インバウンド特集レポート

第108回 2018.10.09

「温泉」は世界が注目するコンテンツ 各地で新しい取り組みが始まっている

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日本は地震大国という側面があるが、温泉列島というプラス面もある。訪日した外国人観光客がその日本の温泉の素晴らしさに気づいて、リピートする際にはもっと温泉を楽しみたいという意見も多い。

例えば、リピート率が高い台湾と香港からの観光客は、温泉に最も注目していることがアンケート調査によってわかった。訪日観光情報サイトの「ラーチーゴー」が、今年、台湾と香港の3,958名を対象に訪日旅行に関する調査を行い、その結果、今後参加してみたいツアーとして「温泉ツアー」が39.8%と1位を獲得し、4割近くが興味を示した。このように温泉への関心が高まっているが、その温泉地や温泉宿では、どのようなインバウンド対策をしてきたのだろうか。訪日外国人が増えていく中、新しい取り組みが広がっていたのだ。その現状をレポートする。(取材・文/此松タケヒコ)

 

城崎温泉の外国人伸び率の驚異!

全国の温泉街で、インバウンド誘客において短期間で成功したと言われているのが、兵庫県の日本海側にある城崎温泉だ。古風な温泉宿が連なり、浴衣を着て外湯を楽しむ、そんな情緒あふれる光景が外国人観光客に人気となったのだ。外国人宿泊数は、2011年はのべ1,118人泊だったが、2017年には5万800人泊と急激に増加し、わずか6年で約45倍の伸びとなった。内訳をみると、欧米豪からの観光客が高いシェアを占めている。

城崎温泉がある豊岡市によると、インバウンドに力を入れ始めたのは2013年からだったという。当時取り組んだ内容として、まずは体制整備がある。2013年に国内外の観光客誘致を担う「大交流課」を設置した。その機会に、旅行会社からの出向者を迎えるなど、民間の力を取り入れることが加速した。

しかし、当時は、ここまで外国人客が増加するとは思わなかったそうだ。理由をリサーチしたところ、海外の旅行ガイド『ロンリープラネット』で「Best Onsen Town」として紹介されたことが大きな契機だったとわかってきたという。もともとのエキゾチックな温泉地が観光素材の魅力が、編集者の目にとまったのだ。その結果、伝統的な温泉旅館が並び、浴衣姿が行き交う情緒ある温泉の町として紹介された。

 

5年間で40倍という記事だけが一人歩きしたが・・・

実は、そのきっかけを仕掛けた旅館があった。西村屋本館さんや山本屋さんなど、若旦那たちが積極的に新しいことにチャレンジして、海外メディアなどの有力な英語版の観光情報サイトの記者を招聘し、その記事が目にとまったのだ。

当時、その取り組みに関わっていた「実践!インバウンド」の小野代表にうかがった。

同氏は、地方にある中小規模の旅館に、外国人向けのインターネットによる集客マーケティング支援を続けており、今年の12月で15年目に入るほど業界では屈指の実績を誇る。累計で約450軒の旅館のインバウンド集客をサポートし、その7~8割が温泉旅館だ。常時、40~50軒の案件を抱えながら、毎年、新規に5~10軒の旅館に対応している。

小野氏と城崎温泉との出会いは、2006年に国際観光連盟の近畿支部で、同氏が講師として招かれインバウンドセミナーを実施したことがきっかけだ。そのセミナーに城崎温泉の宿の方々も来ており、その数か月後に城崎温泉からインバウンドの相談があったという。行政から海外へのプロモーション予算の補助がつき、まずは観光協会のwebサイトを多言語対応することになり、英語、中国語、韓国語を加えた。その後、宿の予約もできるページを加える等、段階的に改修している。

また、ヨーロッパからの外国人の記者に取材に来てもらった際に小野氏がセッティングや同行をして、実際に記事として海外向け情報サイトメディアに掲載されたこともあった。そういった地道な取組みのしばらく後で、その記事を参考にミシュランに2つ星で掲載されたのだ。

その後、城崎温泉の外国人宿泊客がわずか5年間で40倍になった、という記事で有名になったが、小野氏は、結果が出始める前段階の仕込みをおろそかにしてはならないと強調する。先進的な旅館の若旦那たちや小野氏の5年以上の努力があったからこそ火が付いたのであり、トータルで約10年間という歳月が必要だったと振り返る。だいぶ以前から、大きな石を地道な努力を積み重ねて押し続けたからこそ、今、勢いよく回り始めたと言える。

 

最初は前向きな旅館が集まって、地道にインバウンドに取り組んだ

最初に、積極的な西村屋さん等の数軒から始まり、地道な取り組みを進めて、少しづつインバウンドに関わる旅館が増えていった。まずは個別の宿が前向きにならないと、いくら観光協会が多言語のwebサイトを作ったところで、宿泊者が増えるわけではない。外国人が来ても宿泊してもらわなければ、地域としては盛り上がらないと小野氏は指摘する。

なぜ、早い時期からインバウンドに力を入れるようになったのか。

90年代のバブル崩壊以降、地方温泉地は、少子高齢化による宿泊稼働率の低下とデフレの長期化による売上単価の低下に喘いでおり、城崎温泉もその例外ではなかった。城崎温泉の特性として、もともと中小規模の旅館が多く、団体客を受け入れられる大規模旅館は少ない。そこで、個人旅行のシェアが高い欧米豪の個人客をネット活用して狙うことにした。宿同士はライバルだが、インバウンドに関しては、若手が観光協会や旅館組合などの枠組みの中で協力し合いながら前へ進んだのだ。

その数年後、行政からサポートをしてもらうようになり、外部人材の招聘、DMOづくりなど、大きく舵をきったことが弾みをつけることになり、現在の成果につながった。

 

インバウンドを早く始めた温泉旅館に先行者利益

小野氏によると、全国でここ4、5年で変わったのは、インターネットを活用したFIT(個人旅行者)が増えたことだという。さらに地方の温泉、観光地に関心が高まってきたのだ。

現在結果を出している温泉旅館は、先行者利益のある宿だという。インバウンド対応をしているところが少ないから、口コミも積み重なっていき、その結果、さらに予約が集中しやすい傾向がある。インバウンドが盛り上がってきたから対応しようと思っても、口コミが少ないと、年々激しくなる競争の中で何か特徴を出さないと集客も難しく、先々が厳しい。

10年前、多くの温泉旅館はインバウンドに関心が低く、当時は半分だまされているような気持ちで始めたのではないかと小野氏は当時を振り返る。温泉街でインバウンドに積極的な宿は1割程度しかなかった。

当時、インバウンドに積極的な宿には共通する点があった。もはや日本人客が減ってしまっているので、新規マーケットをやるしかないと追い込まれた老朽化した中小規模の宿だ。彼らが実際にインバウンド対応を始めてみると、外国人客のほうが対応の手間が少なく、クチコミ評価も高く、客単価も高い場合もあるのだ。宿屋としての本来のやりがいを取り戻していったのではないかと小野氏は語る。

(次号に続く)

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