インバウンド特集レポート

2015.10.29

日本の自然は魅力多いが課題も山積み 登山、自然散策、花めぐり、外国人に人気のコースを探った②

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上高地は団体向けの人気コースになっている

上高地にある環境省 上高地自然保護事務所によると、外国人の「登山」と「自然散策」の人数を比較した場合、圧倒的に団体による「自然散策」が多いと回答。 コースは合羽橋付近を歩く。 黒部アルペンルートのコースに、ここに立ち寄るプランで、一般の外国人旅行者に日本の自然を楽しんでもらっている。 また往復6時間の自然遊歩道を横尾山荘まで往復される個人客もいる。台湾、香港、さらにタイ人も増えてきた。

地元の上高地観光旅館組合もインバウンドに力を入れ始めている。運営しているWEBサイトが多言語になった。そこが、主催してモニターツアーを昨年実施して、欧米とアジアからの外国人が約10参加。フィードバックをして改善点を検証した。

今後も増加が予想される外国人旅行者に対して、自然保護事務所では、環境保護を維持するためにも、5つのルールをいかに徹底させるかが課題だという。

以下が、ポスターで掲示されている。
◆ 採らない / No collecting
植物や昆虫などの生きものを採らないでください。
Please do not collect plants or living creatures, including insects.

◆ 与えない / No feeding
野生動物にエサを与えないでください。
Please do not feed the wild animals.

◆ 捨てない / No littering
ゴミはすべてお持ち帰りください。
Please take all your litter with you.

◆ 持ち込まない / No bringing in
ペットや外来生物を持ち込まないでください。
Please do not bring pets or alien species.

◆ 踏み込まない / No stepping into
歩道を外れて歩かないでください。
Please stay on the path.

このルールの意味をしっかり理解してもらうことも大切だと自然保護事務所では考えている。

登山よりも敷居の低い自然散策コースが増加

上高地の場合もそうだったが、登山よりも敷居の低い自然散策が外国人旅行者にはニーズが高い。では、どのようなコースが人気になっているのだろうか。

富士登山ツアーで実績を上げている株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルの池田氏によると、「花」をテーマにしたコースが、アジアからの旅行者に反響が高いという。

例えば、ひたち海浜公園の初夏のネモフィラという花、足利フラワーパークの藤の花、本栖湖の芝桜など、花を軸にしたコースだ。さらに近隣の果物狩り、またアウトレットモールも加える。盛りだくさんな内容にすることで、参加者はより喜ばれる。

一方、ニーズが多様化しているので、より自由度の高い商品もそろえている。宿泊+電車というスケルトンタイプのツアーの売れ行きが良い。こちらも訪日外国人旅行者向け宿泊・ツアー予約サイトJAPANiCAN.com(ジャパニカン)やジェネシスで販売している。

同社では、自然をテーマとしたツアーを今後、商品開発していく意欲はあるが、現地の受け入れ体制整備が課題だという。そこでJTBが持つ国内旅行のインフラ・ノウハウを活用して、自然を堪能できる着地型ツアーを今後も積極的に造成していきたいという。

文化体験を融合させるコースが価値を高める

花という切り口での自然散策もあるが、やはり日本の強みは、文化体験との融合だろう。

これで成功しているのが、熊野古道だ。 熊野古道のある田辺市では、「巡礼旅」というテーマに絞った海外プロモーションを実施し、効果をあげている。

熊野古道は、山深い紀伊半島の森の中を歩くコースだ。それは、歴史と文化に裏打ちされた山の道であり、近隣住民も大切に保存してきた。それは、巡礼の道だからだ。

2009年7月に世界遺産熊野本宮館オープンし、そこには、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道の常設展示。サンティアゴ・デ・コンポステーラの業者向きガイドブックの共同のプロジェクトなど、相互のプロモーションを実施している。

付加価値の高い自然散策路になっているのだ。ここを歩くことを目的に外国人旅行者が、年々増加しているのがうなずける。

九州オルレの登場で、素朴な田舎の散策も観光資源になった

一方、九州では、もっと素朴な田舎道を散策するコースが韓国人に人気だという。 それは、九州のオルレだ。

九州オルレとは、韓国の済州島で始まった田舎歩きのこと。その九州版だ。

オルレを開発された方が、済州島に移り住んでコースを作成し、ボランティアや地元の人の協力を得て広げていった。スタートからわずか5年間で年間200万人が集まり、人口100人の村にも観光客が訪問し、一人暮らしのおばあちゃんが旅人のために出した食堂(カフェ)も登場。民宿(ゲストハウス)も各地で300軒できたという。

