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最新テクノロジーを持つ企業が集結、2020年以降の日中インバウンド業界の課題と可能性を議論 ---日中ツーリズムサミット開催

2019.12.19

2019年12月3日、一般社団法人日中ツーリズムビジネス協会は、株式会社JTBと共に「日中ツーリズムサミット2019」を開催した。 

2回目となる今回のサミットは「Travel Technology&Local Tourism」をテーマに、日中ツーリズム業界の最先端で活躍するスペシャリストが登壇、中国マーケットのトレンドを紹介した。当日は、業界をけん引する企業による講演やパネルディスカッション、日本の地方自治体や観光関連団体によるPRブース、中国のテクノロジー企業との商談会など様々なプログラムが展開されたが、ここでは当日行われた3つのパネルディスカッションの模様を紹介する。

 

セッション1:2020年に向けて中国人の心を魅了する日本地域ブランドの作り方

ゲストスピーカー:
Trip.comグループ日本代表 蘇 俊達氏
株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル中国・アジア営業部 野田 昌氏
HAKUBA VALLEYプロモーションボード株式会社五竜代表取締役社長・副会長 伊藤 英喜氏
モデレーター:
ENtrance株式会社代表取締役 王 璇氏

2019年の中国インバウンド市場を振り返ってあがったキーワードは「地方」「利便性」「特別な体験」だった。

Trip.comグループ日本代表の蘇氏によると、リピーターが増加するにつれて地方が注目を集めており、特に今年は、高松、高山、熊本の伸び率が高かった。アート、世界遺産といった良質なコンテンツを持ち、積極的に発信していることが、人気の地域に共通しているという。

HAKUBA VALLEYの伊藤氏によると、白馬村では、地域にある10のスキー場であればどこでも使える統一チケット化に踏み切っており、利便性を高めたことが魅力だったのではないかと話す。

株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル野田氏は、最近3世代10人程度のグループが特別な体験を求めてやってくるケースがあることに触れ、ブランドホテルではなくても、自分が大切にされていることを実感できることを重視する傾向があると話した。

これから、日本の地域ブランドを高めるためにすべきことは何か、という質問に対し「パートナーとの連携と方向性の明確化」「受け入れ先の人材確保」「目標の見える化」などがあがった。伊藤氏によると「白馬にはジャンプ台がある。中国のナショナルチームや、スキー関連の団体に声をかけ、練習に来てもらっている。その際に、受け入れ側の地域も、おもてなしの心で歓迎してサポートしてきた。それをかれこれ30年ぐらい積み重ねてきたから今がある」と白馬の事例を話した。

 

セッション2:進化し続けるSNS、O2O、中国デジタルイノベーションのあるべき姿

ゲストスピーカー:
美団点評 海外事業部日本支社 吴 文抒氏
Tencent インターナショナル・ビジネスグループビジネス・デベロップメント 叶 志松氏
株式会社阪急阪神百貨店 営業政策室・インバウンドマーケティング部 叶 陽子氏
モデレーター:
ペイサー株式会社代表取締役 レオン・メイ・ダニエル氏

このセッションでは、テクノロジーを活用したサービスを展開する中国企業の日本市場担当者と、それらをいち早く活用して中国人客の誘致に取り組む阪急阪神百貨店の事例が紹介された。

テンセントは、ECや会員登録などのアプリケーションをソーシャルプラットフォームWeChat上で提供する「ミニプログラム」を2017年にスタート。同社の叶氏によると、旅前に予約した商品を旅中で受け取れるサービスや、KOLの体験する様子を見ることで自分が体験したような気になり、実際の商品購入につなげるライブストリーミングなど、オンラインとオフラインをつなげる様々なサービスが展開されているという。

美団点評は、飲食店、ホテル、映画館、美容院、飲食宅配などの情報収集、口コミ確認、予約、支払などを大衆点評というアプリ内で完結できるサービスを提供する。アプリ利用者は約4.5億人、大衆点評の日本ページを開いているユーザーは月間約55万にのぼり、2018年の訪日中国人客数838万人という実績から、半数以上の人が日本ページを閲覧していると考えられる。最近は、食べログとの連携により、中国人が大衆点評のアプリを使って日本の飲食店の空席状況を確認し予約できるようにするなど、言語のハードルを下げたうえで外国人客を受け入れられるサービスを展開する。

これらのサービスを活用して中国人向けの施策を行っているのが、中国国外では初のWeChat Pay旗艦店となった阪急阪神百貨店。誘客につなげるのはもちろんのこと、取得したデータをもとに顧客のニーズを把握している。一方で、同社の叶氏は、受け入れ側の地道な教育も欠かせないと話す。デジタルツールを活用して集客しても、受け入れ態勢が悪いとネガティブな口コミが書き込まれ、リピートにつながらない。デジタル施策と現場での受け入れ態勢整備など教育の両面が大切と強調した。

 

セッション3:中国テクノロジーが生む日本の地域創生の可能性

ゲストスピーカー:
Baidu Japan Inc. President and CEO 張 成煥氏
DiDiモビリティジャパン株式会社事業開発本部本部長 魏 嘉宏氏
株式会社ネットスターズ代表取締役社長 李 剛氏
モデレーター:
株式会社Loco PartnersRelux執行役員兼中国支社長 門奈 剣平氏

このセッションでは、キャッシュレス決済、MaaS、ビッグデータといったテクノロジーを持つ企業のキーマンが登壇し、ここ最近の各分野におけるテクノロジーの進化が日本の地域に与える可能性についてディスカッションした。

マルチ決済プラットフォームサービスを手掛けるネットスターズの李氏は、特に地方のキャッシュレス環境の普及スピードを上げていくことが必要、決済環境の整備には、導入コストなどの問題もあるが、地方銀行や信用金庫などと組むことで加速させていきたいと話した。

タクシー配車などのモビリティサービスを手掛けるDiDiモビリティの魏氏によると「これまで東京、大阪、福岡などの都市圏を中心に進出をしてきたが、最近は青森、秋田といった地方への展開も進めている。一方で都市と地方では需給のバランスが異なる上に、高齢者運転やレンタカーによる事故など地方特有の問題も多く存在する。国や自治体との連携をさらに進め、地域に適したシステムを導入していきたい」と話した。

中国大手検索エンジン Baiduの張氏は「Baiduが持つデータの分析結果を皆様に共有できる。5-6年前と違い国民が豊かになるにつれて、キーワードが買い物、遊びから、芸術、体験に進化している。最近特に伸びているのは、直島にある地中美術館。ここ6年で5倍になっている。こういったトレンドを把握し、自治体や観光団体の方などと一緒にプロモーションを仕掛けていきたい」と語った。

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【開催概要】
<<Forward 2020・ Travel Technology&Local Tourism>>日中ツーリズムサミット2019 China-Japan Tourism Summit
開催日時:12月3日(火)13:30ー20:00
場所:第一ホテル東京シーフォート
主催:一般社団法人日中ツーリズムビジネス協会、株式会社JTB
後援:日本政府観光局(JNTO)