インバウンド特集レポート
観光庁は、訪日外国人観光において、今後、消費額を伸ばしていくためには、夜のエンターテイメントを充実させるのが良いとの見解を、今年1月に示した。ところが、「ショー」をするとなると、莫大な投資がかかり、それも成功するかどうかの未知数が高い。そんななか、「飲み歩き」がナイトエンターテイメントのコンテンツとして注目されつつある。その現状を報告する。
飲み屋街があるかないかで、宿泊先が変わってしまう
先日、スキー場を取材したところ、インバウンドにとって飲み屋街は、重要な要素の一つだと感じた。例えば、スキー需要が高まっているエリアで、特にブレイクしているのが、新潟県妙高の赤倉温泉、そして長野県の野沢温泉と白馬。ここに共通しているのは、宿の近くに飲み屋が多いことだ。
多くの外国人スキーヤーは、素泊まりで予約するケースが多く、一般的な1泊2食付きというプランを好まない。宿の外で、食べ飲みするからだ。また彼らの多くは宿に連泊をするので、毎日違う店に行ける飲食店街が喜ばれる。このように、飲食店街とインバウンドの相性は良さそうだが、さて、都内の繁華街でも、そうなのだろうか。新宿界隈を中心に、最近の動きを追ってみた。
まず、世界の歓楽街、歌舞伎町について。近隣に宿が多いこともあり、飲みに繰り出す外国人観光客は多い。
ロボットレストランを起点に新宿を飲み歩く?
特に新宿では、「ロボットレストラン」が今でも圧倒的な人気を誇っている。もっともここは、飲み屋というより、パフォーマンスを楽しみながらビール等が飲める夜のエンターテイメントショーだ。ここを起点に飲み屋に流れる外国人客も珍しくない。公演が終わった後に、お客さん数人にインタビューしたところ、ゴールデン街に行ってみるという外国人観光客がいた。そのような飲み歩きコースになりつつあるようだ。
ロボットレストランに、5年ほど前にも取材で入らせてもらったが、その勢いはまったく衰えず、担当者にうかがうと、観客数は年々伸びているという。料金は、当時に比べて倍の8,000円(飲食別)となっても動員数に陰りがみえない。
ベーシックなストーリーは当時と変わらず、若い元気な女性たちが、ロボット軍団と戦う展開になっている。冒頭の迫力ある太鼓から始まるのも同じだが、演出がバージョンアップされている。
当時は、そもそも日本人の疲れたサラリーマンを元気づけようというコンセプトだったが、蓋を開けると訪日外国人の人気を集め、すっかり歌舞伎町観光の目玉になっていった。
そこでロボットレストランでは、方針を完全にインバウンドに転換。現在は、MCをすべて英語、売店のスタッフも英語等、バイリンガルスタッフを多く抱え、外国人観光客がより楽しんでもらえる仕組みにブラッシュアップしている。
ショーは、ロボットだけではなく、人による迫力あるフォーマンスが増え、その世界観を継続しながら、スピーディーな展開で、観客を飽きさせない刺激的な内容となっている。集客は、口コミがほとんどだという。また海外メディアの取材を多く受け入れ、魅力を発信している。
音楽好きなツーリストは、日本のロックバーを体験したい
さらに、ここ最近は、その他の歌舞伎町界隈の飲食店にも外国人観光客の足が向かっている。わずか数分の場所に「クラウダディー・クラブ」という70年代を中心としたロックバーがあるが、昨年あたりから訪日外国人が増えてきたという。
近隣にはホテルや民泊物件も多く、そのゲストが、たまたま通りがかり、入って来るケースが多いと同店のマスターはいう。また、外国人向けのフリーペーパー「タイムアウト東京」にも掲載されたことも後押しとなっているそうだ。
ここでは、入店の際にチャージ料の説明をしているという。欧米のロックバーは、チャージ料を取らずに、ドリンク代のみというお店がほとんどだからだ。仕組みの違いを説明しないと後あと、トラブルになりかねない。説明すると、外国人の半数ぐらいは、入らずに帰るそうだ。
また、生演奏はあるのかと、近隣のホテルから質問されることもあり、音楽好きの外国人が、日本のロック事情に興味を示しているのだろう。
このように新宿の飲食店街は、外国人客が着実に増えていて、そこで外国人向けの飲み歩きツアーも登場している。新宿歌舞伎町やゴールデン街を中心に、複数の会社や個人がオーガナイズしてインターネットや旅行会社を通じて募集をしている。今回は、その一つ、株式会社ノットワールドの河野取締役に現状を聞いてみた。
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