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第15回  韓国人旅行者数の伸び率の鈍化が顕著に有効な打開策はあるのか?

2013.12.12

今年8月以降、放射能汚染水の問題が韓国人旅行者の伸びを鈍化させている。
訪日外国人旅行者の約7割が韓国人である九州においては、一層深刻な影を落としている。
現状を回復する決定的な打開策を探ってみたい。

目次:
1.放射能汚染水報道による打撃
2.韓国の旅行会社にも激変が起きている
3.魅力的な誘致キャンペーンとは何か

 

1.放射能汚染水報道による打撃

北九州市が震災の瓦礫処理を受け入れた事実が「九州も放射能に汚染されている」という過敏な反応を受けたのは、第10回の私のコラムで書いた。

その後、8月に福岡にきた韓国の旅行代理店「九州路」のスタッフは、「日本が危険だという4つの真実」=「放射能怪談」がネットニュースやSNSを通じてまことしやかに広がっていると訴えた。それにより、個人旅行でさえもキャンセルが相次いでいるのだと。

その4つとは、日本人にとってみれば奇異な感じがする内容だ。
①放射能の危険
②富士山が噴火する
③桜島がさらに噴火する
④日本の大学教授が「日本は危険だ」と一家でカナダに移住した

②と③については、日本人なら「そんなニュースがあったな」と記憶の片隅においているものであり、④においては真剣にとらえているとはにわかに信じがたい。

しかし、8月以降汚染水処理に対する抜本的な対策がないまま、手をこまねいている感がある日本政府、電力会社に対して、日本人の方がかなりのんきなのかもしれない。
7月後半に福島第一原発の汚染水の海水流出が韓国のメディアで報道されて以来、毎日のようにこの問題が報道されている。以前は東北エリアに限定されていた危険性が、日本全体でセシウムが検出されたというニュースを通じて、日本全体に危険性が広がっていると考えられている。また、水産物を中心とする食べ物に不安が大きくなっている。

そして、韓国人旅行者の不安は、実際の数字やデータにも現れてきている。

JNTO発表による訪日外客数もタイや台湾、香港からの増加により、全体では対前年比8月17.1%、9月31.7%と伸びているのに対し、韓国からは8月6.9%、9月12.9%と鈍化し、2ヵ月連続で大幅減となった。

 

2.韓国の旅行会社にも激変が起きている

8月、9月には団体旅行のキャンセルが相次ぎ、ひとしきり落ち着いた10月でも旬の紅葉シーズンのパッケージも集客が少なく、インセンティブ旅行も大幅に減少しているという。
ある旅行代理店は人気の富山アルペンルートの紅葉商品を従来より約20万ウォン引き下げ、70万ウォン台で販売している。ウォンが高くなったのに、円高時の特売料金をあてて売らざるをえない状況とのこと。

比較的堅調であるFIT旅行者も、低価格のチケットや宿泊施設に集中しがちで、収益を期待できない。
ネットニュースでその危険性が語られ、マスメディアよりも信頼性を置く若年層にも大きな影響を及ぼしている。つまり、『竹島問題』を気にしなかった層が、訪日をためらう大きな要因が生じている。価格の手ごろさから身近な週末旅行地である日本が、「今わざわざ行かなくてもいいディスティネーション」になっているのだ。親や周囲の反対で日本旅行をとりやめる人も多い。

韓国人が日本旅行の記録をSNSにアップしたら、「日本に放射能をdrinkingしに行ったの?」と友人から書き込まれたという話もきいたが、決して少ない事例ではない。

私がかかわる福岡エリアの観光サイトでも韓国語版のPV数が8月、9月と明らかに7月以前より大きく落ち込んでいる。街を歩く韓国人も以前より確かに少ない。

 

3.魅力的な誘致キャンペーンとは何か

冒頭でも先述したが、九州への外国人入国者数の約7割を占める韓国人の動向は、ひいては2013年の訪日旅行者数の目標である1000万人に対して、じわじわとボディブローのようにダメージを与えている。

