インバウンド特集レポート

2014.11.25

[検証]1300万人突破か!? 今年の訪日外国人旅行者数は何が押し上げたのか②

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一回の寄航で2000人以上を運ぶ大型クルーズ船


今年7月運航した上海発クルーズ船
(プリンセス・サファイア号)は福岡と釜山に寄航

訪日中国客数を押し上げたもうひとつの要因に、大型クルーズ船の寄航の再開がある。なにしろ中国発のクルーズ船は、一回の寄港で2000人以上の乗客を運ぶからだ。

主な出航地は上海と天津。最もスタンダードなのが、東シナ海周遊4泊5日コースで、福岡など九州各地や韓国(済州島、釜山)を寄港する。2000年代後半から欧米や中国国内のクルーズ会社が東シナ海を周遊するクルーズ船の運営を始めており、いまや上海の海外旅行市場では最もポピュラーな商品として定着している。

もともと東シナ海クルーズは夏がメインシーズンで、中国発クルーズ船の九州寄港は、2012年秋に尖閣問題でいったん休止した。そのため、13年は九州を訪れる海外クルーズ船の総数が半減。ところが、同年秋以降、徐々に運航が再開され、今年に入って一気に増えた。14年寄港した上海発クルーズ船の数は以下のとおりである。

上海発クルーズ船の寄航数(JNTO調べ)
2014年 2月 1隻
     3月 5隻
     4月 9隻
     5月 8隻
     6月 6隻
     7月 17隻
     8月 14隻
     9月 16隻

主な九州のクルーズ船寄港状況は以下のサイトで確認できる。

博多港
長崎港
那覇港(那覇港管理組合)

上海のクルーズ人気について、現地の旅行関係者はこう語る。「人気の理由は3つ。寄港地でのショッピングが楽しめること。船が大きいぶん料金が安いこと。祖父母と親子3世代のファミリーが安心して参加できること」。

上海発のクルーズ商品は3つのランクに分かれるが、最も大衆的な価格帯は4泊5日で5000元が相場だ。飛行機やバスで移動し続ける団体ツアーは、シニアや子供連れには大変だが、クルーズの旅ならのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいという。上海では初めての海外旅行がクルーズというケースも一般的だ。

東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる寄港地が近場にいくつもあり、バリエーション豊かなコースの造成が可能なのだ。今日の東シナ海が、島をめぐる日中の確執の舞台であるだけでなく、中国人の大衆的なレジャー空間になっているという、もうひとつの顔を承知しておいてもいいだろう。

※上海発クルーズの人気の背景は、やまとごころコラム「30回 クールな上海の消費者にいかに日本をアピールすべきか?(上海WTF2014報告)」を参照。

もちろん日本に寄港するクルーズ船は中国発ばかりではない。欧米からのクルーズ船も全国各地を訪れている。舞鶴港(京都府)では、今年15回の寄港があり、地元では上陸してくる外国人観光客の歓迎ムードが盛り上がっている。地元の高校生らが歓迎のうちわを制作したり、英語によるボランティアガイドに挑戦したりしているという。

一般にクルーズ船の上陸時間は8時間程度で、ホテル利用もなく、買い物も特定の量販店や大型ショッピングモールに限られがちなため、地元に幅広く経済効果をもたらすかについては疑問の声もある。それでも、国際航空便のない地方都市で外国人観光客受入のノウハウを学べる好機となるクルーズ船誘致の動きは全国で広がっている。

※クルーズ船の全国の寄港状況については、以下のサイトを参照。
CRUISE PORT GUIDE OF JAPAN

 

10年の積み重ねが巨大な吸引力を生んだ

日本政府観光局(JNTO)は、今年10月の訪日外客数が単月として過去最高の127万2000人となった理由について、以下のように解説している。

「円安による割安感の浸透や、消費税免税制度の拡充、大型クルーズ船の寄航、秋のチャーター便の就航、大型国際会議の開催、中国・国慶節休暇中の集客を狙ったプロモーションや、各市場において紅葉の魅力を集中的に発信したこと」

なかでも10月1日から実施された消費税免税制度の拡充(外国客向けの免税品目の拡大)はひとつのポイントだろう。これまで家電や衣料品などに限られていた免税品目を、食品や化粧品などの消耗品にまで広げたことで、外国人旅行者の購買意欲に火をつけようというのが狙いだ。実際、この情報は中国をはじめアジア各国でいち早く広まったという。

全国の免税販売対応店は、10月1日現在9,361店。メイド・イン・ジャパンを掲げる「ショッピング・ツーリズム」の推進は、アジア新興国の旅行市場のニーズに合っているのは間違いない。だが、実際にはクルーズ客の事情と同様、一部の量販店や百貨店、大型ショッピングモールの利用が集中。恩恵を受けるのは大都市圏の一部であり、全国での「幅広い経済効果」は難しいとの指摘もある。

