インバウンド特集レポート

2016.05.18

自転車とインバウンドの可能性を探る ニーズはあるが、課題も山積みだ②

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京都のサイクリングツアーに注目が集まる、その戦略とは?

街中サイクリングといえば、京都が人気だ。街のサイズもちょうど良い。

外国人向けサイクリングツアーとレンタルサイクルを営む有限会社京都サイクリングツアープロジェクトがある。15年前の設立だ。
観光と自転車の融合が目的に、欧州の発想を取り入れた。代表の多賀一雄さんは、自転車のフットワークに注目し、欧州での留学時、その日本との活用や環境の違いを見てきた。
順調に売り上げを伸ばし、他の自治体からも視察に来られるほど、注目されている。
同社の森田英一マーケティング&セールスディレクターに話をうかがった。

同社では、自転車ツアーを「プロダクト」と考えている。だから、プロダクトを良くするために、商品力を磨くこと、そして販売チャネルの開発に重点を置いている。

商品力に関しては、コース設計について、季節やニーズに応じて臨機応変に提案できるよう、情報収集を怠らない。さらにガイドの質の担保も重要だ。
京都サイクリングツアープロジェクトでは、通訳案内士の国家資格を持つガイドが、10数名所属している。その教育には、道路交通法、マナー、安全な走行技術など基礎的な知識を学ぶ座学の研修制度があり、次に走行研修では、法律に則った走行や危険ポイントでの安全回避などを伝授していく。その後テストがあり、合格者のみ正式登録される仕組みだ。ツアー後には毎回レポートを書いてもらい、情報を共有して知識を蓄積している。参加者の国によっての求めるものが違うので、対応を考えるためには、重要な資料になる。

安全には気を配り、市内ツアーにおける参加人数は、1人の自転車ガイドにつき6名がマックスだ。ガイドが安全に参加者をコントロールできる範囲はその程度が限界になるからだ。

次に販売チャネルについて。
ここの特徴は現地の旅行会社やランドオペレーター、さらにホテルを通す「B2B」営業を大切にしていることだ。自転車ツアーをセットプランにした販売もしてもらっている。例えばJTB系のサンライズツアーでも商品提供を行っている。
街中サイクリングツアーを観光業界として根付かせたいという想いから、B2Bに力を入れているのだ。

森田さんは、もともとホテルでインバウンド営業の仕事をされていたので、インバウンド業界の全体像や旅客の流通を把握している。だから的確な販売ルートの開拓ができるのだ。

また、あくまでも旅行商品としての位置づけを変えない。山や海をツーリングしたいというニーズはもちろんあるが、旅行商品としてはマーケットが小さい上、旅行商品レベルでの安全対策などを完全に出来ない。サイクリストではない一般の外国人旅行者が、ジーンズで楽しんでもらえるものを目指しているのだ。
例えば、インセンティブツアーで、自転車を組み込むとサプライズ感があって喜んでもらえた。ただし、あくまでも体験なので、しんどいのはNGだ。半日以上はきつい。そこで2時間以内にコンパクトにまとめるようにアレンジした。その土地の風を感じて、京都の原風景を訪ね、満足度が高かったという。

しかし、B2Bが主体のツアー販売に注力するばかりもリスクだと森田さん。欧米ではそうでもないが、アジアの場合は、低価格志向のため、安さ勝負になってしまう。一方、中国はじめ東アジアや東南アジアのFIT(個人旅行)は、伸びしろが高く、特にレンタサイクルの販売においてダイレクトなB2Cを見据えた取り組みも検討中だ。

サイクルツアーには課題が山積みだった?

