという意思表明でもあり、ライフスタイルだという。

ここ20年、年々、ヴィーガン商品は手に入りやすくなり、リンダ・マッカートニーさんのベジソーセージが登場したことに始まり、認知度が上がったそうだ。さらに日本に移住してからの3年のあいだに、イギリスでそのスピードが加速しているという。特に環境問題に敏感な若いミレニアル世代が増えたという印象で、一方年配の方々は、やはり食生活を急に変えるのは難しいという。クイーンのギタリストとして活躍しているブライアン・メイさんはベジタリアンで、ヴィーガンの考えに賛同しているが、自身ではチーズはやめられないとのことだ。

イアンさんは、若い人にヴィーガンが急速に増えてきた背景には、YouTubeによる映像の拡散があると指摘する。そこに映る動物福祉の問題、自然環境の問題が共感を生み、欧米の若者を中心に意識が変わってきている。

 

ヴィーガンの先進国イギリスでは、食品流通も変革中

このようなムーブメントは、食品業界にも変化をもたらし、ビヨンドミートという大豆やエンドウ豆などを主原料として植物だけを使用した肉が、普通の欧米のスーパーで売られるようになってきた。また¥ヴィーガン向け食品は、健康食コーナーといった限られた場所に売られていたが、昨今は、スーパーのプライベートブランドとして開発され、販売を強化し始めている。例えば、冷凍食品、ヴィーガンバーガー、植物性ミルクなど多品種だ。

ヴィ―ガンの専門店も増え、普通のレストランにもヴィーガンメニューが増えた。なかにはジャンクフードのヴィーガン専門店があるほどだという。さらにアメリカのケンタッキーフライドチキンでは、テストでヴィーガンミートのメニューを開始した。

マイクロソフトのビル・ゲイツや俳優のレオナルド・ディカプリオも代替食への投資をするなど、世界的な潮流になっている。

一方で、植物性の食習慣をアドバイスする医師もいて、体への弊害にならないような取り組みも進んでいる。大豆の取りすぎも問題があり、そのあたりの情報はイギリスでは進んでいるという。

 

日本は、いかにヴィーガンに優しい国を目指すべきか?

イアンさんは、今後、ヴィーガンの外国人観光客や国内の実践者向けに、スーパーでヴィーガン表示が一目でわかるVマークがあると便利だと提言する。やはり原材料表示が外国人にはわかりにくいのだろう。

前編に登場したTokyo Smile Veggiesの千葉さんは、今年になって急速にヴィーガン食への関心が、レストラン業界や食品業界で高まっているのは喜ばしいが、ビジネス視点が強すぎて、商売が先行しているのが懸念されるという。食の安全性、健康食、環境への配慮など、もともとベジタリアンを踏まえてのヴィーガンが世界の流れであり、いきなりヴィーガンの食材をそろえれば良いという問題でもない。その理念や健康を考えたうえでないと意味がないのだ。

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同じく、先述の「東京ヴィーガングルメ祭」に来場していたドイツ人の男性は、ヴィーガンが日本で盛り上がるのは嬉しいが、その理念にも理解・関心を持ってもらいたいという。やはり一番重要なのが、動物愛護や環境問題が前提としてあり、その意思表示としてのヴィーガンなのだ。

ヴィーガンという世界的な潮流に乗り遅れないようにと、真似ばかりしても、魂入れずでは、本末転倒のことにもなりかねない。ヴィーガンになるかどうかは別として、それを理解したうえで共感したいものだ。