インバウンド特集レポート

2020.01.31

新型コロナウイルスによる肺炎のケースから学ぶ、観光・インバウンド事業者がいま取るべき施策

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武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎からの被害は、中国国内だけでなく、世界中に広がっている。中国国内での肺炎による感染者や死者は着実に増加していることを受けて、中国政府による春節休暇の延長や、中国国内の行政自治区からは、学校や企業の再開を延期する通達が出るなど、感染拡大を防止する対策が次々と発表されている。

 

日本経済への影響は2兆4750億円との試算も

日本でも訪日中国人客の旅行キャンセルなどの対応に追われ、観光業界は大打撃を受けている。野村総合研究所によると、今回の新型肺炎の影響を2003年に発生したSARSの際と同じ割合訪日客が減少し、それが1年続いたと仮定すると、日本のGDP全体の0.45%に該当する2兆4750億円減少すると試算している。

連日メディアで報道される内容を耳にするたびに、社会全体に不安感が立ち込めていくのを感じるが、そのようななか、何かできることはないか。

ここでは、訪日外国人を迎え入れる宿泊や観光施設などの観光事業者や行政の方がどういった対応をすればよいのか、観光危機管理の専門家である高松正人氏に伺った。

 

感染者拡大の防止に向け中国政府は大胆な政策を実施

—新型コロナウイルスによる肺炎を受けた中国政府の対応について、どのように見ていますか。

新型コロナウイルスによる肺炎の感染者の更なる拡大を防ぐために、中国政府は武漢の交通網を封鎖しました。また中国の旅行会社に対しては、国内・海外の団体旅行やツアーの中止を通達するなど、大胆な対策を実施しています。ただ、これは中国だからこそできることで、日本や他の国ではなかなかできることではありません。

対応策に対する賛否両論はあるかと思いますが、中国国外への更なる感染者拡大を防ぐといった観点では、一定の評価ができると言えるのではないでしょうか。

 

観光に携わる私たちが、今このタイミングでできることにフォーカスする

—日本の観光事業者にとって一つのかきいれどきともいえる春節に直撃した新型コロナウイルスによる肺炎は日本経済に打撃を与えています。そんな中で自治体やDMO、観光事業者の方が今できることは何かあるのでしょうか。

1/27に、政府が国外への団体旅行やツアーも取りやめるよう、旅行会社に対して通達を出した今、訪日中国人客の減少は避けられないでしょう。すでに起こったことは変えられません。ただ、今できることがあるとしたら、中国での感染症拡大による混乱が落ち着いたときに、影響を受けた自治体や観光地、観光事業者、観光施設が、回復に向けて、どのタイミングでどのような対応をするのか、今の段階で決めておくことです。

例えば、今すぐにできることの一つに、被害があった地域への支援があります。武漢へマスクを送るプロジェクトや、武漢へ寄付する人も出ています。こういったプロジェクトへの参加も一つの方法です。また、感染症が落ち着き、中国からの観光客が戻ってきたときのために、彼らを受け入れる準備も今のうちに始めるとよいでしょう。

 

冷静に情報収集をして、回復時に向けた準備を

日本国内でも感染者が出ているものの、現段階では国内で大流行するような大事には至っていません。ただ、これから先も、状況は刻一刻と変化することが予想されるので、冷静に情報収集をしながら、観光の回復に向けた対応時期とどのように対応するかを、今のうちにシミュレーションして準備しておくことが重要です。

「現地の情報をこまめに収集」「適切なタイミングで適切な情報発信」の2つを実践することで、混乱が収束した際の早期の回復に繋がるかもしれません。

 

熊本地震の発生からわずか2週間後にとった別府の事例

—過去にこういった状況にうまく対応したケースはあるのでしょうか。

1つ、2016年に発生した熊本地震の際の事例を紹介します。震災から2週間後に、別府の旅館組合や観光協会などは、別府温泉が「元気に営業している」ことを伝えるために、4回にわたって共同で広告を出稿しました。福岡県民や大分県民をターゲットに西日本新聞や大分合同新聞などに出したこの広告は、その後ソーシャルメディアなどでも話題になり、一定の消費増に寄与したといわれています。

熊本地震のケースは、今回と状況こそ違いますが、しっかりと状況把握をしたうえで迅速な判断を行い、適切なタイミングで適切な情報発信をした事例と言えるのではないでしょうか。

 

訪日インバウンド市場のリスクの大きさを正しく把握

— 今回のような非常事態を教訓として、私たち観光に携わる事業者や行政が、長い目で見たときにリスク管理という側面から考えるべき・すべきことはあるのでしょうか。

中国の訪日マーケットは、今後も間違いなく伸びていく市場です。そのため、長期的な視点で見たときに中国を主要なターゲットと捉えて取り組むことは大切だと思います。

ただし、中国人観光客を多く迎え入れる地域や企業は、政治的な事情や中国の政策判断によって訪日旅行者数が突然減少するリスクのある市場であることを理解しておく必要があります。韓国も経済政策をきっかけとして訪日を控える人が多発し、訪日マーケットに大きな影響を与えています。

 

市場別の訪日客数や売上比率を確認し、非常時のカバー方法も検討

ただ、親日ともいわれリピーターも多い香港や台湾市場は成熟状態で、マーケットの規模を考慮しても今後の大幅な拡大は期待し難い。かといって、欧米圏のお客様をターゲットにするといってもその規模に限界もあります。中国のお客様の比率を減らして新しい市場をターゲットしようと思ってすぐに実現できるものではありません。今回の出来事をきっかけに、改めて自社の市場別の訪日客数や売上比率を確認し、その影響の大きさを理解しておくこと、また非常時にどのようにそれをカバーするのか、といったことを考えてみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

 

オリンピック開催に向けた危機管理対策も

— オリンピック・パラリンピックの開催まであと半年となりましたが、そこに向けて考えるべき「リスク管理」について教えてください。

オリンピック開催期は、観光客だけでなく選手や関係者など多くの外国人が東京を訪れます。最近の気候変動を考えても、7月末~8月は台風接近や上陸のリスクもあります。また、日本は地震大国といわれるように、いつどこで何が起こるかは誰にもわかりません。

もちろん、何も起こらず無事に終わることに越したことはなく、大きな問題もなく無事に終わることを願っています。ただ、万一、開催期間中に災害や危機があった際、混乱状態の中で的確な対応策をただちに決めて行動に移すことは難しいです。だからこそ、何かあった時に備えて危機管理対策を行った上で、安心してオリンピック・パラリンピックを迎えるようにしたいと思います。

<お話を伺った専門家>
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JTB総合研究所 観光危機管理研究室長 高松正人氏

1982年にJTBに入社。2001年にツーリズム・マーケティング研究所(現JTB総合研究所)設立以来、観光専門家として国内外で幅広く活躍。現在は、日本における観光危機管理の専門家として、沖縄県をはじめ国内外の観光危機管理や観光復興関係の業務、観光地の災害対応マニュアルづくり等に数多く関わる。
著書『観光危機管理ハンドブック(朝倉書店)

 

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