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帯広発、航空機のシェアリングサービスは日本の観光を変えるか? |富裕層特集

2021.05.25

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(提供:株式会社エアシェア)

「日本の観光業が苦手としている」と指摘され、近年、JNTOや観光庁をはじめとする関係各所がテコ入れを図っているのが富裕層(ラグジュアリー)市場である。

富裕層と聞いて、みなさんはどんなことをイメージするだろうか。5つ星ホテル、ミシュラン・ガイドのお墨付きレストラン、高級品が並ぶセレクトショップ…

どれも不正解ではないだろうが、完全なる正解ともいえない。富裕層の価値観はより多様化し、ステレオタイプにあてはめることが難しくなっているからだ。そんななかヒントとなるのは、富裕層向けメディア『LUXURY TRAVEL MAGAZINE』が指摘する、「旅行のパーソナライゼーション」と「あまり知られていない目的地」という富裕層の旅行に対するトレンドだ。

後述するように、この2つの潮流を掴むためには「飛行機のチャーター」がポイントとなる。そこで本稿では、小型航空機やヘリコプターを〝シェアリング〟によってチャーターできる帯広発のサービス「エアシェア」について触れていきたい。

 

利用客、利用されていない航空機のオーナー、パイロットの三者をマッチング

エアシェアは2016年に北海道・帯広で生まれたスタートアップ。代表を務めるのは、自身もパイロットの資格を持ち、小型航空機のオーナーでもある進藤寛也氏だ。

(提供:株式会社エアシェア)

「我々が始めたのは、簡単にいうと航空機のシェアリングサービスです。航空機に乗りたい方、パイロット、航空機を所有しているオーナーさんの三者をマッチングさせるプラットフォームで、日本初のサービスです」

飛行機のチャーターは、とくに新しい概念ではない。しかし、個人が所有している機材を第三者に貸し出したり、操縦士の免許を持つ人を呼び込んで操縦してもらったりするという仕組みはこれまでなかった。そこで進藤氏はIT技術を導入することで、飛行機のシェアリングというプラットフォームを築きあげたのである。その理由について、同氏は次のように語る。

「正直に話をすると、僕は小型航空機のマニアなんです。空を飛ぶための手段として最も自由である小型機が大好きで、自家用のパイロット免許も取りましたし、小型航空機も所有しています。小型航空機の所有といっても値段はピンきりで、僕の場合は共同で購入したので、乗用車1台分くらいでオーナーになることができます。一方で、この小型航空機のチャーターという業界は、どんどん先細りしています。このサービスを立ち上げたのは、30年後にはなくなっているのではないかという危機感があったからです」

なぜチャーター会社ではなく、シェアリングサービスだったのか。その理由は遊休機材の活用や有資格者のマッチングによって料金を抑えられること、そして遊休機材の活用によって業界全体を盛り上げたいという思いがあったからだ。進藤氏は続ける。

「三者間マッチングをするメリットは、ひとつには料金が安くできるということがあります。料金が手頃になれば、これまでチャーター機とは無縁だった方にも利用していただけるようになります。結果的に、小型航空機業界の全体が盛り上がることになると考えています」

 

八丈島から能登半島にダイレクトに移動することも可能

小型航空機業界が盛り上がれば、富裕層を中心とした国内外の観光客の需要喚起もできる。

一方で、富裕層の旅行トレンドとして「旅行のパーソナライゼーション」と「あまり知られていない目的地」が指摘されている。その両方を実現させようとするならば、〝航空機のチャーター〟はポイントになるだろう。なぜならば「あまり知られていない目的地」の多くは交通が便利な場所にはないからだ。

(提供:株式会社エアシェア)

「たとえば伊豆諸島をめぐる旅行をしたいとき、パイロットと機材をマッチングすれば、自由に島間を移動できるようになります。ちょっとこの島は自分には退屈だなと思えば次に移動すればいいし、逆に予定時間で堪能し切れなかったら延泊すればいい。そんなふうに自由な旅行が可能になります」

伊豆諸島にも飛行機の定期便や日本で唯一のヘリコミューター路線、フェリーなどが運航している。しかし、いずれも羽田空港や調布飛行場を経由しなければならなかったり、定刻があったり、時間がかかったり、席数が限られているなどの制約がある。要は不便なのだ。

「紀伊半島や能登半島もかなりアクセスが不便ですが、どちらも南紀白浜空港と能登空港が利用できます。このように、陸路や船で行くには不便なところでも、航空機を使うことで意外と簡単に行けるところは少なくありません。実際、日本には全国各地に147の空港があり、ほとんどの空港が利用できますし、それ以外にも発着場や農道空港、ヘリポートが無数にあります」

