インバウンド特集レポート

【復興ツーリズム】東北インバウンド観光のカギを握る仙台国際空港株式会社が目指す次の10年

2021.03.19

遠藤 由次郎

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「東北地方が選ばれる観光地になることが非常に大事。そのために何をしなくてはいけないかを考え、行動に移していく。そんな10年にしたいと考えています」

そう語るのは、仙台国際空港株式会社で取締役航空営業部長を務める岡﨑克彦氏だ。


▲震災10年メモリアルプロジェクトの一環で行った空港職員による見送りの様子(仙台国際空港株式会社提供)

 

たとえばMaaSの議論であれば、地域のステークホルダーへメリットを提供することも重要ではあるが、それと同時に来訪者を含めた利用者の利便性を高める必要がある。

「私たちが運営する仙台空港は“マルチモーダルハブ”になることを掲げています。航空ネットワークだけでなく、あらゆる交通ネットワークを集結させ、連携していく。仙台空港が所在する宮城県だけでなく、東北6県や新潟県、さらには北海道や北関東地方へのアクセスの向上にも貢献したいと考えています」

もちろん足もとでは、2020年から続くコロナ禍で、いまなお、航空需要は厳しい状況にある。国際線は再開の目処も立っていない。それでも、「人口減少や少子化は待ったなしで進んでいく」と岡﨑氏も指摘するように、東北地方にとって交流人口の拡大は喫緊の課題であり、歩みを止めるわけにはいかない。

 

国管理空港として日本で初めて民営化された仙台空港

では、空港を運営する仙台国際空港株式会社は具体的にどんな未来像を描いているのか。どんな手立てを考え、実際に何を行っているのか。そもそも仙台空港を語るうえで欠かせないのは、2016年の民営化である。

「仙台空港は国管理空港として日本で初めて民営化され、2016年より当社が運営してきました。元々は2011年3月11日に起きた東日本大震災からの復興の加速と空港機能を充実させるために、村井嘉浩宮城県知事が民営化の方針を打ち出しました。そこから5年をかけて仙台空港の民営化が実現したわけです」

▲2016年に行われた民営化式典の様子、宮城県知事の村井嘉浩氏も出席した(仙台国際空港株式会社提供)

民営化から現在に至るまでのなかで、岡﨑氏が強調するのは、2019年のタイ国際航空による再就航の影響だ。もともと2013年12月に就航した仙台=バンコクの定期便は、タイ国内の政治情勢悪化などの影響から4カ月で運休となっていた。

「民営化後、再度、交渉することで、2019年10月末から週3便が再開しました。残念ながら新型コロナウイルス感染症拡大の影響から2020年3月で再度の運休になってしまいましたが、その間の約4カ月でさまざまな可能性を感じ、雰囲気が変わっていくのを目の当たりにしました」

“雰囲気が変わっていく”というのはどういうことか。同社では、民営化に当たって、冒頭の岡﨑氏の言葉にもあったマルチモーダルハブの概念も含まれる「プライマリー・グローバル・ゲートウェイ」というビジョンを掲げている。

かいつまんでいえば、“東北地方を発着する人たちに一番に選ばれる空港であり、東北地方で最も重要な航空貨物の拠点となる”という目標だ。そうしたビジョンを掲げているものの、エリアとして非常に広大な東北地方は、各県の意識が強く、一枚岩になるのは容易ではない。

「復興という旗を揚げていても、“結局は宮城県や仙台市ばかりが恩恵を受けるだけではないか?”という疑問の声があります。実際、東北地方には各県に空港がありますし、青森県、秋田県、山形県にはそれぞれ2つの空港が存在します。仙台空港が東北地方の「プライマリー・グローバル・ゲートウェイ」を謳っても、難しい面がありました」

 

