インバウンド特集レポート

全国35箇所に展開する体験アクティビティは、なぜ高い満足度と安全管理を徹底できるのか|アウトドア特集

2021.05.14

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「社員全員が〝趣味はボルダリングと登山です〟という組織だったら、フォレストアドベンチャーは玄人が好むようなエクストリームな内容ばかりになっていったかもしれません」

そう語るのは、2006年に山梨県鳴沢村で産声をあげた自然共生型アウトドアパーク「フォレストアドベンチャー」の代表取締役を務める志村辰也氏だ。土地開発を伴うテーマパークやレジャー施設とは異なり、既存の森林を利用することで可能な限り人工物を使わないフォレストアドベンチャーは、15年の歳月とともに全国35箇所にまで拡大してきた。

そのうち同社の直営は12箇所。残りの23箇所はフランチャイズ形式を採用しているという。同社はいかにして高い満足度を担保しつつ、安全管理も徹底させているのか。

 

フラッと遊びにきてスリルと冒険心を味わえるアクティビティ

そもそもフォレストアドベンチャーとは何か。「体験型アクティビティ」や「冒険型パーク」などと言われることもあるが、同社では「自然共生型アウトドアパーク」と自称している。ジップライン(同社ではジップスライドと呼んでいる)でムササビのごとく木々を飛び渡ったり、ワイヤーロープや木板で作られた橋を渡ったり、梯子を登ったりすることで、スリルと冒険心を味わうものだ。志村氏はこう表現する。

「日常生活にはない、スリルと冒険心を森の中で味わえることが特徴です。リスクはあるけれど、利用者自身にリスクを理解してもらい、きちんと自分で安全器具を操作することで危険を回避しながら遊ぶことができるところもポイントです。アウトドア・アクティビティには、まったく経験したことがない人が遊ぶにはハードルが高いものも少なくありません。弊パークでは身長90センチのお子様でも利用できるコースも用意するなど、なるべくどんな人でもフラッと来て遊べるよう工夫を凝らしています」

▲小さい子供から玄人まで世代を問わず楽しめるのが特徴だ(提供:フォレストアドベンチャー)

基本的には「アドベンチャーコース」「ディスカバリーコース」「キャノピーコース」「キッズコース」があるが、35の施設にすべてが揃っているわけではない。利用する森林や土地の状態、そしてニーズに合わせているからだ。

「アウトドアと一口にいっても、キャンプやマウンテンバイクなど本当にいろいろなものがありますよね。そういったものの入り口のような存在になれればいいと思っています。理想的なのは、私たちの施設を通じて、自然で遊ぶことが楽しいと知ってもらうことです。そうなれば業界全体が盛り上がっていき、結果的にフォレストアドベンチャーとしての可能性も広がっていきます」

欧米に比べ、こうしたアウトドア・アクティビティはまだまだ認知度も施設数も少ないと志村氏は指摘する。逆にいえば、まだまだ広がる余地があるということ。どんな人でも利用しやすいようハードルを下げているのは、そんな狙いもある。

 

社員に「1年に一度の海外視察」の企画を任せている理由

フォレストアドベンチャーの原点は、「La foret de l’aventure」というアルタス社が運営しているアウトドアパークにある。創業者で、前・代表取締役でもある金丸一郎氏が、約20年前にフランスのアヌシー郊外で出合った。同社は、今でもさまざまな形でアルタス社と連携している。

「基本的にコースの設計はアルタス社と一緒にやっています。彼らは欧米各地で、何百という数の設計をしている経験を持っているだけでなく、設計の能力も安全に関するノウハウも、常にアップデートを心がけています」

特にシンパシーを感じているのは、「ずっと楽しいものを探し続けている」というところだという。

「最先端のものを常に追い求めている私たちとしては、そこでかかるコスト以上の付加価値が得られると考えて、開業当初よりパートナーとして手を組ませてもらっています」

では、具体的にどのように楽しいものを探しているのだろうか。

「弊社では、ヨーロッパ研修と呼んでいますが、年に1度、海外視察を実施しています。特定の社員ではなくて、なるべく過去に行ったことがない人を担当にし、自分自身で面白そうなアクティビティを見つけて、スケジューリングしてもらいます」

▲海外研修でフランスのアウトドア複合施設tepacapを訪れた(提供:フォレストアドベンチャー)

代理店や旅行商品を使わないことで、コストを抑えられるだけでなく、いいアイデアを持ち帰ってもらったり、モチベーションアップにつなげたりといった効果がある。そうした研修中には、アルタス社に寄って関係性をより深めたり、欧州各地で実施されている展示会にも行ったりするという。

「展示会ではさまざまなサプライヤーが、開発した最新グッズを披露しているので、非常に参考になります。新型コロナウイルス感染症が広がるなか、展示会は軒並み中止を強いられているのが残念ですが、一方で、この間にみなさん商品開発を進めているはずですので、次に参加できるときを楽しみにしています」

 

自然物の利活用を付加価値に変えている

日本は、国土に対する森林の割合が約68%と、OECD加盟国(先進国)のなかでフィンランドに次ぐ第2位の水準にある。そのうち人工林と呼ばれる人の手によって植林(造林)されたものは約40%だといわれている。世界と比べても高い割合を持つ日本の人工林だが、一方でさまざまな背景から林業が衰退するなかで、放棄・放置されるケースが増加してきていた。

前代表の金丸氏がフランスで「La foret de l’aventure」と出合ったとき、大いに可能性を感じたのは、「楽しい」ということだけでなく、そうした放棄された人工林を有効活用できるのではないかと考えたからだった。

