インバウンド特集レポート

第105回 2018.09.19

農村にも普及するモバイル決済 中国でキャッシュレスが支持される理由とは

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前回は、アプリ先進国といわれる中国でのモバイル決済の実態についてレポートした。本編では、なぜ中国でキャッシュレスが支持されているのかを考察する。

 

モバイル決済で明朗会計

中国で広く普及するモバイル決済だが、実際のところ、外国人が買い物したり、支払いをしたりする場合、現金があればまず問題はない。現金は受け取らないというケースはほぼないからだ。

ではなぜ多くの中国の人たちはキャッシュレスを支持しているのか。それは、明朗会計なしくみだからだ。

以下、「WeChat Pay」の使い方を簡単に説明しよう。

たとえば、コンビニで買い物をする場合、商品をレジまで持っていき、店の人に精算してもらうが、その間利用者はスマホの「WeChat Pay」を立ち上げる。そして、自分のQRコードを店の人にスキャンしてもらうと、料金が表示される。料金を確認し、「支払いパスワード」を打ち込むと、買い物はあっけなく完了する。

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▲店の人に自分のQRコードをスキャンしてもらうだけ

アプリ内に支払い履歴が残るので、いつどこでいくら使ったかもわかる。もちろんレシートもくれる。もしあとで金額間違いに気づいたり、返品したりしたい場合でも、アプリ上で簡単に返金できるしくみがある。現金払いと比べても、どれほど明朗会計かわかるだろう。

 

送金機能の賢い使い方

実際、「WeChat Pay」には、外国人にとっても便利な機能が多い。なかでも使えるのが送金機能だ。これは知人同士で電子マネーを送金できるサービスだ。たとえば、レストランの会計で割り勘をするとき。一般に中国の人たちは割り勘をすることは少ないが、日本人同士の場合、誰かがまとめて支払ったあと、人数分で割った金額を「WeChat Pay」で幹事に送金すれば、スマートに処理できるというわけだ。

「WeChat Pay」は中国の地下鉄やバスの交通カードのチャージにも使える。日本ではSUICAは駅のチケット販売機でチャージするものだが、中国でも地下鉄駅構内にチャージする端末が置かれている。日本と違うのは、現金だけでなく、「WeChat Pay」から電子マネーでチャージが可能なことだ。

これは一般的ではないかもしれないが、中国に出張する機会の多い人は中国携帯を持っていると思う。「WeChat Pay」は携帯のSIMカードにチャージもできる。交通カードのように端末は不要だ。

 

予約、注文、支払いまで一気通貫の店も

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▲アプリのメニューで料理を注文

モバイル決済とアプリサービスが連動することで、中国では日本にはない新しいサービスが生まれている。

中国での楽しみのひとつが食事だが、あるレストランチェーンでは、スマホひとつで店の予約から料理の注文、支払いまで一気通貫でできるサービスを提供している。

具体的にいうと、日本にも進出している「大衆点評」のようなレストラン検索アプリを使って店を予約したとする。入店後、利用者は席に案内されると、テーブルに貼られているその店のQRコードをスキャンし、メニューのページから料理が注文できるようになっているのだ。

注文をすませ、しばらくすると料理が出てくる。食事がすむと、そのまま「WeChat Pay」で支払えばいい。決済がすむと、店員がテーブルに来て、レシートを渡してくれる。もしレシートが必要ないと思えば、そのまま店をあとにしても問題ない。履歴は残るからだ。日本の居酒屋でタッチパネル式の端末をよく見かけるが、注文しかできないと思うと、時代遅れに感じてしまう。

 

導入のお手軽さが普及の理由

レストランではもちろん、中国でよく見かける、多くの飲食店が集まり、自由に料理を選べるフードコート、さらには個人で経営する屋台でも、モバイル決済は問題ない。

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▲市場では店のQRコードを自分のスマホでスキャンする

中国では通勤前の人たちがよく朝食代わりに屋台などで簡単な食事をすませる。これらの屋台でモバイル決済をする場合は、レストランとはやり方が少し違う。屋台の店主はたいてい客のQRコードを読み取るスキャナーを持っていないので、逆に客の方が屋台側の用意したQRコードをスキャンして支払うことになる。

つまり、QRコード決済には2通りあって、客が自分のQRコードを読み取らせる場合と相手のQRコードをスキャンする場合がある。

いずれにせよ、電子マネーが移動するだけなのだが、中国でモバイル決済が普及した理由として、屋台や市場の果物売りの店主のような個人経営者でも、スマホひとつあれば決済が可能というシステム導入のお手軽さがあったのだ。レジやカードスキャナーを買い揃える必要はないのである。

 

農村でも普及するモバイル決済

筆者は中国滞在中、現金とモバイル決済を使い分けた。その基準は利便性もあるが、手元にどれだけ人民元の現金が残っているかとの兼ね合いだった。いつどれだけやるかという両替問題は、日本を訪れる外国客にとっても常に気になる悩みだろう。

中国には海外によくある両替所はなく、以前に比べ銀行での外貨の両替が面倒になっている。とりわけ地方都市の銀行では、数万円程度の小額の外貨の両替を受け付けてくれない。手持ちの現金が減ると、大都市に移動するまでの間、「WeChat Pay」の支払いでしのぐほかなかった。

逆にいえば、それだけ中国では地方の町や農村でもモバイル決済が普及しているということだ。もはや上海や北京のような大都市に限った話ではない。トウモロコシ畑に囲まれ、人里離れた村でも、人々はモバイル決済を利用しているのだ。

これは特別な観光地もない地方の町や田舎に魅力を感じる外国人旅行者にとって心強い話ではなかろうか。実際、日本を訪れる外国人の中にもそのような旅行者は少なくない。どんな辺鄙な場所でも、現金以外の決済手段があるということはありがたいのである。

 

中国はQRコード社会

これまでみてきたように、いまの中国はQRコード社会である。現地の人が手渡してくれるホテルやレストラン、観光施設のカードや名刺には、当たり前のようにQRコードが付いている。それをスマホでスキャンすると、アプリが立ち上がり、それぞれの店や施設の情報がすぐに公開されるようになっている。

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▲中国では名刺にQRコードは常識

なかには、あるホテルのフロントで手渡されたカードをタクシーの運転手に渡し、スマホでQRコードを読み込むと、GPS機能を通じて自動的にホテルまでナビしてくれるというサービスもあった。そんな光景を何度も見ながら、カードや名刺に地図やURLを書き入れるだけでは十分とは考えない(つまり、いまより便利にするためには何ができるかを常に考えている)、そんな新しい社会に中国が進化していることに気づかされる。

中国でよく見かけたのは、無人コンビニの実験店だった。まだ数は少ないが、地方都市にもけっこうあった。実際に訪ねてみると、それほど利用者は多くなかった。店舗が小さく、買える商品が少ないし、少々割引されるとはいえ、自分の顔画像を提供することが利用の条件なので、そもそもメンドウだし、抵抗があるのだろう。こうした理由から、一気に普及するのはそんなに簡単ではなさそうだが、それでも中国には全国各地に新しいしくみを導入させようとするチャレンジ精神があることがわかる。

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▲大連にある無人コンビニは京東という大手EC企業が運営

いわば、中国は大いなる実験社会である。これらの日本人が体験していないサービスが、世界を先取りして中国で実現したのは、国を挙げてQRコードを利用したモバイル決済のしくみを構築し、普及させたことが大きい。それをベースに各種アプリが開発され、さらなる新規サービスを生み出してきたのである。

(次号に続く)

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