インバウンド特集レポート

第99回 2018.07.12

スポーツツーリズムを地域で盛り上げる仕組みづくりと仕掛け方とは?

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スポーツは人を動かすー。前回、観光資源として、スポーツツーリズムは地域活性化へも貢献するとお伝えした。それでは、現場ではどのような取り組みが必要となるのだろうか。また、スポーツツーリズムを盛り上げていくための仕掛けについても考えてみよう。

 

インバウンドで新たな活路を見出したスポーツ施設

日本がスポーツツーリズムを盛り上げるべきなのは、いくつかの理由がある。

1990年代初頭のバブル経済の崩壊以降、日本のスポーツレジャー人口は伸び悩んでいる。とりわけ、当時の花形だったゴルフやスキーの凋落は著しいものがある。これら大がかりな施設に頼りがちなスポーツほど、運営や維持が難しくなっている。

一方、訪日外国人の増加にともない、一部の地域や施設では、国内客に代わる利用者が現れ始めている。北海道のニセコや長野県の白馬のスキー場を訪れるオーストラリア客、九州や沖縄のゴルフ場を訪れる韓国客の話は有名だ。こうしたことが起きたのは、地元の事業者が主体的に海外向けに集客に取り組んだからではなく、外国客自身がその地の魅力を発見し、ある意味勝手に盛り上がりをみせているケースが多い。

その意味で、日本のスポーツツーリズムを目覚めさせたのはインバウンドなのである。スポーツ庁や観光庁が推進しようとしているのは、自らの主体性を取り戻すための取り組みといえるかもしれない。

 

スポーツを地域で盛り上げる仕組みづくりが急務

これまでみてきたように、訪日外国人のスポーツに対するニーズは多様化しており、既存の施設の運営や集客の手法を超えた新しい取り組みが求められている。着地型の体験型旅行商品の造成につなげていく、さまざまなプレイヤーの参画や連携が必要となっている。

スポーツツーリズムを推進するためのプラットフォームとなるのが地域スポーツコミッションだ。地方自治体やスポーツ団体、民間企業(スポーツ産業や観光産業)が一帯となった組織で、全国に生まれている。

 

追い風としてのアジア各国のスポーツレジャーの定着

日本のスポーツツーリズムにとって追い風となるのが、近隣アジアの人々の所得向上にともなうスポーツレジャーの定着である。

日本各地で開催されるマラソン大会やウォーキングイベント、サイクリング大会などに、台湾客をはじめ多くの外国客が参加するようになっているのはそのためだ。背景には、アジアの国々で日本と同様のアウトドアスポーツイベントが盛んに開かれていることがある。彼らはすでに自国で体験したイベントを海外の異なる環境でも体験したいのだ。

それは先進的なフィンテック技術を活用した街中のシェアサイクルの普及で知られる中国でも同様だ。

上海在住のIT企業CEOの高亮さん(仮名・56歳)がいま夢中になっているのがスポーツサイクリングである。彼は数年前大病を患い、生死の境をさまよったという。健康を取り戻したいま、こう考えているという。

「これからは、金儲けはいい。自分の好きなことをして生きていきたい。それが私にとってスポーツサイクリングだった。続けるには、日々のトレーニングが欠かせない。今では中国各地の大会に参加することが一番の楽しみになった」

高層ビルと車の多い上海だが、上海万博の跡地の河沿いに自転車専用路ができるなど、サイクリストのための環境が整い始めている。高さんの世代は、中国がモータリゼーションを迎える前の自転車大国だった時代を知っているだけあって、始めやすかったこともあるだろう。

n 上海サイクリング

上海のスポーツサイクリングの愛好家たち

 

中国のサイクリング人気が日本への渡航のきっかけに

中国のスポーツサイクリング大会の日程やサイクリスト事情を知るには、アメリカの愛好家サイトの中国版「BIKETO 美騎網」をみるといい。何ごともまずは装備と見た目からというのは愛好家に共通する心理。海外ブランドの自転車メーカーや各種装備品などの商品情報もあふれている。

なかには日本でのサイクリングイベントに参加した中国人の報告も紹介されており、彼らが日本で何を体験し、何を感じたかを知ることができる。以下は、今年6月10日に富士山麓で開催されたロードバイクによる登坂自転車競技の大会Mt. 富士ヒルクライム」に参加した体験レポートである。彼は台湾人のサイクリストの友人にこのイベントについて聞いたことが参加したきっかけであると述べている。

日本第一山 富士山爬坡赛体验(2018-06-19)

このように、彼らはタイミングときっかけがあれば、日本のサイクルイベントに参加したいと考えている。もちろん、それ以外のアウトドアイベントでもそうだ。これは中国に限った話ではないが、海外のスポーツ愛好家サイトを通じて彼らを日本に呼び込む仕掛けを考えてもいい。

 

メガ・イベントが目白押しだが…

来年のラグビーワールドカップ2019、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、2021年の関西ワールドマスターズゲームズ2021(生涯スポーツの国際大会)と今後、日本ではメガ・イベントが目白押しである。これにともなう経済効果や地域活性化を誰もが期待するのは無理もないが、これまでもそうだったように、お役所が描くバラ色のシナリオどおりには進むとは限らないものである。

全国各地で開かれるようになったマラソン大会への参加者数もすでにピークを迎え、伸び悩んでいるという話もある。外国人の関心が高いとされる武道も、まだ受入態勢やコンテンツの整備が遅れており、海外への情報発信も一部の愛好家には届いても、ツーリズムとしての広がりには至っていない。

メガ・イベントの開催中は、確かに多くの外国人が日本を訪れるだろう。だが、それは長くても数週間程度の一時的なものだ。
だとしたら、大切なのは日々の情報収集だろう。とりわけ近隣アジアの国々で開催される各種スポーツイベントについてもっと我々は知る必要があるし、情報だけでなく、大会の関係者や愛好家同士の人の相互交流を進めることも大切ではないだろうか。

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