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【海外メディアななめ読み】動き始めたクルーズ業界。日本はダイヤモンド・プリンセス号で得た経験をいかに世界に共有できるか

2020.11.18

クルーズ業界の動きが活発です。11月5日に、UNWTO(世界観光機関)と、IMO(国際海事機関)は、クルーズ業界の世界経済にとっての重要性を強調する共同声明を発表しました。この声明では、各国政府に対して、EU(欧州連合)のガイドラインと、英国海運会議所が CLIA(クルーズライン国際協会)とともに開発したクルーズ事業者、乗客、船員のための枠組みを適用することを推奨しています。

アメリカでは、独自の衛星基準や100%返金を補償を用意

アメリカでは、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルが、The Royal Promiseという独自の衛生基準を定めました。乗船に当たっては、乗員乗客全員がコロナウイルスの検査結果が陰性であることを求められ、2021年の1月30日以前の出発便に関しては、ロイヤル・カリビアンが検査費用を負担すると明記しています。また、2020年の11月30日までの予約であれば、クルーズ出発3週間前に同行者の誰かが陽性判定が出た場合は、追加料金なしでクルーズを延期できたり、クルーズ中に同行者の一人に陽性判定が出た場合は100%返金されたり、具体的で充実した補償を提供しています。

シンガポールでは11月6日の夜に初のcruise to nowhere(無寄港クルーズ)が出港しました。シンガポール政府観光局は10月、新しい安全プロトコルに基づき、定員を通常の半分に絞り、また、国籍をシンガポール人に限定し、この航海を承認しました。どこにも帰港しない2日間の航海では、1400人の乗客全員がコロナウイルスのテストを受けて乗船し、船内でクリスマスショーやスパなどが楽しめます。

ダイヤモンド・プリンセス号に投入された医療費は2億8800万円

クルーズと言えば、コロナ騒動がまだ始まったばかりの頃、ダイヤモンド・プリンセス号の船内でコロナの集団感染が発生し、横浜港に停泊している様子が連日世界中に報道されました。前代未聞の事態に、現場で対応された乗組員や医療関係者の皆様には頭が下がります。アメリカと英国が牽引してきたクルーズ界で、日本は新参者ではありますが、この経験は世界と共有すべきものです。また、日本の港に停泊するアメリカの船会社が運行のイギリス船籍であるダイヤモンド・プリンセス号の扱いをめぐって、明確な国際ルールが定められていなかったため、各国の責任の所在が問題となりました。それを受け外務省は、来年度の予算案に、国際ルール策定のための調査・研究の費用として4000万円を盛り込んでいます。「指定感染症」である新型コロナウイルス感染症の場合、国籍を問わず感染者の医療費は日本の公費負担ですが、ダイヤモンド・プリンセス号の外国人乗船者の医療費に投入された公費が2億8800万円ほどだったことがわかり、今後の五輪開催に向けて、このままで良いのか議論が必要です。体験国として、国際ルール作りで存在感を示したいところです。

UNWTOとIMOの共同声明によれば、2019年には3000万人がクルーズ旅行をし、クルーズ業界は120万人の雇用を生んでいます。日本では2016年に、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」で「訪日クルーズ旅客 500 万人」という目標が設定され、国土交通省と自治体が国際的クルーズ船誘致のために湾岸整備を進めてきました。数値目標はさておき、今後は、感染症対策で一歩先を行く寄港地として一目おかれる存在を目指して行くことを期待します。