インバウンド特集レポート

第110回 2018.10.11

多様化する訪日外国人の温泉ニーズと問われる受入側の対応力

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前回は、それぞれ独自の方法で温泉をPRしている各地の事例を紹介した。最後に、メディアでもたびたび話題になるタトゥー問題にも触れつつ、受入側として独自性を出していくことの重要性について考えてみよう。

 

一軒家宿の可能性を予見する小野氏

今後、外国人に人気になるのは、一軒宿など特徴が分かりやすい宿であると「実践!インバウンド」の小野氏はみている。

小野氏が実際に関わっている「浜の湯」は、伊豆にある一軒宿。東京から踊り子号で2時間半近くもかかるが、岬の突端にあり景色が良く、さらに本物志向の美味しい海鮮会席が食べられる。それを訴求ポイントにして、試行錯誤を繰り返し、1泊3-4万円の宿として外国人に人気になっていった。インバウンド集客向けに外国語のwebサイト、グーグル対策、商品プラン対策を練ったのが成功に結びついた。

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そこでわかってきたことは、知られていないところにピンポイントにやって来る外国人が増えつつあるということだという。それも、特徴のある一点豪華主義でやって来るのだ。

長野県の標高2000mにある高峰温泉へも、大自然の中の露天風呂のみならず、星空見学を目的に外国人がやってくるそうだ。

野生のウサギが生息する島、野良猫が人口よりも多い島など、動画サイトでその魅力を知って、その地にわざわざ足を運ぶ外国人は、もはや珍しくない。宿泊に関しても、そこに泊りたいニーズが高いと、遠隔地でもやって来て、さらにリピーター率も高くなる。

日本の郷土料理やB級グルメ、田園風景、絶景、パワースポットなど、訪日外国人のニーズが多様化していて、そういう時代には、一軒宿や秘湯はチャンスだと小野氏はみている。イノベーター層の外国人客がいて、彼らは日本人旅行者と同様のディープな奥深い日本を探訪したいのだ。いまや秘境温泉マニアの外国人も登場すると小野氏は言う。

 

健康に特化した温泉開発を進める秋田県仙北市

さらに、健康をテーマにした温泉も外国人の間で脚光を浴びる可能性が高い。効能にこだわる外国人も増加中で、特に欧州では温泉は「スパ」として健康を維持するための温浴施設としての歴史があり、そこからのアプローチも想定されるからだ。

実際に、秋田県の乳頭温泉や玉川温泉がある仙北市では、2017年9月、湯治文化を活かした医療や食、文化を市民の健康増進に役立てて産業振興につなげるために、ヘルスケア産業推進協議会を立ち上げ、「温泉×健康」によるヘルスケアを推進テーマにしている。この協議会は、2つの目的「市民の健康増進」と「ヘルスケア産業の創出」を掲げている。

前者は、市民の健康寿命の延伸・医療・介護費用の最適化、要介護率の低減、そして後者は市内外から誘客や「温泉×健康」により生まれる新たな産業創出を狙っている。

美肌に効く温泉など、個々人のニーズに応じた温泉案内ができる「人材」も育てたいと市の担当者は言う。

仙北市は、協議会の立ち上げに先立ち、2017年6月に外国医師の臨床修練制度の活用に向けた事前実証を実施し、台湾大学医院金山分院医療部部長を招いて、外国人観光客5名に対して湯治及び入浴相談を実施した。

 

世界のタトゥー人口増加中に温泉はどう対応?

ところで、温泉地の新しい取り組みとして、課題なのが外国人客のタトゥー問題だ。国内の温泉地ではまだまだ全面解禁とまではいっていない。2012年のアメリカの調査会社の調べによると、タトゥーのある米国成人の割合は21%に達したという。その後、さらに増加傾向となれば、日本においても当然このあたりの対応が迫られる。

時折メディアでも話題になるタトゥー問題は、宿としてはチャンスだと「実践!インバウンド」の小野氏は言う。例えば、露天風呂付きの部屋に案内すると客単価が上がるし、または大浴場しかなければ、タトゥーのある人の入浴可能時間を分ける対応をすれば、外国人客の間で満足度が高くなり、口コミで人気が高まる可能性もある。そのあたりを事前に情報発信しておけば、こうした客層変化をチャンスにすることができる。小野氏は、日本全国がタトゥー解禁になってから対応したのでは遅いと、やはりここでも先行者利益を訴える。

大分県別府市では、2017年から市内の施設のタトゥー客の受入れ状況を示す英語・中国語対応の地図を配り始めた。その地図によると、16施設のうち11施設はタトゥー客の受入れを宣言している。

 

外国人に人気の宝川温泉では、柔軟に対応

一方、群馬県の外国人に人気の秘湯温泉である宝川温泉では、公式的にはタトゥー禁止を掲げているが、実際には受け入れをしていると広報担当者。電話の問い合わせにもタトゥーでの入浴可能と伝えているそうだ。もっとも中には全身タトゥーの方もいて、その場合は、夜遅い時間の入浴を案内するようにしているそうだ。

宝川温泉は、2016年には宿泊の4人に1人が外国人だったが、その後、翌2017年には3人に1人になり、今年はさらにシェアを伸ばし40%に迫る勢いだそうだ。

やはりここまで増えると、タトゥーを理由に断れないが、一方で日本人客も半数以上はいるので、対外的にはタトゥーは禁止だが、実際の問い合わせには、OKを出すという折衷案に落ち着いたそうだ。

ちなみに宝川温泉の外国人客増加のきっかけは、2013年2月にロイター通信が発表した世界の温泉10選の一つになってからで、選ばれた理由としては、自然を活かしたたたずまい、宿屋の雰囲気がエキゾチック、四季の美しさがある。さらに外国人に喜ばれる理由の一つに、「混浴」があり、家族で温泉を楽しめるのがポイントが高い。もっともここでは、タオルを巻いたままの入浴や湯あみ着をすすめている。つまり完全な裸ではないので恥ずかしさがなく、欧米人は、露天風呂に入って、半身浴で家族と長時間のんびり語り合うそうだ。

つまり、自然を背景にして、混浴の和やかな雰囲気にタトゥーでもめるのは野暮ということのようだ。

最後に、多様化する外国人の温泉ニーズに対して、訴求ポイントを絞り、確実に取り込むのが今後の流れになるだろう。成果が出るまでには、じっくり時間をかけることが大切だ。今回はほんの一握りの温泉の紹介となったが、すでに全国の温泉で様々な形でインバウンド対応が始まっている。今後は、各地の温泉の個性が問われることになるだろう。

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