台湾、香港の好調、タイなどASEAN諸国からの伸び、まだ確定ではないが11月以降の中国発クルーズの復活などの明るい要素を加味しても、1000万人達成は予断を許さない。
LCCや低価格の宿泊施設の組み合わせで、これ以上安くできないほど旅行費用は下がっている。現状を打破するのは、政府や信頼ある筋からの安全性の発信であるが、今しばらくは望めない。このような状況において安全性の発信以外にできることは何なのだろう。

例えば、訪韓する日本人旅行者が激減している状況に際し、韓国政府は約10億ウォンの支援を、日本をメインとする旅行会社向けに行うと決定した。経営難に陥っている旅行会社を救済する措置で、主に広告宣伝費に充てるとのこと。韓国の旅行会社のほうが日本より深刻な状況であることを物語っており、政府が救済に乗り出した形だ。

日本では、観光庁はもとより九州など地方でも韓国人向けに行う施策について、必死に検討している。

九州のゲートウェイとなる福岡では、1月15日から2月9日に開催される「福岡ウエルカムキャンペーン」において、外国人向け特典やイベントを11月~12月の期間、前倒しで取り組める施設や企業を集めて、韓国向けに情報発信をすることになった。

九州運輸局が韓国人向けに特典サービスや有益な情報をまとめて、JNTOなどと協力して発信する準備をしている。

九州観光推進機構は10月17日にソウルで観光説明会・商談会を開催した。
高橋本部長は、韓国の50社以上の旅行代理店やメディアに対し、次のように訴えかけた。
「2012年には115万人と過去最高となった九州への外国人旅行者の中で、韓国からのお客様は約65%と引き続き高いシェアを占めており、九州にとって韓国は最も大事なマーケットであり、大切なパートナー。
九州観光推進機構では、新たに開発した”九州オルレ”や、”ロハス九州”等の観光素材を継続して提供。特に自分の足で歩いて五感で九州を感じる”九州オルレ”はオープンして1年4ヵ月でたくさんの方に体験していただいた。現在、九州各県にある8コースに加えて、今年度中にも新しいコースを発表する予定。
「紅葉が美しい季節を九州で楽しんで」と、リピーターも多い韓国に向けて新素材や新しい情報を発信する。

また、「九州は福島より1000キロ以上離れており、福島-釜山間もほぼ同距離。韓国からもっとも近い日本で、安心して旅行できる地域」と改めて強調した。

特に九州オルレについては、韓国のある新聞紙上で発売した「九州オルレを歩く」という150万ウォンほどのパッケージ商品の団体が12月に訪れるという。これこそ地道な取り組みが評価されている証ではないだろうか。

 

2012年3月~2013年7月九州オルレ訪問数

韓国人訪問者数*12,170
日本人訪問者数**7,050
合計19,220

*九州オルレを販売している旅行社からヒアリングしたもの
**各市町村からの報告数値で、集計方法は各市町村により異なる。(九州観光推進機構調べ)。自分でコースを歩く個人旅行者は把握できないので、含まれていない

九州オルレ(日本語)http://www.welcomekyushu.jp/kyushuolle/

[caption id="attachment_4831" align="alignnone" width="360"]img01-7 九州オルレ 武雄コース[/caption]

説明会に参加したJNTOソウル事務所側も
「新しいオルレは数少ない明るい話題のひとつ。昨年同様に今回もぜひビジットジャパンキャンペーンに積極的に活用したい。今は需要が低下して安価な商品やチケットばかり売れる状況ではあるが、特に九州はリピーターも多く、放射能の影響のないリアルな状況を知っている旅行者が多いので、現地業界からの期待が極めて高く、今後希望がもてるのではないでしょうか。
観光庁やJNTOも今、懸命に安全情報の発信と平行してビジットジャパン事業の中核テーマに冬の九州を据えたプロモーションを展開しており、なんとか日本市場の早期回復のきっかけとしたい」
と話す。

JNTO韓国語版 http://www.welcometojapan.or.kr/
TOP画面に福島第一原発の状況を伝えるコーナーがあり、数的データを発信している

「韓国人旅行者数の傾向は、9月で底を打ち、10月は減っていない、むしろ増加している」と答える福岡・九州の観光施設も少なくない。今までと変わらない姿勢で、オール九州、オールジャパンで知恵と努力を結集して隣国に語りかけていくことで、交流をいっそう深めていきたい。