コースを決める厳格な基準があり、これは九州でも守られている。

【選定基準】
①子どもや老人、女性ひとりでも歩ける(危険なコースを通らない)
②アスファルトをできるだけ避け、幅の狭い小道を主とする。
③コースにテーマや物語性がある。
④歩いてでしか見られない景色や見どころがある。
⑤1コースの距離は15Km前後。道草をしながらゆっくり歩いて8時間前後
⑥始点、終点への公共交通がある。
⑦中間地点からのエスケープルートがある。(2キロ以内に駅やバス停がある)
⑧宿泊地から公共交通でいける。
⑨地域交流ができる。

九州オルレの利用者は、2012年からスタートして、昨年の3月時点で約5.7万人、うち韓国人が約4.1万人(日本人1.6万人)だ。そして今年の2015年3月時点で、累計12万5千人となった。うち韓国人は8万人を超えて、いっきにこの1年間で倍になった計算だ。

スタート時は、4コースしかなかったが、現在は15コースまで増えた。リピート率も高く、そのあたりが押し上げた要因だろうと、九州観光推進機構の李唯美さんは言う。 年内には、2つ増える予定があり、来年以降も増やしていくそうだ。

九州でこれほどの結果を出せた理由として、自然の豊かさがあがる。もちろん、阿蘇など有名な観光地は既に知っている。その近郊にも素晴らしい自然があることが知られた。 地元の人しか行かなかったような場所に、コースができたことで安心して歩けるようになったのだ。 さらに地元の方との小さな触れ合い、文化や歴史など、プラスアルファの部分が満足度を増す。

日本に来た際に、2つのコースをまわるために滞在日数を増やす方もいる。1カ月かけて15コースをすべて回った方もいた。日本語を話せないが制覇したという。 個人で来る場合もあれば、ツアーを組んで来るケースも。会社や学生の研修として利用する場合もあり、機会はさまざま。

日本人の利用も増えていて、50歳代から60歳代がコアになる。一方、韓国人は幅が広い。一般的なレジャーとして浸透しているからだろう。家族連れや30歳代のカップルなども珍しくない。もともとコース設定として、5歳の子供から80歳のお年寄りまで楽しめるようになっている。

コースは最初の4コースから毎年増えている。しかし認定されるまでには、そう簡単にいかないのだ。それが、ブランド価値を保っている要因だろう。

4月に九州各県に募集項目を出し、そこから各地域に連絡がいく。 県内で審査をして選ばれたものが最終選考に残るのだが、(社)済州オルレの審査が厳しい。 10回も修正が入り、コースを改善した場合もあった。 例えば、なるべく舗装されていない自然の道を多く使う、トイレがない、店がない、景観が2、3キロメートルごとに変わるかなど、細かい配慮が必要だ。

つまり、ブランドを維持していくためのクオリティコントロールが、成功の要因だろう。

現在、人気のコースは、佐賀県の武雄だ。14.5kmを約4時間かけて歩く。九州オルレのスタート時に設けられた。 コース:JR武雄温泉駅~池の内池~武雄神社~塚崎の大楠~桜山公園 特徴:福岡からJRや自動車で1時間程度とアクセスがよい。四方を山に囲まれた静かな温泉郷で、樹齢3000年の神秘的な大楠や1300年以上の歴史ある温泉、400年以上の伝統を誇る90の窯元がある。

また新しいコースでは大分県の九重が人気だ。登山に来られた方がついでに歩く場合も。12.2kmを約4時間で歩く。 コース:九重“夢”大吊橋~筌の口温泉~ミルクランドファーム~音無川~九重自然観?九重やまなみ牧場~白水川の滝~長者原・タデ原湿原 特徴:牧場があったり、古い町並みがあったり、雄大な景観を楽しめたりとコースの多彩さが人気だ。

九州の強みは、本場の済州島と比べて温泉があることがポイントだと李さん。やはり、汗をかいたあとには、温泉で汗を流してさっぱりする。

コースが増えたことで、各地の宿泊の需要が伸びている。例えば佐賀には武雄、嬉野など3つのコースがあり、訪日期間中に一気にまわりたいということで、佐賀に宿泊するのだ。

今後の課題としては、コースにお店が少ないことだと李さんは指摘する。 九重が人気の理由に近隣のお店の存在があるという。牧場脇にソフトクリーム屋さん、カフェがあり、休憩に立ち寄れるのだ。売店やカフェ・レストラン、ゲストハウスなど増えてくれるとコースの魅力が増す。 済州島では、オルレがきっかでお店が増えたという。まさに地元の雇用にもつながる。

外国人による自然散策がきっかけで、日本の田舎が見直される可能性が高い。その場合、地元にお金が落ちる仕組みを作っておかないともったいない。地元と手を携えた商品開発が今後は望まれる。

Text:此松武彦

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