インバウンド特集レポート

外国人によるスキー・スノーボード需要が伸びている。実は、日本人のスキー人口はバブル期の約半数まで落ち込んでいて、すでにいくつものスキー宿が廃業に追い込まれている。インバウンドは、スキーリゾートに新しい光をもたらすのか、各地の取り組みや現状についてレポートする。
今回紹介するのは、先進的な北海道のニセコ、その後を追う新潟県妙高、そして新しくインバウンドを強化した群馬県のみなかみ町、樹氷のある東北の蔵王だ。また今後期待される中国マーケットや白馬の課題も考えたい。
北海道ニセコの成功がすべての始まりだった!
日本のスキー場の素晴らしさを世界に初めて発信したのが、北海道のニセコだった。
2000年以降、良質なパウダースノーを求めるオーストラリア人が訪れるようになったのが始まりだ。
その当時、日本のマスコミでも取り上げられ、外国人がスキーを楽しむ映像を見たときのインパクトは、今でもおぼえている。わざわざ、オーストラリアから北海道まで飛行機を乗り継いでスキーを目的にやってくるのか…。
実際に、2003年ごろに冬のニセコを訪ねたことがあるが、一部に欧州スタイルの建物が並び、日本ではないような雰囲気があった。しかし、それは序章に過ぎず、その後、スキーリゾートの再開発が急速に進み、高級ホテルや別荘、コンドミニアムが次々と建ち並ぶようになった。
先日、ニセコからのスキー帰りのスイス人ファミリーに、渋谷でインタビューしたところ、スイスアルプスよりも雪質が優れているとの意見だった。スイスは雪が固く、ガリガリとエッジを利かせて滑らなければならない。一方、ニセコはフワフワのパウダースノーで、雲の上を滑るような心地良さがあるとのコメントだ。また行ってみたいと言う。
もはや、オーストラリアからだけではなく、スキーの本場、欧州からもやって来るのだ。

世界のスキーヤーを魅了するニセコは、リゾート開発が、今なお進んでいる。ニセコで十数年にわたって、観光と不動産に関わっている大久保実氏によると、ニセコエリアにおける外国人旅行者は、ここ最近は全体の三分の一強で推移しているようだ。
不動産も高騰、富裕層マーケットを狙った戦略
ニセコでは外国人客に関して、国内ではなかなか受け入れの成功事例がない富裕層の取り込みを進めているのが特徴で、着実にその成果を生み出している。
旅行費で1回あたり300万円から800万円使う人や、世界各地に別荘を保有している人が、ニセコにも自分だけの別荘を建てるパターンが増えていると大久保氏は指摘する。
もちろんニセコには、バックパッカーで来られる人、AirbnbやHomeAwayなどのサービスを使う人も多くいるのだが…。

ニセコでは、開発によって不動産市場が活発に動いている。コンドミニアムであれば、2LDKで5,000万円から、3LDKで7,000万円から、ペントハウスだと1億円から3億円で購入されていると大久保氏。戸建ての別荘だと、3億円から5億円くらいの物件があり、今年に入って10億円近い発注も出てきているそうだ。
非常に高価格に見えるが、カナダや北欧のスキーリゾート地と比較すると、半額以下の金額だそうだ。グローバルな視点から見るとニセコはまだまだお買い得感があると見られている。
外資系超高級ホテルの進出やG20等、ニセコの注目度が続く
いつまでこの状況が続くのかと不安視する地元の声をよそに、2019年にはG20のニセコエリアでの開催、2020年には、北海道で初となるブランドホテル「リッツカールトン」、「パークハイアット」の開業が続く。リッツ・カールトンブランドのホテルは国内5カ所目で、保有するスキーリゾート、ニセコビレッジ(ニセコ町)に約50室の富裕層向け宿泊施設を建設予定だ。ゲレンデに面した利便性や蝦夷(えぞ)富士と呼ばれる羊蹄山の絶景も売りにする。
そして先日は、マリオットホテルがニセコに進出するというニュースもあり、注目を集めるだけの話題が続いていく状況だ。
ちなみに、高速道路の延伸、北海道新幹線も2030年に予定されていて、今後も伸びしろが大きい。
ニセコのリゾート開発の特徴は、日本人だけで進めるのではなく、外国人を巻き込んだところにあると大久保氏。
日本のスキーリゾート地が試みてこなかった「富裕層」の取り込みが、ニセコエリアは外国人の手によってアジア(香港・シンガポール)を中心にグローバルにプロモーションを行い、結果として、投資が続き、インバウンドが成功している。現在も持続可能なビジネスモデルとして地域に浸透しているのだ。
ニセコを追いかけ白馬、妙高、野沢温泉が続く!
ニセコが伸びている2000年代の半ばになると、他のエリアも滑ってみたいという需要が高まってきた。また急速なスキー人気でニセコは飽和状態となっていたのだ。
そこで、妙高高原と長野県北部の宿泊関係者らが、自分たちにもチャンスがあると考え「長野新潟スノーリゾートアライアンス実行委員会」を立ち上げた。妙高のほか、白馬、志賀高原、野沢温泉、JR東日本が参加して、訪日外国人をスキー場に呼び込むプロジェクトを実施した。
その一つ、妙高は、今ではオーストラリア人に人気のスキーリゾートとなっている。冬場の宿泊者の9割がオーストラリア人という施設も珍しくない。このように、人気が定着した妙高が、インバウンドに力を入れたのは、2006年頃だった。

その活動の中心人物が当時の妙高観光協会いた清水史郎氏である。彼は妙高をオーストラリア人のスキーメッカにした立役者の一人だ。
国から予算のサポートもあり、海外へ売り込みをする機会を得て、清水氏はターゲットをオーストラリア人に絞った。ゼロからのスタートだったため、知ってもらうことから始め、視察、メディア招聘、現地の旅行会社まわりなどを実施した。また、オーストラリアで毎年5月に開催されるスノーエキスポにも出展するなど積極的に広報活動を展開した。
妙高の雪質は、世界のどこにも負けない自信がある!
妙高の訴求ポイントは、「豪雪」だった。
日本、さらにはアメリカやカナダなど国内外に数多くのスキー場がある中で、いかに世界に勝てるコンテンツを訴求できるかが重要だという。妙高は、街中で4メートル、スキー場で6~7メートルの雪が積もる、世界でも例を見ない豪雪地帯で、一晩で1メートルぐらい積もることも珍しくないのだ。ポスターには豪雪で暮らす人の写真を使った。
それでも3年ぐらいは成果に結びつかなかったが、リピート客や口コミ効果もあり、外国人スキーヤーは着々と増えていった。
妙高観光協会によると、訪日外客数は着実に伸びていて、2006年度のオーストラリア人受け入れが、97人で延べ344泊から始まり、2010年度が1,075人で延べ7,005泊、2015年度が3,930人で延べ23,439泊となっている。
彼らが妙高を選ぶ理由は、雪質の良さだという。日本海からもたらされる適度な湿度の雪が、朝になると新雪として広がっている。カナダやアメリカのスキー場は規模が大きいが、大陸からの湿度が低い雪のため、サラサラし過ぎているという。
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