2019年10月からの4カ月間に訪れたタイの旅行者が変えた空気感

2019年10月以前に仙台空港に就航していた国際線は、韓国のアシアナ航空や台湾のエバー航空とタイガーエア台湾、中国の中国国際航空、日本のピーチ・アビエーションであった。もちろん、台湾や韓国、中国もインバウンドの出発地としては魅力的なマーケットではあるものの、航続時間が4時間圏内という近距離の国や地域であることから滞在日数はそこまで長くない。結果的に東北地方全体を旅行する人は多くなく、南東北地方(宮城県、山形県、福島県)を中心とした旅行にとどまってしまう。しかし、航続時間が7時間になるタイからのインバウンド客は違った。

「バンコクからくる旅行者の滞在期間は短くても5泊。長いと1週間以上になります。彼らの多くは仙台空港から観光バスやレンタカー、あるいは仙台駅から新幹線を利用して東北各県をまわる個人やグループ旅行者で、青森県や秋田県、岩手県などにも足を運んでいました。行く先々で地域の方たちと交流するなかで“仙台空港からきた”と話してくれました」

その結果、東北地方全体でインバウンドを受け入れることの意味が伝わっていくのを感じたのだという。

▲2019年10月30日に再開したタイ国際航空「仙台-バンコク線」の到着便旅客をお出迎え(仙台国際空港株式会社提供)

「私たちが言葉で“プライマリー・グローバル・ゲートウェイ”の意義を伝えても真意はうまく伝わりません。しかし、実際に観光客が訪れ、経済的な恩恵をもたらしてくれることで、一気に雰囲気が変わっていったと思います」

実際、仙台空港には、ダンボールを抱えて帰国するタイ人の姿も現れ始めていたという。聞くと、「青森でりんごを箱買いしてきた」ということだった。残念ながら、コロナ禍によって同便は運休が決まった。しかし岡﨑氏は、「このとき、私たちがやるべきことがはっきりと見えた」と語る。

 

インバウンド誘客への手立ては新規路線の就航“以外”にもある

タイ国際航空の就航等によって、中長期的な目線では、やるべきことがよりはっきりと見えてきていたものの、新型コロナウイルス感染症拡大による猛威は、2020年3月9日から今に至るまで仙台空港のすべての国際線を運休状態に陥らせている。

そのなかで同社は、国際的な見立てを勘案し、当面は国際線の旅客数についてコロナ禍が発生する前である2019年の水準まで戻すことを目標とする。

加えて、これからの10年間を考えたときには、東北地方全体にインバウンドの経済効果が広まるように、2019年の水準以上に、インバウンドの誘客を狙っていくことも重要だ。とはいえ、単純に新規路線を増やせばいいとは考えていない。

▲仁川国際空港公社との覚書を締結したときの式典。写真右は当時社長を務めていた岩井氏(仙台国際空港株式会社提供)

「たとえば、アシアナ航空が就航している仁川国際空港をハブにして、世界につながることもできます。仁川国際空港は世界中の主要都市と結ばれています。同空港を運営する仁川国際空港公社とは、仙台―ソウル間での航空利用の促進や空港運営会社相互の連携を強めていくという覚書を締結し、相互にプロモーションを展開したり、研修のために社員を派遣したりしました」

そのほか、栃木県にある航空機部品のメーカーは仙台空港からタイ国際航空のバンコク線を活用、タイ・スワンナプーム国際空港経由でフランスへ完成品を輸出するといった事例も出てきていたという。

 

空港の24時間化と東北地方のアウトバウンド増加を

このほかにも岡﨑氏が注力したいと考えていることが4つある。すでに地元自治体での合意を得た、空港の24時間化の活用。旅客の双方向性を高めること。リードタイム短縮に貢献する国際航空物流の構築、例えば東北地方の「食」をその魅力とともに海外のユーザーに届けるといったこと。そして、観光地としての高いサステナビリティを実行することだ。

