インバウンド特集レポート

2019.03.20

インバウンドとアウトバウンドの相互送客に向け、新しい旅行先「極東ロシア」とのツーウェイツーリズムの可能性を探る

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前回は、日本人の海外旅行について、出国率が低いことによるインバウンドへの問題点を4つ挙げて説明した。その中で、航空路線の維持には、アウトバウンドを伸ばす必要があると述べた。今回は、インバウンド拡大にとって、今後の大きな課題になっている「ツーウェイツーリズム」の日本人の旅先について考えてみよう。

 

アウトバウンドを伸ばすには新しい旅行先が必要

そもそも海外旅行に行くか行かないか、ということは、人に無理強いするような話ではない。では、どうすればアウトバウンドを盛り上げることができるのだろうか。それは単純な話、多くの日本人が行きたくなるような魅力的な旅行先を見つけることだろう。しかも、できるだけ近くにあると行きやすいし、まだ多くの人に知られていない穴場であればなお良い。

日本人の海外旅行の歴史は長く、世界中もう大半の場所に行き尽くしているといわれるが、そんな未開拓の旅行先があるのだろうか。

それは、極東ロシアである。

すでに新しい動きが起きている。この1年で日本海に面したロシア沿海地方の州都ウラジオストクを観光で訪れる日本人渡航者が増えている。

2018年にロシア沿海地方を訪れた日本人は前年比15%増の2万人強。1991年のソ連崩壊以降、年間5000人程度で推移してきた渡航者数が2万人超えしたのは初めてだ。

背景には、2017年8月から沿海地方で始まった電子簡易ビザの発給がある。それまでロシアを訪れる日本人は事前に大使館でビザの取得が必要だったが、現在はインターネット上での申請のみで、ウラジオストク空港の入国時に8日間限定のビザが発給されるようになった。

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▲極東ロシア案内する旅行書も売れ行き好調(『Plat ウラジオストク』『地球の歩き方 極東ロシア』(ダイヤモンド・ビッグ社刊))

2018年にロシアで開催されたワールドカップサッカー大会期間中、200万人もの外国人観光客の呼び込みに成功したことから、ロシアは国を積極的に開く方向にインバウンド政策を転換しつつある。かつてのロシアのイメージはもう忘れた方がいい。何よりも、成田からのフライト2時間半という近さが魅力だ。これはソウルより近い。

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▲ウラジオストクへのフライト時間は成田から2時間20分、関空から2時間10分

 

ウラジオストクはバレエとグルメの町

では、ウラジオストクとはどのようなところなのか。シベリア横断鉄道の始発駅であることはご存知だろう。だが、その実像はほとんど知られていないかもしれない。以下の5つの魅力を挙げておこう。

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▲ウラジオストク港の美しい夕景(撮影/佐藤憲一)

まず1つは、ウラジオストクは、中国より東側に位置するにもかかわらず、西洋の街並みが広がるフォトジェニックな港町であること。

2つ目として、少し意外かもしれないが、ロシア人だけでなく、中央アジアや近隣の東アジアの人々も暮らす多民族によるミックスカルチャーの町であることだ。

それだけに、3つ目として本場のロシア料理だけでなく、さまざまなエキゾチックな味覚が楽しめるグルメの町であること。たとえば、ウラジオストクには、ユーラシア大陸の西の果てにあるジョージアなど、日本では味わえないコーカサス料理のレストランが驚くほど多い。日本海の海鮮やタイガ(針葉樹林)でとれるキノコや山菜、ハチミツなどを素材としたご当地料理もある。彼らはそれを「パシフィック・ロシア・フード」と呼び、秋になると、毎年タラバガニや毛ガニのグルメフェスタを開催している。

▲日本海やオホーツク海でとれた海鮮をふんだんに使ったグルメが楽しめる(撮影/佐藤憲一)

4つ目の魅力として、ウラジオストクには世界的なバレエの殿堂、サンクトペテルブルクにあるマリインスキー劇場の支部となるモダンなシアターがあり、1年を通じてバレエやオペラが楽しめることだ。しかも、その劇団には日本人バレリーナが多く所属しており、彼女らの公演を観ることもできる。

▲マリインスキー劇場の「くるみ割り人形」の公演(撮影/佐藤憲一)

5つ目の魅力は、1年を通してさまざまなイベントが開催されていること。ロシアは寒い国というイメージが強いが、夏は海水浴場となる市内のビーチでミュージックフェスやコスプレイベント、マラソン大会などを開催している。一方冬は氷結した海の上を走る氷上アイスラン、国際ジャズフェスティバル、12月中旬から1カ月近く続くクリスマスウィークなどがある。直近では、4月にウラジオストク・ファッション・ウィークが開催される予定だ。

まさに「日本にいちばん近い西洋都市」である。その魅力をひとことでまとめると、ウラジオストクはバレエとグルメの町なのである。

 

ロシアからのインバウンドにも注目

極東ロシアに注目すべき理由がもうひとつある。2018年にロシアから日本を訪れた観光客数は、前年比22.7%増の9万4800人(日本政府観光局)で、欧米諸国の中で伸び率がいちばん高かった。

現状、日本を訪れる欧米客(米国、豪州を含む)は全体の10分の1(12%)を占めるにすぎず、欧州では最多の英国ですら、2018年の1年間で33万4000人ほど。近隣アジアからの訪日客に比べれば圧倒的に少数だが、極東ロシアは日本に近いことから期待が持てる。

これまで日本人にとって、ロシアは「近くて遠い国」だった。だが、極東ロシアの人たちはとても親日的なことで知られている。背景には、1990年代のソ連崩壊後、彼らは経済的苦境に陥ったが、極東ロシアの人たちは地理的近さから、日本との中古車販売などの民間貿易を通して日々の生活をしのいできた経緯があり、日本の豊かさや安定した社会を知り、日本人に対して好意的な見方を持つ人が多い。条件が整えば、多くのロシア人が日本を訪れてくれるはずだ。

(次回へ続く)

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