たとえば伊豆諸島の八丈島で〝島寿司〟を味わった数時間後に、能登半島で輪島塗りの体験をし、その夜には五島列島の小値賀空港に降り立って夜釣りを楽しむ、というようなことも可能になる。

 

2020年のローンチ後、広がり始めたエアシェアの可能性

一流のホスピタリティ企業として世界中で知られる存在のフォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツは、「Introducing Uncharted Discovery」という企画を立てている。このプライベートジェットで移動する21日間の旅行企画は、「ニューオーリンズ−パパガヨ半島(コスタリカ)−マチュピチュ−ブエノスアイレス−南極大陸−ボゴタ−パラダイス島(バハマ)」をめぐるものである。

こうした旅程をこなしたうえで、富裕層の高い満足度を担保するためには、交通の便がよいとはいえない各地をダイレクトに結ぶことが欠かせない。同グループがプライベートジェットを用意しているのは、そうした背景があるからにほかならない。一般の路線では乗り継ぎや遅延などのストレスが想定されるからだ。

(提供:株式会社エアシェア)

とくにコロナ禍の発生によって、混雑が見込まれる観光地は避けられる傾向が強まると考えると、富裕層に刺さる要素として、定番観光地以外の場所に注目度が高まっているといえる。実際、エアシェアにもコロナ禍後を見据えた、協業の話が入ってきている。

「大変光栄なことに、2020年のローンチ後、旅行会社さんやその関連会社、宿泊事業者の方、あるいは自治体さんなどから、〝こんな企画はできませんか?〟という相談が増えてきています。2021年に入ってからは、毎週2〜3本のペースです」

もちろんエアシェアでは、エンドユーザーである観光客に、ダイレクトに予約してもらいたいと考えている。ローンチした2020年度は100フライトのマッチングを目標にしていた。しかしコロナ禍によって目論見は崩れ、片手で数えるほどにとどまった。

一方で2年目の今年は、コロナによる混乱が収まっていないなかでも月に1本以上の定期的なマッチングが実現しているという。とはいえ、目標としていた100フライトの実現、さらにはそれ以上の結果を出すには、段階を踏んでいく必要性も感じているようだ。

「現在(2021年4月の取材時)、日々の変動はありますが、登録数は飛行機が9機、ヘリコプターが22機、パイロットが30名です。数字的には、一般のエンドユーザーのみなさんが、気軽にエアシェアを利用し、自分で旅行を企画する段階まではいっていないと考えています。ですから、まずは旅行会社さんや自治体さんと手を組みながら、認知度を上げていく必要があると思っています」

とくにアクセスが不便な地方を絡めた企画だと、エアシェアの利用価値を感じてもらえる可能性が高まるだろう。すでにいくつか具体的な動きもある。

「個人でツアーコンシェルジュをしている方は、エージェントとして企画もしながらツアーガイドとして航空機にも同乗します」

(提供:株式会社エアシェア)

さらに進藤氏は、エアシェアに登録したパイロットにも期待を寄せている。

「少し先の話かもしれませんが、エアシェアに登録しているパイロット自身が、自分の付加価値を高めていくことができると理想的です。ガイドとしての能力を高めたり、通訳を行なったりすることで、ファンやリピーターを獲得していく。そのような動きが出てくると、エアシェアがもっと盛り上がるのではないかと思います」

 

帯広から全国、そして世界へ

最後に、なぜ帯広で事業を行っているのかを聞いた。

「簡単にいえば、私が帯広市在住だからです。大学に進学してから北海道を離れましたが、Uターンで帯広に帰ってきて、エアシェアとはまったく関係のない家業である鉄工所で働きました。一方で、帯広市は起業支援やスタートアップの育成に力を入れていまして、そのプログラムに参加したこともきっかけとなって、エアシェアを起ち上げるに至りました。エアシェアのようなITサービスであれば、地方にいても日本全国や世界に展開できる。そういうことを示したいという思いもあります」

(提供:株式会社エアシェア)

冒頭にも書いたように、JNTOや観光庁を中心に、富裕層市場へのテコ入れを図ろうとする動きが活発化してきている日本の観光業。そのなかにあって、エアシェアのような存在は、既成概念を打ち破るような斬新な企画や旅程を生み出す大きな助けになるのではないか。進藤氏の言葉から、そのような可能性を感じさせられる。

(取材/執筆:遠藤 由次郎)

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