インバウンド特集レポート

データから訪日客の行動傾向を読み解き、次にとるべきアクションにつなげる

2018.06.07

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データ収集やその解析など、デジタルマーケティングに舵を切り始めたインバウンド業界。前回は、日本政府観光局(JNTO)の取組みを紹介した。今回は、自治体等からの案件を受け、アプリを利用してデータを集め行動分析を行い、着実に実績を積んでいるナビタイムジャパンの取組みについて見てみよう。

 

データ分析のニーズは年々進化している

ナビタイムジャパンは、観光のビッグデータに対する先進的な取り組みをしている。2013年10月に、訪日外国人向けに乗り換え観光アプリ「NAVITIME for Japan Travel」をつくり、利用者に同意のうえ、国籍や性別などの属性や位置情報を取得し、その情報をもとに移動分析を行っている。同社インバウンド事業部の藤澤政志部長は、現在では、外国人個人旅行者の12.5%が利用するサービスに拡大したと語る。

同氏によると、データマーケティングへのニーズは年々進化している。それに対して最初のフェーズは、エリアごとに国・地域別の訪日外国人の滞在者数を集計するものだった。次の第2フェーズでは、どういった動線で移動するのか広域での集計になった。そして第3のフェーズでは、広域の移動を詳細に分析し、次の打ち手への提案をするようになった。

例えば、第1フェーズでは、2014年に国交省近畿地方整備局からの案件で、訪日外国人滞在者数を府県別、エリア別にデータ集計し、関西地方における立ち寄り先の概況を把握したいとの要望だった。結果として、昼夜別の滞在比率は府県ごとの差が大きいことがわかり、大阪府の夜間滞在者数が昼間を上回るのに対し、奈良県では昼間の2割程度であることがデータとして示された。

当時は、大阪エリアに外国人が増えたという肌感覚があったが、それが具体的になったことは大きい。ちなみに当時は、まだビッグデータという言い方は現場では定着していなかったそうだ。

 

状況把握のための調査から、地方誘客に向けてのデータ活用へ

第2フェーズは、例えば、2015年の国土交通省中部運輸局による案件で、訪日外国人旅行者増加の効果をゴールデンルートのみならず広く地方に波及させるため、広域観光周遊ルートの形成促進など、訪日外国人旅行者を地方へ誘客する一環としての調査を行った。結果として、昇龍道という中部エリアの動きが具体的になってきた。日本海側ルート、長野松本ルートが滞在エリアを含め、細かい経路等が見える化されたのだ。

そして第3のフェーズとしては、例えば、2016年の瀬戸内DMOの案件がある。瀬戸内を4泊5日で周遊する台湾人旅行者を抽出し、関空から入国する関空インや成田・羽田インだった場合は、そこから広島や岡山への移動となり、初日は移動で終わることがわかった。また帰りも同じく関空等のハブ空港となり、最終日また前日に空港の近くでショッピングをしていることが推察された。つまり初日と最終日は観光しない傾向があるため、実質2泊3日だけの周遊となり、離島や山奥などには足を運びにくいということがわかった。

日数別の宿泊拠点および流入を明らかにすることで、広域周遊ルートにおける傾向や課題が見えてくる。そこで、岡山空港インや広島空港インなど、直接、瀬戸内にある国際空港に乗り入れ、移動日をなくしてしまえば、域内の別の観光地を訪ねることができることを提案した。

一方、最近のナビタイムジャパンでは、新たに細分化したテーマ別観光の動向調査や、データを取得・分析するための仕組みとしてのアプリ開発も始まっている。例えば、琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」を楽しむサイクリスト向けの専用アプリ「BIWAICHI Cycling Navi」を開発した。どのような行動パターンの傾向があるのか見えてくるだろう。このように、自社でアプリを開発できるエンジニアを抱えているのが強みでもあり、さらに観光に知見が高く分析もできるスタッフもいる。

 

北海道のレンタカー需要を数値化する

ところで、ナビタイムジャパンは、北海道のレンタカーによる周遊の実態把握と課題解決の提案に向けた取り組みを進めており、国土交通省北海道開発局と緊密かつ組織的な連携・協力体制の構築のための協定を2018年4月に締結したばかりだ。これは、北海道開発局と協働で、2017年9月から11月末にかけて「北海道ドライブ観光促進社会実験」を実施したことがベースにある。

この社会実験の目的は、地域間、季節間の旅行需要の偏在緩和に向け、主に外国人ドライブ観光客を北海道の地方部へ誘導することにある。ナビタイムジャパンが開発したスマートフォン用アプリ「Drive Hokkaido!」を活用して、北海道、特に地方部の魅力的な観光資源や割引特典を提供する施設の情報を発信するとともに、外国人ドライブ観光客の移動経路や立ち寄りスポット等を分析、検証結果の活用により、今後の観光施策やプロモーション活動等を推進する。

「Drive Hokkaido!」には、景観の良い走りたくなるルート(パノラミックルート)や339資源(観光施設、観光地、レストラン、ショップ等)の観光情報等が紹介されている。社会実験期間中には、粗品プレゼントや割引サービス等のクーポンを提供する特典提供施設が249施設掲載され、英語と中国語(繁体字)で表記されている。なお、アプリは社会実験終了後も利用可能となっている。

 

レンタカー利用者は北海道を周遊する傾向

社会実験の結果として、期間中に北海道内で1,211人の外国人観光客が利用し、北海道における外国人レンタカー総利用台数19,543台の6%に相当するデータを取得した。国・地域別の内訳では、香港、シンガポール、台湾、マレーシアの方が多く、利用エリアは、レンタカー以外の交通手段では訪問が難しい地域も含めて、北海道内各地を広く周遊したことがわかった。

宿泊場所の割合で、北海道庁による北海道観光入込客数調査報告書(2016年度)では、道央圏(札幌、ニセコ等)が70.5%で地方部(道南、道北、道東)が29.5%だが、今回の調査では、道央圏が57.5%で地方部は42.5%となっていることが確認できた。また全旅行者の平均旅行日数は3.8日のところ、レンタカー利用者は5.8日であることもわかった。

このように、レンタカー利用に特化したデータと全旅行者データと比較した場合、外国人ドライブ観光客は地方部への宿泊割合が高く、また旅行日数も長いことがわかった。つまり、ドライブ観光の促進は、地域偏在の緩和に有効であることが裏付けられたのだ。

今後に向けて、この取組みを3ヵ月間の社会実験のみで終わらせるのではなく、季節変動や経年変化を継続的に把握し、具体的な施策検討や効果検証へ結びつけることが重要である。北海道開発局とナビタイムジャパンが協定を締結したことで、次へつながっていくことが期待される。

(次号へ続く)

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