この点をふまえ、日本政府観光局(JNTO)の鈴木克明海外マーケティング部次長は次のように指摘する。「訪日客の増加は円安効果が大きいとよく言われる。確かに円安は訪日のひとつの動機になるが、通貨安だからといって急に観光客が増えるというものではない。これまで10年かけて培ってきたプロモーションによる日本のイメージがあり、日本に行きたいというニーズが生まれた。国と民間が一体となってやってきた努力が実を結んだと思う」。

政府が「観光立国」を目指してビジットジャパンキャンペーンを開始したのが2003年。これまで10年をかけて積み重ねてきた官民一体のプロモーションの相乗効果が海外の消費者に対する日本への理解や期待を高め、訪日旅行市場に巨大な吸引力を生んできたことは確かだろう。円安効果は日本に対する認知度があってこそ追い風となるのであり、何事も実を結ぶには10年くらいの地道な営みが必要だと考えるべきなのだ。

このまま増え続ける保証はない

では、20年までに2000万人という目標を掲げる訪日外国人旅行者数はこのまま増え続けるのだろうか。

実際には、来年も今年のような高い伸びが続く保証はどこにもない。なぜか。

まずこの1、2年高い伸率をみせたアセアン諸国のビザ講和の効果はすでに一巡し、伸率は鈍化するかもしれない。そして、今年トップの台湾や香港の1~10月の訪日客数を人口比率でみると、台湾(人口約2300万人、238万人)、香港(人口約700万人、73万人)とすでに1割を超えている。これは十分驚くべき数字であるが、伸びしろは多くないと考えても不思議ではない。

そう考えると、頼りは巨大なポテンシャルを感じさせる中国市場となる。今年1億人超という中国の海外渡航者数は、うち4000万人を占める香港を除いても、桁違いに大きな市場である。

日中関係が最悪といわれるなか、中国からの訪日客が増えている状況に戸惑いを感じるむきもあるかもしれない。この点について日中間には認識の違いがあるようだ。中国の消費者の立場で考えれば、中国メディアがどんなに騒ごうと、個人レベルでは日本に行ってみたいというニーズは、とりわけ中国で最も消費社会が進んだ上海を中心に確実に存在する。

一方、日中の航空路線の拡充は上海発に集中しており、全国的な動きとはいえない面もある。地方都市の旅行関係者からはこんな声も聞かれる。「中国は一様ではない。もし日中関係が良好なら、いまの2倍は日本に行ってもおかしくない。多くの中国人はまだ政府に遠慮している」。事実上中国客は増えているが、政治的な理由でまだ相当抑制されている地域の消費者も多いという。

今年韓国に約600万人もの中国客が訪れると聞けば、政治の影響がいかに大きいか物語っている。先般、実現した日中首脳会談が今後どう市場に影響を与えるか、気をもんでいる日中両国の関係者も多いだろう。

ともあれ、手をこまぬいていては何も始まらない。台湾や韓国、香港といった成熟した訪日旅行市場はまだ全体の一部である。中国の訪日客は個人ビザ客が増えているにもかかわらず、訪問先は圧倒的に東京や大阪などの大都市圏に集中しているといわれる。訪問地の多様化はそれほど進んでいないのだ。これはアセアン諸国の市場も同じだろう。

訪日外国人旅行者を今後も順調に増やしていくには、訪問先を全国各地へと分散化していく戦略が不可欠なのだ。これは「地方再生」にもつながる話である。

現在、海外で広く知られている日本の旅行先および商品群は、①東京・大阪ゴールデンルート周遊、②首都圏・関西圏の都市観光、③北海道、④沖縄などに限られるのが現実だ。今後、仕掛けなければならないのは、これらに次ぐ新しい「顔」の創出だ。その点でいえば、アジアから距離的に近い九州をまずは優先すべきだろう。

残念ながら、海外での九州の認知度はいまひとつのようだ。上海の旅行会社の担当者から、九州の売り方がわからないという話を聞く。アジア新興国市場ほどこの傾向が強い。一方、韓国のように九州を舞台に自ら新しい旅のスタイルを生み出している市場もある。両地域の歴史的なつながりがいかに深いか感じさせる話だ。


九州では韓国客が始めたハイキングコース(オルレ)が人気

日本人の目で見れば、九州には火山もあるし、自然も温泉もある。歴史もグルメもある。しかし、いろいろある、だけではダメなのだ。対外的にすでに認知された4つの旅行先とは明らかに異なる明快な九州イメージの確立が求められているのだ。それがなければ、外国客には選んでもらえない。イメージ確立のためには、持ち札のすべてを見せようとするとかえって逆効果だ。むしろ、まず何かひとつに絞り込むしかない。相手国に合わせてまったく別の「顔」を見せてもいい。

言うは易く行うは難しだが、これは九州に限らず、まだ海外で認知されていないほとんどの地方が抱える共通の課題でもある。

ともあれ、訪日外国人旅行市場には明らかに追い風が吹いている。課題は数々あれど、いまの日本、これほど先行き楽しみなチャレンジはそうあるものではない。

Text:中村正人

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