インバウンド特集レポート

2019.07.10

外国人にも高評価な福島の被災地ツアー 人が行くから安心感が生まれる 

印刷用ページを表示する


前回まで、戦争や災害の跡地を巡る旅についてお伝えしてきた。悲惨な戦争や自然災害を教訓とし、いかに後世に伝えていくかを我々は考えていかねばならない。最後に、福島の原発の被災地の現実を知るツアーについてご紹介する。ツアーが今後目指していくものは何なのだろうか。

Part1:原爆の悲惨さと平和への想いを世界に伝える、HIROSHIMAで生まれたピースツーリズム

Part2:戦争や災害の跡地を巡る旅、ダークツーリズムを通していかに平和を訴えるか

 

福島に貢献したい想いで生まれた原発被災地ツアー

福島第一原子力発電所20㎞圏内の今を知るためのツアーが外国人向けに催行されている。2015年から構想がはじまったこのツアーは、これまでに多くの外国人観光客を案内している。主催するのは、株式会社ノットワールド(KNOT WORLD)という新しい旅行会社だ。外国人向けに着地型ツアーを提案し、急成長している。

震災当初もそうだが、現在も外国人観光客にとって福島への不安感は強いとノットワールド代表の佐々木氏は言う。同氏の父親が宮城県の出身で、奥さまが福島県の出身ということもあり、本人としても何か役立つことをしたいと考えていたそうだ。

同社では、国や行政向けの東北復興支援のサポートもしていて、佐々木氏は現地のインバウンドの施策を見て、違和感を感じていたという。現地ではインバウンドを盛り上げようと大変努力をされているものの、「AIZU」や「SAMURAI」などの名前でアプローチをしていたからだ。

佐々木氏は、「風評被害を払拭していくためには、しっかりとFUKUSHIMAを見せ、伝えることが大事だと考えました」という。原発被害の現実に目を背けずに、その現場と向き合い、外国人観光客にも現状を知ってもらいたいと。「原子力発電所のある(東側沿岸部沿いの)浜通りが問題ないのであれば、中通り(福島県中部)、会津への不安は当然払しょくされるだろうと考えていました」

「また、観光によって人が来ることで、地元にお金が落ち、地域経済が循環します。ニワトリが先かタマゴが先かの論争になりますが、例えば、現地に人が戻っていないのも現実で、そのため商店が成立しづらい。逆に商店がないから不便なのでかつての住民は戻りにくいといことも。ならば、まずは、観光でお金がまわりだせば、商店ができ、戻りやすい環境が整うでしょう」

3-1a

3-1b

ゆるい構想はありながらも行動に移せていなかったところ、東北大学の学生だった岡本氏から2017年に観光で福島に貢献したいと声をかけてきたそうだ。そして一緒に構想を具体化し、2018年2月に1回目のツアーが実施された。

ブラッシュアップをしながら、2018年8月にモニターツアーを実施し、2019年2月までに約170人の外国人を経産省の事業で招待した。またガイド向け研修ツアーも3回実施した。通常ツアーにおいてガイドは肝だが、特に、ツアーの内容が内容なだけに、高いガイドスキルに加えて、福島に対するつながりや想いを持っている人に集まってもらいツアーを一緒に創り上げていくことが目的だった。

 

ツアーポイントは、被災地の現状を自分自身の目でみること

さて、ツアー内容は、東京を朝8時に出発して、夜の8時ぐらいに戻ってくる日帰りツアーとなり、マイクロバスまたはバンに乗って、常磐道と国道6号線を通り、浪江、双葉、大熊、富岡をめぐる。地元の語り部さんに会い、実際に当時の話を聞くという内容だ。

ツアーのポイントは、地震、津波、原発に関連した場所を実際に訪ね、住民がまだあまり戻っていない商店街を見学し、原発の影響をどのように受けたのか、語り部に生の声を聞く。例えば、津波の前と後の違い、そのとき、いかにして津波から逃げたかのストーリーなど、大きなパネル資料を見てもらいながら解説をする。ちなみに資料は、写真を集めてつくったものだ。災害前には建っていた家や商店が取り壊されて完全な更地になり風化しつつある。だから資料が役立つ。当時とのあまりの違いに参加者は全員、驚くそうだ。

3-2

また、災害が風化してしまうことが懸念だという。空き家だった家が壊されていく。もちろん辛い思いで忘れたい気持ちやその他の事情も理解できる。それでも教訓として後世に残されなければならないため、資料づくりは大切だ。

 

ガイドの高いスキルが要求されるツアーだ

もともとは、現地発着ツアーにしたいと考えたが、現地ガイドの人材が不足し、交通のアクセスの不便さなどを考えると、結局、東京発着とした。参加費は、ひとり2万3000円の混載ツアーだ。最小催行人員は4名で、最大14-15人までで案内している。あえて大型バスで訪れないのは、被災地に入り、しっかりゲストに話を伝えることを考えると、ガイドが目配せできる人数で、このぐらいがちょうど良いそうだ。

また、ツアーを充実したものにして、被災地の現状を理解してもらい、風評被害を払拭していくためにいくつかの工夫をしているそうだ。

まず、東京の出発時に放射線測定器で放射線量を測定して、福島県の沿岸部でも測定する。すると、ほとんど東京と変わらないことがわかるそうだ。数字が表す説得力があり、安心が生まれる。

3-3 

また、バスの中でチームビルディングをする。参加者が初対面の人ばかりなので、一緒に学ぶ仲間になってもらいたいからだ。そして帰りは、参加者同士で感じたことを共有してもらい、学びを深めてもらっている。

 

一人でも安心を体験して、持ち帰って欲しい

まだ住めないエリアが一部あるのも事実だが、その近隣で除染が終わっているエリアは問題ないことがわかる。しかし、語り部の話を聴くことで、戻ってきているのは高齢者が多く、生活がすっかり変わっているという、その現実を知ることになる。

3-4

知的好奇心が高く、また偏った考え方をせず、思考がフラットに考えられる参加者が多い。ツアーの感想として、また数年後に訪れたいという人もいたそうだ。

人が行くから安心感が生まれる。そう佐々木氏は言う。

ここ最近では、1か月に各20名ほどで、4月には40名ほど参加があった。トリップアドバイザーでの評価も高く、モニターツアーの参加者が良いレビューを書いてくれたことも好影響だ。あるフランス人は、ブログにそのときの様子を書いてくれるなどして、口コミで広がっていった。同社はもともとトリップアドバイザーでの評価が高く、それにより、このツアーも知られるようになった。

今後は、現地のガイドを育成したいと佐々木氏。1泊2日で現地に泊まり、例えば現地の人の家に民泊するなど、もっと深みを持たせ、バリエーションを増やしたいと抱負を語る。

広島はダークツーリズムを進化させ、ピースツーリズムにいたったように、東日本大震災の爪痕を教訓にいかし、いかにホープツーリズムに昇華できるのか期待したい。そして根強い風評被害の払拭にも一役買ってもらいたい。

最新のインバウンド特集レポート