インバウンド特集レポート

ゲーム・eスポーツが観光、インバウンドに与えるインパクト(前編)~地域活性化の起爆剤に

2020.01.28

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ゲームは、世界中で人気のソフトコンテンツだ。ゲームには国境がなく、オンラインゲームで世界中のプレイヤーとつながることは、もはや珍しくない。さらに、ゲームを取り巻く環境も変化しつつあり、観光と組み合わせた取り組み、さらにeスポーツを軸にした新しい展開からも目が離せない。世界中に広がるゲームファンを、いかにして訪日旅行に取り込めるのか。インバウンドにはどのような可能性があるのか、最近の動きを探った。(執筆:此松タケヒコ)

 

中国で爆発的ヒットした日本を旅するアプリ

2017~2018年にかけて、中国で日本の旅をテーマにしたゲーム「旅かえる」が大人気となった。App Storeのダウンロード数が1000万回を超えたが、そのうち中国が95%を占めるほど、中国では断トツの人気だった。

人民日報日本版によると、ホワイトカラーの周さんは、「旅かえる」にハマった理由を「煩わしさも手間も時間もかからない」と説明し、「このゲームはハードルがとても低い。毎日、何回かチェックするだけでよく、さらには、日本旅行したような気分になれる」と言う。

ゲームの主役は旅好きなカエル、プレイヤーは庭に咲くクローバーを集め、そのクローバーを使ってショップで弁当や道具を買いそろえ、旅の支度をしてあげるだけで、勝手に旅に出ていく。旅に出たカエルは途中で、写真を送ってくれ、家には旅行先の土産も持ち帰ってくれる。ただ、ユーザーがカエルの行動をコントロールすることはできず、いつ旅に出かけるのか、いつ帰って来るのか、どこへ行くのか、何をするのかなどは全てカエル次第というもの。

その気ままさが、中国人の若年層の癒しにつながったのかもしれない。もっとも、そのゲームが具体的に訪日旅行者数にどの程度影響を与えたかは不明だが、関心が高かったのは事実だ。

 

スマートフォンのゲームで旅に誘う?

一方、ゲームを通じて、リアルの旅に誘いだそうとする取り組みもある。それも訪日外国人観光客を取り込もうという動きだ。全世界10億回超のダウンロード数を誇り、世界的なヒットを果たした「ポケモンGO」というスマートフォンゲームを活用した取り組みで、外国人をターゲットにインバウンド効果も見込んでいる。最近利用数が落ち込む静岡県静岡市と伊豆市を結ぶ「駿河湾フェリー」の改善を狙って、この企画が始まった。

「ポケモンGO」で位置情報を利用し、静岡県が用意したマップを見ながら伊豆半島と周辺の7市6町の推奨ルートを巡るというもの。そのなかで「ポケストップ」という拠点を訪問する。

県などの自治体が情報を提供する予定で、ポケモンGo社との包括的な連携は世界でも初めてだという。観光客が落ち込む冬場にはイベントを開催することも企画している。現在はポケモンGoを提供するナイアンティック社と静岡県で詳細を詰めているところだが、県によるとは今春にもスタートさせたいということだ。

このように、ゲームをするために旅をするというスタイルは広がりつつあり、他にも、PCやスマホを使って遊べる「艦隊これくしょん(艦これ)」は擬人化された艦隊をコレクションしていくゲームだが、そのコレクション集めに旅に出るユーザーも珍しくない。

インドアなゲームファンの人たちに、いかにして旅に出てもらうかというのが、旅行業界の課題であり、その一つの答えが、スマホを利用したゲームなのだろう。

 

体験型VRゲームが神田に登場!