自転車を軸にインバウンドを盛り上げようという動きが全国各地で起こりつつある。
日本の魅力を違う視点で紹介できるのは、喜ばしいことだが、手放しでは喜べないと、実際に関わっている方々の懸念する声も耳にする。

そもそも、日本における自転車のルールが曖昧だということがあげられる。
自転車は、車両なのか、歩行者なのか。車道を走るのかガードレールの中を走るのか。ヨーロッパでは自転車文化が根付いているため、定義が明確だ。日本は曖昧なままだ。
だから、最初に日本の自転車事情を説明しないと、外国人客は戸惑うらしい。

「レンタサイクル店としては、安全の確保が難しいにも関わらず、専門的な許可もなく誰でも営業ができてしまう。専門的なメンテナンスやルール違反への啓蒙、保険の拡充など、業界の課題は多いが何ら規制がない。
サイクリングツアー会社としては、インバウンド増でニーズは高まるが、無資格ガイドや、とても安全とは思えないツアーも見かけるようになった。」と森田さん。
京都サイクリングツアープロジェクトでは、レンタルサイクルとツアーを合わせた利用が年間4万人、延べ50万人以上もの旅客を受け入れたが今のところ大きな事故がない。だからといって、このまま制度が放置されていることに不安を感じるという。

制度設計が遅れていることを認めつつ、独自の手法で、安全面という課題に向かっている取り組みが、「しまなみ海道」にあった。それは、愛媛県今治市と広島県尾道市をブルーラインで結ぶことだ。
このブルーラインは、案内表示として、車道の外側線に沿って青い線を描き、この線をたどると、初めてしまなみ海道を訪れても迷わず走れるのだ。
このブルーラインは、途中、ピクトグラムでキロ数が表示されていて、案内表示もある。

次に自転車観光へのマーケティングに疑問の声がある。

「自転車観光というと、ツーリングを好むサイクリストに注目が行きがちだが、実数としては少ない。」と岡さん。街中サイクリングのほうが、人数の単純比較では、人気が出てしまっているそうだ。

地方の自治体では、少ないサイクリストに向けて、大きな予算をかけたところで、リターンが少ないのではないかと懸念がある。

そもそもサイクリスト人口は、アジアでは少なく、一部の富裕層のみだ。また、サイクリストは、健脚な人で、1日に100キロぐらい走るので、素通りされてしまう。なかには150キロも走る人もいる。

「やはり街中サイクリングが、おすすめだが、自然の多い郊外も魅力的。ただ、高低差がきついエリアは体力も要し一般客には不安がある。」と森田さん。
アジアのお客さんの場合、自身は乗れると思われていても実際は自転車に乗れない人がいることも肝に命じて欲しいと言う。自転車のリテラシーには開きがある。
参加当日、自転車に乗れないことが判明し、急遽、街歩きのツアーに切り替えることもしばしばという。日本では誰でも乗れるが、それ以降、「自転車に乗れる人が対象」と、ツアー商品として当たり前のことも明記するようにしたのだ。

自転車に乗ってお買い物をエンジョイする外国人

一方、「ショッピングとの相性が良い。」と森田さんの話が続く。
路地裏を走り、京都ならではの専門店を見つけては、どんどん入っていく。なかには、着物や絵画などの即売会で、数十万円分も買った方もいるそうだ。
ハイエンドや富裕層にも好まれるアクティビティであるため、品質の高い自転車やサービスを提供することが必要だ。
お饅頭を買ったり、自動販売機のジュースを買ったりと日本らしいものを楽しみ、さらにスイーツ巡りも可能だ。

また、今治市の観光の担当者によると、サイクリストでもいいものがあれば、お金を落とすと言う。サイクリストはあまり買い物をしないので、経済効果が低いという意見も多かったが、実はそうでもないのだ。
今治タオルでは、コンパクトで薄手なフェイスタオルが彼らに人気だ。またタオル地のバッグ(サコッシュ)も人気という。
しかし、欲しいと思える商品が少ないという意見が多いのも事実。今後は彼らに合った商品開発が課題だと担当者。ニーズを探ってものづくりを考えることが必要だろう。

最後に、自転車のニーズの高まりを受け、質の低下も懸念材料だ。
自転車は道路での事故のリスクが高いことを忘れてはいけない。活性化のためには、積極性は大事だが、そのリスク対策も合わせて考えるべきだろう。

森田さんは、昨今観光業界や行政事業では「サイクルツーリズム」という言葉をよく耳にするが「自転車と観光の専門性の2つのバランスを持つことが重要だ」と述べた。

今後、観光スポットを巡るツールとして、いかに自転車文化を大切に育てていくか、課題と向き合いながら、質を高めていくことを期待する。

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