「24時間化とはいっても、空港周辺地域の皆様の騒音への懸念を考慮し、23時から5時までの航空機の発着には制限を設けます。また、地域発展のために、宮城県が様々な支援を行います。航空営業において、24時間化による大きなアドバンテージは、これまで航空機が発着することができなかった5時から7時半と21時半から23時といった朝晩の時間帯のエアライン誘致が可能になることです」

誘致の可能性が開けたことにより、旅客の双方向性を高めることにも取り組む。具体的には、インバウンドだけでなく、東北地方に住む人々を中心にアウトバウンドも伸ばすことにも挑戦する。たとえば23時に国際線が飛んでいれば、ビジネス客や週末を活用して旅行したいアウトバウンドの需要を喚起できる。

「実は、仙台空港で国際線利用者数が最多だったのは2000年でした。当時は仙台空港からハワイ、グアム、香港、ソウル、北京、上海、大連に航空機が飛んでいて、東北地方のみなさんが積極的に海外旅行に出かけていました」

エアライン誘致にあたっては、日本人のアウトバウンド需要が不可欠である。加えて、「東北地方の将来を担う若い人たちに、積極的に海外に出かけてほしい」という願いもある。自身の体験を振り返り、若いうちに外の世界を経験することが、結果的に東北地方の観光振興や文化の発展の糧になるのではないかと考えているからだ。

▲コロナ禍で仙台空港も閑散とした様子(仙台国際空港株式会社提供)

「Think Globally, Act Locallyという言葉があります。誰もが海外で活躍できるわけではありませんが、世界で見聞を広め、各国・地域の人たちと交流した若い人たちが、将来、東北地方に戻り、海外での経験を活かして地元で行動する。少しオーバーかもしれませんが、そういった若い人たちに東北地方から世界を変えるぐらいの気概を持ってほしい。そのきっかけ作りはできると考えています」

 

“インバウンド一人負け”と言われないために

貨物輸送、物流も充実させていきたいと考えている。というのも、インバウンド観光は来てもらうことだけが目的ではない。外部の人と地域が接点をもつことができる観光は、地域ファンの獲得、ひいては地域産品の販路拡大にも結びつく。

2021年に入ってから、宮城県産の殻付き活牡蠣のシンガポールへの輸出が同国衛生管理プログラムより承認され、輸出に向けて動き出した。

「水産物はもちろん、果物なども鮮度によって大きく味が変わるものがたくさんあります。東北地方が誇るそうした産品を仙台空港から直接海外に輸出することができれば、販路の拡大が狙えます。物流ということでいえば、先ほどの航空機部品の例にもあったように、製造業においても大きな可能性があると考えています」

▲2021年2月17日より開始した、シンガポール向け活牡蠣の輸出(仙台国際空港株式会社提供)

最後に岡﨑氏が強調するのが、サステナビリティへの対応だ。

「これからの観光を考えたときには、間違いなく旅行者側の意識に変革が起きると考えています。責任ある観光(レスポンシブル・ツーリズム)やSDGsといったことを重視する旅行者が増えるでしょう」

観光地を選ぶときに、観光資源の保全や環境への配慮といったことが旅行先を決めるときの大きな指針の1つになるということだ。

「いままでは、東北地方を訪れる海外の方々に対して、多言語表記ができているか、サービスが行き届いているかといったことに力点が置かれてきましたが、これからは責任ある観光に取り組まないといけない。それは、空港だけでなく、観光施設や宿泊施設、飲食店など、すべての事業者が意識しないと、また東北地方は“インバウンド一人負け”と揶揄される状況になりかねないと危惧しています」

いわば、冒頭の岡﨑氏の言葉にあるように、選ばれる観光地になるために、どう進化していくかということだ。もちろんそれは、空港だけでできることではない。あらゆる関係者が次の10年のために手を取り合う必要がある。そこに仙台国際空港株式会社がどのようにコミットしていくのか、大いに注目していきたい。

▲震災10年メモリアルプロジェクト等についてテレビ取材を受ける岡﨑氏(仙台国際空港株式会社提供)

(取材/執筆:遠藤由次郎)

 

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