一方、ゲーム好きな外国人観光客に喜んでもらえる施設が、昨年の春に東京都の神田にオープンした。ゲームとVRを絡めた「VR忍者道場」だ。外国人観光客の満足度が高く、トリップアドバイザーの評価も上々だ。ゲームとインバウンドをつなげる「VR忍者道場」を運営する株式会社 Five forの谷川高義代表にオープンの経緯や運営について伺った。

もともとは映像制作を主体として事業を展開していたが、VRの研究開発もしていて、その部門を切りだして別会社を立ち上げたのが、2017年3月のことだった。そこでの研究は、仮想空間を第三者へどう見せるかがカギだったという。つまり、ヘッドセットをつけて実際に映像を見ているプレイヤーは楽しめるが、その他の人は、そこで何が起きているのか全くわからず、奇妙な動作をするプレイヤーを見ているしかないという課題があった。その解決策として、同社はヘッドセットをつけていない人も、その対戦をリアルタイムで大型スクリーンで見られる技術を開発し、客観的な映像を流している。

「2017年、いくつもの企業にその技術を新しいゲームとして導入する企画を提案しましたが、面白さや新しさが伝わらず、取り入れるところがなかったのです。そこで、自社で運営するために会社の近くにあるビルを借り、実験店として、VR忍者道場がオープンしました。」と谷川氏。

その場所がショールームにもなるし、マーケティングにもなる。

 

忍者修行は満足度が高いゲームコンテンツだ!

ところで、なぜ外国人観光客向けの忍者VRゲームを作ったのだろうか。

店舗を持つ前、テストマーケティングのために、街角でデモをやっていたところ、声をかけると皆尻込みしてしまった。そのなかで、ノリが良かったのが子供と外国人だった。一般的に、VRゲームをする姿を他人に見られたくないという心理があるようだ。そこでターゲットを外国人にすれば、可能性が高いと感じたと谷川氏。

「一方、VRの弱点として、反復性が低いことがあげられます」と続ける。

一度チャレンジすると、以後、お金を払ってまで体験する意欲が下がるという。そのために、2、3回挑戦することで上手になっていく要素、そして他人のプレーを見ているだけで学習できるものなどを検討していたところ、忍者の道場というコンセプトにつながった。もちろん忍者は、外国人にはわかりやすいテーマでもあると谷川氏は言う。そこで、外国人のイメージするベタな忍者の世界観をつくり、小さい子供から大人まで楽しんでもらえる施設を目指すことになった。

外国人観光客は高い単価が見込めるため、付加価値を上げるための施策をしている。単純にゲームを体験するだけではなく、忍者に会えて、さらに忍者の衣裳を全員が身に着け、忍者修行ができるというものだ。全員で声を合わせ、挨拶や掛け声をするなど、まさに忍者道場で修行するイメージだ。

 

PDCAを回して常にブラッシュアップ

2019年の春に開業以降、基本的なストーリーは変わっていないが、常に改善をしている。課題を抽出してそれを解決していくスタンスだ。

現在、1時間のプログラムになっている。オープン当初は、1時間半だったが、ゲストのニーズから、1時間半は長いということがわかった。次の予定がある人や、遅刻する人も少なくない。次の時間を案内するのに、1時間半だと待ちきれないため、機会の損失につながる。回転数を上げることで、外国人観光客がいつでも来られるようにした。朝は9時半から、最終は18時だ。4人体制で運営していて、曜日によって来場者数がバラバラなのが、悩みだと言う。

英語での修行体験なので、基本、欧米豪からの参加者が多く、その他、シンガポールやマレーシア等などアジア圏もいて、中東からのお客様も少なくない。「先日は、リヒテンシュタイン公国からのゲストもいましたよ」と谷川氏。とにかく国籍や地域に偏りがないのが特徴で、アメリカからも、西海岸、東海岸に中西部など、まんべんなくやって来る。

プロモーション戦略については、試行錯誤しながら実験を繰り返しているという。これまでには、ADトラック、ユーチューバーの招聘、紙媒体の広告出稿、webのアドワーズ広告など、いろいろと試し、参加者にヒアリングしている。わかってきたことは、行き当たりばったりの旅行者が多く、忍者やゲームをターゲットにした目的客をつかむには至ってないということだ。

このプログラム自体は、まだプロローグに過ぎず、今後、ゲームの内容もバージョンアップする予定だという。プロトタイプもできていて、来春のリリースを目指している。よりeスポーツの要素を取り入れた、フィジカル面に連動する忍者ゲームになるそうだ。

次回に続く

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