インバウンド特集レポート

岐阜・八百津町が日本一の高さを誇るバンジージャンプに期待すること|アウトドア特集

2021.05.12

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2020年7月、人口約1万人の岐阜県加茂郡八百津町に、日本一の高さを誇るバンジージャンプが誕生した。タレントの江頭2:50さんがYou Tubeチャンネルの「エガちゃんねる」で、宮迫博之さんとコラボした際の舞台となったことでも知られる(2021年5月時点で、再生数は前後編あわせて770万回)このアウトドア・アクティビティは、際立った観光資源のない小さな町の〝起爆剤〟となるのか。

八百津町地域振興課の小島将司氏ならびに、「岐阜バンジー」を運営するバンジージャパン株式会社にお話をうかがった。

 

日本最高クラスの高さを誇る橋を観光資源にするために

「岐阜バンジー」が設置されているのは、全長約227キロで愛知、三重、岐阜、長野の4県を流れる木曽川の上流部、新旅足橋(しんたびそこばし)である。もともと八百津町には1955年に建設された丸山ダムがある。しかし、治水機能の強化や不特定利水という新たな目的のために、もとより20メートルほど高い新丸山ダムを建設している(2029年度完成予定)。地域における新旅足橋の位置づけについて、八百津町の小島氏は次のように話す。

「新丸山ダムが完成すると、旧国道418号線が水の中に沈みます。そのため付替道路として、今の国道418号線が建設され、2010年に新旅足橋ができました。この国道418号線は、潮南地区と呼ばれるエリアに住む住民にとって重要な生活道路です」

新旅足橋の橋脚は高さ約100メートル、橋の最深部までは200メートルを超える。全長は462メートル。まさに日本最高クラスの高さを誇る橋である。

「重要な生活上のインフラであるとともに、貴重な観光資源でもあると考えています。しかし、その高さをどのようにアピールしたらいいのか、考えあぐねていました。そんな折に、バンジージャパンさんとめぐりあいました」

提供:バンジージャパン株式会社)

 

2020年夏のオープン以来、コロナ禍でも5000人以上が体験

バンジージャパンは、日本のバンジージャンプにおけるパイオニアといえる存在だ。ニュージーランド人のチャールズ・オドリン氏とボー・リタリック氏の2人が、2007年に立ち上げた同社は、現在日本全国に8箇所のバンジージャンプを運営している。

特徴的なのは、営業している場所である。「日本で唯一のブリッジバンジージャンプの技術を持っている」と同社ホームページでも謳っているように、自治体や国が管理する橋を利用している。彼らはそれを〝インフラツーリズム〟と呼んでいる。当然、民間が管理する場所とは異なるハードルがあるが、それでも八百津町は彼らとの協業を選んだ。なぜか。小島氏は次のように説明する。

「当然、町としては地域活性や観光誘致につながるという狙いを持っていました。実際、このコロナ禍においても2020年8月のグランドオープンから今日に至るまで、5000人以上の方にバンジージャンプを楽しんでいただきました。町としては、年間約1万人の参加者を見込んでおりますが、ほぼその想定通りになります」

提供:バンジージャパン株式会社)

バンジージャンプの姿が見える橋のたもとにあるスペースでは、見学者も少なくないという。以前は見られなかった賑わいが生まれているといえる。

商業者のみなさんからも、〝例年より来客が増えている〟という声も聞こえてきます。今後は、この賑わいがより大きくなることや、他のアウトドア・アクティビティ事業者の進出、新規起業希望者の増加などにもつながっていくことに期待を寄せています」

 

計画から営業開始まで、4年以上の期間を要した理由

しかし、先ほども書いたように、公的なスペースを使ってのアクティビティゆえのハードルもあった。運営計画から開業に至るまで、4年の月日がかかっていることも、その証左といえる。具体的には、アクティビティを実施するうえでの安全性や地域住民に与える影響を考慮する必要があった。小島氏は続ける。

「町としては、他県でバンジージャパンが運営するサイトの視察を行い、聞き込み調査をするところから始めました。群馬県みなかみ町や猿ヶ京、奈良県開運バンジー、八ッ場ダムのある長野原町などです」

公共のインフラを利用してきた実績を持つバンジージャパンは、安全安心の運営を行うため、ニュージーランドの安全基準に従って現場スタッフに訓練を施し、認定を受けさせているという。ご存知の人も多いだろうが、ニュージーランドは、アウトドア・アクティビティの安全基準を国レベルで整えている国である。

アクティビティを運営するという意味では、バンジージャパンという実績と信頼を持っている事業者と組むことで確保できる。一方で、国道という“公道”を利用するという側面で、さらなるハードルがあった。

「正直にいって、最も時間がかかったのが、道路占用許可を受けるところです。国道418号線は岐阜県が管理している道路ですので、岐阜県との話し合いで約3年の月日を要しました」

(提供:バンジージャパン株式会社)

話し合いの内容は、安全面にかかわることがほとんどだったという。

「プラットホーム(ジャンプ台)を設置したことによる橋への影響を確認するための構造計算や、道路上にスロープを設置しなければいけないため、自転車などの進入角度の検証、運営方法の安全確認、地域住民への騒音などの検証、住民への説明会などを行いました」

県としても、「国道を使用したバンジージャンプ」というのは前例がなかったため、これら安全面での確認は非常に苦労していた様子だったと小島氏はいう。

 

尖ったアクティビティを〝起爆剤〟で終わらせないために

岐阜バンジーでは、ウイングスーツと呼ばれる、ムササビの飛膜(羽)を装着することを必須としている。200メートルを超す高さと相まって、空を飛ぶような感覚が味わえるのだとか。

バンジージャパンには、「鳥になったようだ」「風に乗って飛んでいる感じがする」など、高い満足度を示す感想がたくさん届いているという。

(提供:バンジージャパン株式会社)

ここまで尖ったアクティビティであれば、近隣県のみならず、全国ひいては全世界から〝日本一〟のバンジーを目的にした観光客が、八百津町を訪れるだろう。ただし、それだけでは地域経済にもたらす影響は局所的であり、限定されたものであるといえる。

バンジージャンプは十分に起爆剤となりうる存在であるが、それだけでは十分とはいえない。大きな経済効果に結びつけるためには、小島氏が語ってくれたとおり、バンジージャパン以外にも魅力的なコンテンツを提供する事業者が欠かせない。それはアクティビティだけではない。飲食店や宿泊施設、小売店などにも、「わざわざ遠くからやって来た甲斐があった」と思ってもらえるサービスや体験価値を提供する必要がある。

その意味では、地域に根ざした既存の事業者の奮闘に加え、移住者や地域の若者による起業なども欠かせない。逆にいえば、そうした地域に新しい風をもたらす人たちを呼び込む施策を打っていくことも重要ではないだろうか。実際、過疎化が進行したエリアにもかかわらず、観光で潤っているところは、UターンやIターンで移住してきた魅力ある事業者や人が活躍している例が少なくない。

とはいえ、公的な場所で「リスクがある」と見られがちな尖ったアウトドア・アクティビティを実施している岐阜バンジーから学ぶところは多い。こうした事例が増えていくためには、バンジージャパンのように、安全管理を徹底できるプロフェッショナルな事業者をいかに見つけ、ウィンウィンの関係性を築けるかがポイントになってくるだろう。

(取材/執筆:遠藤由次郎)

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