インバウンド特集レポート

第71回 2017.12.25

田舎の癒し旅から親子旅まで、多様化する中国人観光客のニーズ

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2017年の訪日中国人観光客は、過去最高の年間700万人を大きく超えそうな勢いで増え続けている。4人に1人を占める彼らの日本旅行の内実はどのようなものなのか。Part1では、新しい中国人観光客には5つの傾向があることを紹介、パワースポット巡りや仕事のスキルアップまで、多様化する都会の若い中国人についてふれた。Part2となる本編では、癒しを求めて「日本の田舎」を楽しむ旅行客や、女子旅を卒業して親子旅を楽しむ一人っ子世代の母親の様子をみていく。

 

中国の若い世代が思い描く「日本の田舎」とは?

今年、中国人観光客に見られた新しい傾向として「1、特定の文化的テーマで目的地を選ぶ」「2、日本の田舎を楽しみたい」「3、女子旅から親子旅へ」「4、日本より進んだSNSによる濃密な情報環境の実現」「5、肌で感じる日本社会の中国人嫌いに関する不安」の5つを挙げた。

その中でも、中国人の若い世代が「2.日本の田舎を楽しみたい」と語る真意はどこにあるのか。

中国の若い世代の「日本の田舎」志向を理解するうえで参考になる本がある。1986年生まれの史詩さんというブロガーが書いた日本を個人旅行するためのガイド書『自游日本(自由旅行日本)』(南海出版公司 2015年1月刊)だ。

『自游日本(自由旅行日本)』は16年、17年と3冊目が出ている人気シリーズだ

『自游日本』は15年以降、16年、17年と3冊目が出ている人気シリーズ

今日中国では多くの旅行書が刊行されているが、同書が類書と異なるのは、彼女が自分の足で訪ねた日本の名所旧跡や日常食が写真入りで細かく紹介されていること。

一方、買い物に関する情報がほぼないのも特徴といえるだろう。

ここでいう「日常食」とは、日本人がふだん食べているカレーやラーメン、とんかつ、天ぷら定食といった料理のこと。基本的に冷めた食事を好まない中国人らしからず、駅弁と鉄道旅行の情報が詳しいのもユニークだ。

 

安全だからこそ楽しめる、地方の列車旅

この本の表紙として選ばれた一両きりのローカル線の車両と高く広がる青空の写真から、彼女の世代の想いが読み取れる。林立する高層ビルの中でストレスフルな競争社会を生きるいまの中国人にとって癒しとなるのは、こういう日本の澄み切った青空に違いない。

彼らの「日本の田舎」志向の背景にはもうひとつの理由がありそうだ。Part1で登場した、上海で開催された旅行体験共有会に参加した張さんは「ローカル列車で若い女性が旅に出られるのも、日本が安全だから。中国で同じような地方の列車の旅に出る勇気は私にはない」。いかにも都会育ちの若者的な発言だが、日本の事情に精通したリピーターたちは日本と中国の社会の違いを知りぬいている。

 

「女子旅」から「親子旅」へ、子連れ旅行を指南する若い母親ブロガー

最近、都内の繁華街でベビーカーを押して歩く外国人ファミリー客の姿を日常的に見かけるようになった。当然、その中には中国客もいる。「3.女子旅から親子旅へ」についても見ていこう。

個人客として日本を訪れる中国の若い女性たちは一人っ子政策の申し子であり、すでに多くは母親になっている。

彼女たちの指南書として刊行されたのが、子連れ旅行ブロガーの王晶盈さんが書いた『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』(人民邮电出版社2017年1月刊)だ。

『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』は姉妹編の関西版もある

『日本东京亲子游』は姉妹編の関西版もある

同書は、親子で楽しめる東京の遊園地や動物園、水族館、レストラン、ホテル、キッズ&ベビー用品店、児童書店といった情報が満載だ。

体調が変わりやすい小さな子供を連れて日本を旅行する際の留意点や公共交通機関でのベビーカーの利用方法なども書かれている。

 

 

母親ブロガーが、親子旅行の様子を共有

2017年3月、上海で開催された長崎県主催の旅行体験共有会のテーマも「親子旅行」だった。登壇したのは、女性旅ブロガーの柳絮同学さん。

3歳の息子と一緒に長崎県に旅行に出かけた体験の報告だった。彼女は東京や大阪なども子連れで訪ねており、2回目の旅行先が九州。息子を連れて長崎県内の動物園を訪ねたり、天草でイルカをウォッチングしたり、日本旅館に泊まって手作り団子の体験をしたりと親子旅行を満喫したという。

日本は中国に比べ、小さな子連れ旅行をしやすい環境が整っていると彼女はいう。中国にはまだない便利なサービスやインフラも多い。彼女は日本を訪れて知った経験の数々をブログに紹介している。そこには中国人から見た日本の隠れた魅力や発見があふれている。

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左:長崎の日本旅館に泊まった柳絮さんと3歳の息子さん
右:上海で開催された、長崎県の旅行体験共有会に参加したみなさん

どの自治体も外国人ファミリー客向けの情報発信やサポートはまだ十分とはいえないが、自らの子連れ体験を発信する中国人がそれを補ってくれているのだ。

 

これまで見てきたように、日本を訪れる中国客の動向は、個人旅行が主流になりつつあり、多様化している。彼らがいつどこで何をしているか、実際のところつかみようがない。そういった中国人観光客のニーズを補足する手がかりの一つとして、SNSを通じたグループ化が挙げられる。SNSをどのように活用できるのか、Part3で詳しく見ていく。

(Part3へ続く)

 

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