インバウンド特集レポート

2019.10.03

中国の子供たちによる訪日教育旅行、その充実ぶりから見えてくるもの(前編)

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今年の夏休みも海外から多くの子供たちが日本を訪れた。国内各地でベビーカーを押す子連れの海外ファミリー客の姿も見られただろう。こうしたなか、近年急増しているのが、中国からの訪日教育旅行と呼ばれる子供たちの学びの旅である。その最新事情を紹介する。(執筆:中村正人)

8月上旬、中国広東省の小学生から高校生までの約40名の子どもたちが、教育旅行を目的としたツアーで関西地方を訪れた。ツアーに参加したのは、心和青少年商学院という塾の生徒たちだ。

経営者の子弟が多く学ぶ同学院では、毎年夏休みや春節(旧正月)などの長期休暇を利用した海外研修旅行を実施している。


▲関西を訪れた心和青少年商学院で学ぶ子供たち

小中学生と高校生の二班に分かれた子供たちが7泊8日の日程で体験したのは、お菓子工場見学や寿司づくり、茶道教室、防災センターとリサイクル施設の訪問、そして農家民泊など充実した内容だった。親子旅行の定番訪問先のUSJのようなアミューズメント系のテーマパークは日程に入っていない。


▲うめもり寿司学校(京都)で寿司の調理体験を楽しむ中国の子供たち

 

真剣そのものの学びの旅

このツアーを企画したのは、中国からのインセンティブツアーや学校間交流などを手がけている誠信インターナショナル。ツアーに同行した代表取締役の遠藤祐司さんによると「子供たちは、1日の忙しいスケジュールをこなした毎晩夕食後に教員たちの指導でその日の見聞や体験をおさらいし、感想文を書くなど、夜遅くまで研修授業を行っている。取り組む姿も真剣そのもので、翌日の日程に影響が出ないか、こちらが心配するくらい」と話す。

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▲中国の子供たちは旅行中も学ぶ姿勢があり、感心する


▲子供たちは毎日自分の体験したことを感想文にまとめている

見かけはあどけない子供たちだが、「日本人は正直で、サービス精神は素晴らしい。ぼくたちは日本から多くのことを学ぶべき」などと、大人びたことを感想文に書く子もいる。「日本から何を学べるか」をひとりひとりが考えることが教育旅行の目的なのである。 

多くの子連れ旅行者が日本を訪れるのは、中国で夏休みが始まる7月1日からだ。訪日中国人客数は2019年は7月、8月ともに単月で100万人を超え、過去最高を更新している(7月105万500人:前年同月比19.5%増。8月100万600人:同16.3%増)。

2000年に始まった中国人の日本旅行は、2010年までは団体ツアーが一般的だったが、以後、個人客にシフトした。旺盛な買い物ぶりばかりが注目されたが、2016年の「爆買い」の終焉を経て、いまでは全国各地を個人で訪れる旅行者が主流となっている。訪問の目的や楽しみ方も多様化し、日々新しいトレンドが生まれている。小さな子供を連れて日本を旅する親子旅行も増えているが、心和青少年商学院のような学びに特化したユニークな教育旅行は、その最新系といっていいだろう。

 

従来の訪日教育旅行との違い

これまで海外の子供たちの訪日教育旅行といえば、日本の学校訪問での交流を目的としたツアーを指すことが多かった。観光庁と文部科学省がまとめた「訪日教育旅行受入促進検討会報告書」(平成27(2015)年10月)によると、「海外における教育旅行は、それぞれの国・地域によって特徴が異なり、日本で現在受け入れている教育旅行は、日本の修学旅行と比べ、一般に学校訪問を含むことが多く、全員参加が前提の学校行事ではなく希望者だけが参加する、という違いがあることから、修学旅行と区別して教育旅行と呼んでいる」という。

報告書では訪日教育旅行の意義として「外国の若者に日本の魅力を知ってもらい、また訪れたいと思ってもらうことにあり、とりわけ、受入地域におけるリピーターの獲得に資する」「海外の児童生徒が日本の学校を訪問する場合には、日本の児童生徒が海外に行かずとも異文化を直接体験し、国際理解を深める」など、訪問側と受入側双方のメリットを挙げている。

文部科学省が隔年で実施する調査に基づく報告書「高等学校等における国際交流等の状況について」(令和元(2019)年8月27日)によると、平成29(2017)年の学校訪問を伴う外国からの教育旅行の受入数は3万9531人(6730人増)で、2005年以降の統計で最多、概ね増加傾向となっている。

出身国・地域は多い順に、台湾(401校・1万3392人)、韓国(237校・5774人)、中国(166校・4127人)、アメリカ(265校・3844人)、オーストラリア(215校・3647人)だが、それ以下としてマレーシア、タイ、ニュージーランド、インドネシア、シンガポールなど、アジア太平洋地域の国々が大半である。

これらの学校訪問では、授業参観や給食などの日本の学校生活体験、両国の子供たちが一緒に書道や剣道など日本文化を体験するグループ作業、日本側から吹奏楽の演奏などクラブ活動の成果の発表が行われることが多いという。

だが、学校教育ではクラブ活動の経験がほとんどない中国の子供たちは、自分たちが披露するものがなく、困惑する面もあったようだ。これは中国に限った話ではなく、国や地域によって教育旅行の実施形態や時期が異なり、日本の受入学校側に求められるニーズや要望が違うなど、課題も多い。

 

国や地域によって異なる教育旅行のニーズ

たとえば、受入数最多の台湾では、訪問校について専攻や学力などの共通する学校との交流を求める傾向にあるが、中国ではむしろエリート校との交流が求められがちだ。一方、アメリカでは、日本語学習の一貫として日本人と交流するという明確な目的があるという。日本の学校側が、これら各国のニーズに合わせて対応するのはたやすいことではない。たとえ海外から日本を訪れやすいのが夏休みの時期だといわれても、日本の子供たちをそのためだけに登校させるのは難しい話だろう。

その結果、前述の報告書では、交流先の学校探しに難航し、現状では、海外からのニーズはあっても、受入に積極的に取り組む自治体はきわめて限定的とされている。

こうしたことから、必ずしも学校訪問にこだわらない、心和青少年商学院のような新しい訪日教育旅行が生まれているのである。誠信インターナショナルの遠藤祐司さんも「中国の訪日教育旅行は、学校交流が主流だった時代から、今回のようなエリート育成を意識するなど、明確な目的を持った学びの旅に変わってきている」と語る。

 

次回は、同学院のツアーの中身を紹介しながら、なぜこのような旅行が急増しているのか、彼らの日本に対する評価など、その背景を探っていきたい。

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