そうした背景があるからこそ、フォレストアドベンチャーではサービスを展開する森林や土地への強いこだわりを持っている。

「基本的に、人工の支柱を入れれば、どんなコース設計でも作れてしまいます。でも、それは『自然と共生する』という私たちの考えとは合っていません。だからなるべく人工物を使わないようにしています」

自然物を極力利用していくことは付加価値になると考えている。たとえば水道、電気、ガス、コンクリートを極力使っていないことをホームページで謳っているのは、環境教育的な視点も持っているからだ。人工林は放置されつづけると、どんどん荒れていき、土砂災害が発生しやすくなったり、花粉症の原因となる花粉が大量に散布されたりする。

「フォレストアドベンチャーが入ることで、その森林の収益性が上がります。その収益を使うことで森林の手入れが可能になって、人工林の放置問題を食い止めることができます」

(提供:フォレストアドベンチャー)

フォレストアドベンチャーが利用している土地というのは、自治体や個人などから借りているものだというが、その面積は1ヘクタール(100メートル×100メートル)程度である。都会の感覚だと広大に思えるかもしれないが、広大な土地の一部を利用しているにすぎないのである。

「木が健康であることも大事ですね。樹木医さんとも協力している部分ですが、幹の太さや地面の強さ、木の根の張り方などもチェックしています。ありがたいことに、自治体さんなどと手を組んだりするなかで信頼を獲得し、いまでは『うちの土地を使ってほしい』というお声がけをいただくことが増えました。だけれど、人工の支柱をなるべく使わないなどの条件を絞っていくと、お客様を満足させられるコースレイアウトが作れるのは100の土地を見て、片方の指で数えるくらいなんです」

 

フランチャイズ展開でも、安全性を確保できている理由とは?

先にも書いたようにフォレストアドベンチャーでは環境教育や森林の持続可能性への貢献も大切にしている。したがって、フランチャイズ展開をしている一方で、闇雲に拡大路線を進んでいるわけではまったくない。

「そもそもフランチャイズ経営という呼び方自体が、個人としてはあまり好きではありません。大前提として、われわれが掲げている理念や価値観を共有できるところとしか手を組みません。具体的には、自然との共生だったり、大人であろうと子供であろうと『自分の身は自分で守る』ということを大原則にしたりといったことです」

それでも少しずつ速度を上げ、2021年4月のインタビュー時点で35施設まで拡大してきた。そこまで実現したのは、安全管理上のノウハウが蓄積されてきたことが大きいという。

(提供:フォレストアドベンチャー)

「直営だろうとフランチャイズの施設だろうと、人の命に関わるので、事故は未然に防がなければいけません。さらにいえば事故は、事業全体にも業界全体にも大きな影響を及ぼします。ですから、施設を作るときだけでなく、運営面でも安全管理は非常に大切なので、情報を共有し皆でノウハウを作り上げ、しっかりと守っていく。それが出来てきたからこそ、これまで一度も大きな事故は起こしていないのだと自負しています。もちろんフランチャイズでパートナーとなったみなさんの努力の賜物でもありますが」

そうした安全管理のノウハウは、先行している欧州の安全管理基準を採用している。具体的には、欧州標準化委員会という組織が設定しているものを適合させている(ISO=国際標準化機構をイメージするとわかりやすいかもしれない)。新たな施設ができるときには、必ず認定を行う第三者機関を招へいしているほどの徹底ぶりだ。

 

人材の採用時に〝アウトドア好き〟よりも大切にしていること

ちなみに2021年の3月にフォレストアドベンチャーの代表取締役に就任した志村氏であるが、アウトドアに対してそこまでの思い入れがないのだという。

「実は、そこまで私はアクティブではないんです。もともとアパレル業界にいた人間で、ちょっとした副業感覚でフォレストアドベンチャーに入社したんです。でも、実はそれが良かったと思っています。社員全員が『趣味はボルダリングと登山です』という組織だったら、フォレストアドベンチャーは玄人が好むようなエクストリームな内容ばかりになっていったかもしれません。それだと、ビジネス的には難しくなりますから」

▲話を伺ったフォレストアドベンチャー代表取締役の志村氏(提供:フォレストアドベンチャー)

さまざまなアウトドア・アクティビティの入り口になるという同社の戦略を考えたときに、顧客目線を担保するためには、〝がっつりアウトドア派〟以外の視点が欠かせないということだろう。

そうした考え方は、新たな社員を採用する際にも応用されている。

「人材の採用にあたっては、アウトドアが好きということも大切かもしれませんが、それよりも楽しく働いてくれそうな人だったり、そもそも遊ぶことが好きな人であることを大切にしています。たとえば『趣味はゲームです』という人のアイデアや感覚が、『誰でも楽しめるには?』という議論のなかでは不可欠だと思っています」

業界全体として、まだまだ認知度を上げていく段階にあるというのが、志村氏の考えの根底にある。だからこそ現状の土地や場所を使っていかに魅力を上げていくか、可能性を広げていくかという視点も大切にしている。5年後、10年後のビジョンについても、「自分たちでもわかっていない」と語るほどだ。

それでもフォレストアドベンチャーの未来に大いなる可能性を感じさせられるのは、志村氏を含めたスタッフたち自身が、「楽しんでいる」ことがひしひしと伝わってくるからだ。それはあらゆる体験アクティビティ、ひいてはインバウンドを含めた観光業において大切なことであるともいえるだろう。

(取材/執筆:遠藤由次郎)

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